エイプリルフールを基本の題材として複数のお題を絡めて紡がれた、愛と不実の短編小説でございます。
福渡 慶子は細やかな嘘をついた。それはおおきな喪失に繋がった。芳乃 加寿美は裏切りの嘘をつかせた。それはみずからの喪失に繋がった。ひとつは不倫された女、もうひとつは不倫していた女。どちらにも人生があり、どちらにもやり場のない諦観があったのだと思います。そうしてどちらも喪った……。
それにしてもなんて美しい描写でしょうか。
細い筆で繊細に画かれた水彩画のような。読んでいる最中に目蓋をおろすと、美しい風景がぶわりと拡がり、桜の水鏡に取り込まれてしまいそうになるほど。美しい表現に溺れる、とはまさにこのことをいうのだと思います。悲しくも美麗なる表現の数々に感嘆しながら、拝読致しました。