エピローグ

私は一週間の自宅謹慎を言い渡された。これは正式な処分ではない。もっと厳しい罰を決めるまでの期間、小さな罰だ。罪状は犯人の殺害、不法な凶器を使ったことによるもの。

 覚悟はしていた。だから、私は一週間を静かに過ごす。

 もうあのような事件は御免だ。

 キルアは病院に運ばれたが、私が謹慎を言い渡され、家にいる間に電話があった。私への礼と事件解決を祝う言葉だった。

『ご主人様、久々の長い休暇ですね』

 生活支援システムと話すのも久々な気がする。

「そうね、今日で終わりだけれど」

 だからと言って会話を楽しむつもりもなく、本を読む。

『今日はどうされますか。お好みのメニューで調理しますが』

 まるで私に気を遣ったかのようなことを言うので、窓の外を見遣ると夕日が視界に入る。 

 ページをめくりながら私は任せる、とだけ告げて本を読むのに集中する。

 夕日を見ると思い出してしまう。あの顔を、笑みを、声を。

 それが嫌でカーテンをずっと閉めていたのだが、集中し過ぎていたせいか、システムが勝手にカーテンを開けていたのにも気付けなかったのだろう。

 また集中していたのか、生活支援システムが天井から伸ばしてきたアームで無理やり食卓につかされるまで、料理が出来ている事に気付かなかった。

 少し怒りを含んだ音声で説教を受ける。

 私は、観念して食事を取った。

 今日は一週間の最後、明日には処分を聞きに警視庁に赴かねばならない。


 翌日、警視庁のビルに来ていた。

 だが、一係の部屋ではなく、局長室に真っ直ぐ向かう。

 扉をノックすると、中から入るように声が聞こえる。

「待っていたよ、秋月君」

 局長が座ったまま私に声をかける。

「早速だが、今回の事件の処分を言い渡そう。覚悟はできているかね」

 私は、はいとだけ答える。

「秋月リゼ、捜査官。君の処分は今回の事件をまとめた報告書を一人で全て作成し、提出すること。以上がテミスシステムから出された処分だ」

 彼がうっすらと笑みを浮かべる。

 私は、少し遅れて反応した。

「それだけですか」

 拍子抜けだ。

 もっと厳しい罰。最悪、治警を辞めさせられるのではと覚悟していた。

 だが、テミスシステムが下した処分は軽いにも程がある。

「不服かね」

 局長の言葉に私は少し躊躇う。

「規則では、支給された装備以外を用いての、犯人の処分は確かに重罪だ。だが、こうもある。何らかの問題でそうせざるを得ない状況に陥った場合に関しては、犯人の処理または確保を優先せよ、とね」

 奴が私のハンターを使えなくしたことで、キルアから受け取った銃を使ったことは、その規則を守ったことに等しい。罰がないわけではないが、相当軽減される。

 その証拠が、報告書を一人で作成しろとテミスシステムが下した指示だ。

「君は優秀だ。私としても、まだこの仕事を続けてもらいたい。まあ、強要はしないがね」

 局長は穏やかにそう言った。

「ありがとうございます」

 私は深く頭を下げ、局長室を出た。

 何とも複雑な気持ちのまま、私は一係の部屋へ赴く。

 早速、今回の事件の報告書を作るために行かなくては。

 扉を前に少し迷う。一週間顔を見せていないだけで、入り辛くなる。

 だが、迷っても仕方がない。私は扉を開けた。

 中には一係の仲間、全員が揃っていた。

「リゼ」

 一番に私の元に来たのは、アレンだ。

「どうだった。処分は」

 他の皆も集まってくる。

 報告書の作成が処分だと告げる。

「そうか。良かったな」

 同じように複雑な表情をしていたが、笑顔を浮かべたアレンは、心底安心した声で言う。

「また、頼むぜ」

 手を差し出された私は、彼と握手を交わす。

 そこに通信が入り、係長が応じた。

『一二区で不審な遺体を発見。治警は直ちに急行してください』

 機械音声がそう告げる。

「事件だ。行くぞ」

 係長の言葉に全員が返事をした。

 リゼも事件を優先するように言われていたので、ついていく。


 日々、事件が溢れるこの街、この国、この世界。私達、警視庁治安維持課一係は、システムの目を欺いて悪事をはたらく犯罪者を追う。

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治安維持課 滝川零 @zeroema

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