第3話 施策
秋になり収穫を迎える。
端的に言えば収穫量は増えたのではあるが、三圃制にした初年度であり、4年目が終わってみないと何とも言えない。
只、主食である小麦以外の畑は、主な、大根等の根菜、豆類、葉物野菜、豆類という順の四圃制で回していて、こちらは2年目つまりは来年の秋にはその効果が判る見通しだ。
「おお、これは坊っちゃん。こんな所に何の用ですかい?」
俺は今、村に在る唯一の商会である、べレア商会レヤタ支店リザルア営業所に来ている。
この商会は王国一の商会で、国の約4割の地域に出店していて、取り扱う物量に関してはその半数を担っている大商会だ・・・というのは、今、俺に話し掛けて来たこの男、ラザネラ営業所長の受け売りなのだがな。
「例の物は出来ているかな?」
「ご注文の品は出来ていますよ・・・というより、コレを当商会で製造、販売をしていきたいのですがどうでしょうか?」
「勿論その積もりだよ」
なぜ、この商会に来たかと言うと、夏頃に頼んだ品物が出来たという報せを受けたのでやって来た。
何を注文していたかと、あの館の書庫の中に手押しポンプなる物が載っている本を見付けたからだ。
これが有れば日々の水汲みが楽になると思い、それを、館の主であるアシュタロスに頼んで書き写す事の承諾して貰い、その上、紙とペンを用意して貰ってそれを書き写した物を、この商会に初夏頃渡したのだ。
「商人と取り引きするなら、必ず書面として残して置きなさい」
と、アシュタロスはアドバイスをくれた。
「それで、お渡し致します報酬に関しましてですが」
「それなら、この契約書通りに毎月、利益の内5%を僕の口座に入れてくれれば問題無いよ」
「えっ!?その程度で宜しいのですか?」
「問題ないよ。共存共栄がモットーだからね」
「至言ですね。わかりました。それで差配させて頂きます」
まぁ、アシュタロスの受け売りたがら、ちょっと気が引けるけど。
それから、契約書なる物を認め、無事、俺の商会との最初の話し合い・・・いや、アシュタロスの所の蔵書の中には会合というのが載ってあったなぁ。
村に取り付けた手押しポンプを利用するには、利用税として一回
税の新設に、最初は不満の声もあったが、その有用性に因り、しばらくすると不満の声も無くなった。
「新設した取水税だが、今月分は大体大銀貨1枚ほどの収入になったな・・・大した物だな」
この国のお金は、銑貨、小銅貨、銅貨、銀貨、大銀貨、金貨の6種類在る。
金貨以外それぞれが10枚で上位のお金に両替出来る。
村民1世帯の年収は大体大銀貨5枚ほどだ。
だから、1ヵ月の税収としては
その内銀貨8枚が今後の運営費になる。
冬になった。
辺り一面薄らと雪化粧をして、寒さも一段と増して来た。
それまでの冬は、雪が降り始める前迄に、雪解け迄の凡そ4ヵ月半の間の食料を確保して、 家の中で暖炉にあたりながら蔦や麦わらで生活用品を作るのが精々だったが、今年の冬は冬小麦の作付けも始まったので、晴れた日には寒い中麦畑を見回る作業が増えて、冬季の運動不足を補う事が出来る様になった。
まぁ、俺は俺で、アシュタロスの館の蔵書の中に、植物図鑑も有ったので、冬の野菜不足の解消を目標とし、冬でも採取出来て食べれる野草を紙に書き写して村の周りを散策している所だ。
それにしても、植物図鑑の植物の絵は実物をそのまま貼り付けた様な絵で、絵とはとても思えなかった。
「ああ、それね?それは写真という技術で写した物よ。昔は貴方の居る国でも在ったのだけど、何度も有った戦争で失われてしまったわね」
そう言うアシュタロスの横顔は何か物
「・・・これは・・・えーと【ベニスロス】で・・・よし、食べれるな。で、花は香料、葉は食用、茎は煎じて喉の薬に・・・へぇ、根っこも別の野草と混ぜれば薬用になるのか」
厳寒にも拘らず、赤く桜の花をひとふた周り小さくした可愛らしい花を咲かせている野草を触りながら眺めていた。
「そこに居るのはルセルトじゃない。そんな所で何してるの?」
俺の後ろから、そう声を掛けて来たのは、幼馴染みのリッテーリアだ。
「リリア。こんな季節でも、食べられる野草を探していたんだよ」
「そうなの?」
リッテーリアがそう言うと、俺は彼女の頭に、その花を挿してやる。
「うん。似合ってるよ」
「そ、そう?・・・ありがとう」
リッテーリアは、仄かに顔を赤らめはにかんだ。
「それよりルセルト。そんなこと何時覚えたの?」
誤魔化せなかった。
襟を左右掴まれ揺さぶられた結果、自白した。
「ふーん。そんな所が在るの・・・じゃあ、あたしも連れてってくれない?」
・・・多分、拒否権は無いんだろうなぁ。と、思ったのであった。
小さな領主 常世神命 @4-1-13
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