最終話 エピローグ・魔女といた日々

 あの時作った美久理さんの写真集が発売されることはなかった。

 印刷にかかる費用は祖母が出した。

 その代わり、祖母の要求で写真集は二十冊作られた。

 僕たち三人と祖母がそれぞれ一冊ずつ。

 残りの十六冊は八冊ずつ美久理さんと姫香さんに渡された。

 それを自分の作品として人に見せる機会があるかもしれないから、と祖母は二人に言っていた。

 祖母が余分に渡した八冊が、もしかしたら役に立ったのかもしれない。

 美久理さんは結局二十歳を過ぎても綺麗になる一方で、今はモデルとしてファッション誌などでしばしば見かける。

 そうなることを、僕と姫香さんはあの写真集を作っている時にもうわかっていたような気がする。

 今の美久理さんの写真は、笑顔で写っているものが多い。

 当時僕たちが綺麗だと思っていた憂鬱そうな顔は、アクセントとしてたまに入るだけだ。

 僕たちが作った物とはまた別の、プロのカメラマンが撮影して商品として作られた写真集も発売されている。

 美久理さんの初めての写真集には、あの時の写真が二枚、おまけとして載っていた。

 姫香さんの部屋のフローリングの川に寝そべっている水着姿の写真。

 それから裸足で机の上に座り、ソーダを飲んでいる写真だ。

 もし三枚載せてもらえていたら、あの木の椅子の写真が三枚目として入ったはずだと、姫香さんは悔しがっていた。

 そんな姫香さんもこの頃注目され始めたみたいで、一度夕方のワイドショーで紹介されていたのを僕は見た。

 今も祖母の弟子をしながら作品を作っていて、たまに祖父母の家に帰ると姫香さんの部屋では彼女の創作家具が増えたり減ったりしていて、そして壁の龍はいつもそこにいるのが見られる。

 そして僕は、大学でロボットについて勉強している。

 あの日々で僕の人生に影響を与えた物が、あの動くちゃぶ台の蜘蛛だったなんて思うと笑いそうになる。

 別のものが僕を別の人生に導いていてもよかっただろうに。

 きっと僕は大学生の間に、あのちゃぶ台の蜘蛛みたいな、動く家具を作る。

 そしてそれを僕は披露する。

 大学の友達か、もしくは寺山か三木か、ひょっとしたら美久理さんに見せる。

 僕の望む世界は、ようやく生まれ始めた。

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僕らのために魔女よ育て 近藤近道 @chikamichi

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