第2話 巡視

 昨夜、親父の蘊蓄モードに精神的に伸された翌日、オレは頭があまりスッキリしないながらも、領内を見て回る事にした。





「おっ!これは坊っちゃん。おはようごぜぇますだぁ」


 暫く歩いて畑の方に来ると、領民から挨拶をされる。


「おはようドルさん。今日も朝から精が出るねぇ」


 オレは、農家のドルさん(47才)に挨拶と労う。


 農家の朝はどこでも早い。

 今日、オレが起きたのは三つ刻で、いつもより早起きをした方だが、このドルさんは日もまだ昇らない、凡そ二つ刻約午前4時には起きて農作業の準備などをしているという。


「それで坊っちゃんは、今日はどうしたんですかい?」


 と、ドルさんが尋ねてくる。


「今日か?昨晩、父から農業政務官という役職に就けて貰ったから、先ずは、この村の農業を知るために、見て回る事にしたのだ」


「へぇ。という事は坊っちゃんに決まりですかい?」


 ドルさんはそう言う。


「ドルさん。まだ継承の事は決まってないし、まだ継ぐつもりはない。只、今はこの役職で出来る限りの事をして、みんなの暮らしを良くして行きたい」


 オレはあわてて訂正をして、これからの事に関して、大まかなビジョンを説明した。


「その三圃制というかい?やれば収穫高が増えるちゅう話しだが、失敗したらどうするんだい?オラ達おまんま食い上げだぞ」


 ドルさんは当然ながら、これからの展開に難色を示す。


 とは言え、ハイそうですか。

 と、引き下がる訳にはいかない。


「今後、計画が失敗して、収穫高が減少したら、これまで五年間の収穫高の平均値を割り出して、そこから減少した分を金銭にて補填するよ。その代わり、計画が成功して収穫高が増えたら、平均値から上の分は特別税として、いつも納める税とは別に全て徴収するけどいいよね?失敗してもお金が貰えて、成功してもいつも手元に残る分は税として持って行かれる事は無い。ただ、収穫高がどんなに増えても、ドルさん達の手元には増収分は少しも残らないけどね。だけど、どちらにしてもドルさん達ははしないのだからいいね?損をするのは嫌だ。だけどたくさん欲しいなんて甘い話しがある筈無いのは、言わないでも分かるよね?」


 オレがそう話すと、ドルさんの顔がみるみる青ざめていくのが分かる。


 ギャンブルで言えば、チップは掛けたく無い。

 だけどお金は欲しい。

 というふざけた話しはある訳が無い。


 そもそも。未来が分からない以上、農業その物がギャンブルの様な性格を持っているので、今更そんな甘い話しは通らない。


 だけど、なぜドルさんの顔が青ざめるかと言うと、その前に、オレの居るこの領地の税は三割だ。

 それで、収穫高の平均値を10とすると、ドルさん達には7が手元に残るが、今後収穫達が30になろうと極端な話し千になろうと、ドルさん達の手元にはいつも7残らない。

 当然なので、コッソリ隠れて作っている物もしらみ潰しに全て暴き、ドルさん達の手元には7の収穫物しか様にするので、ドルさんは青ざめているのである。


 しかし、そこは後の祭り。

 ドルさんはそう言ってしまったので、ドルさん一家は今後村八分になるであろうが、致し方ない事だ。

 ドルさん程の発言力の有る領地内の有力者がんだから。





「当然、今後ほかの領民からどんなに訴えがあっても7しか残さないのは変えるつもりは無い。もし変更する場合は、凶作の時、収穫高が0でも税は、収穫高を10として計算し、その内の3は必ず納めて貰う事になる。という取り決めなんだけどいいよね。収穫高が10以上の年に蓄えておけば困る事は無いよね?三圃制の導入に因って、収穫高が場合に因っては50になる年だって有るがあるから、そういう時の税は3を引いた残り35が手元に残るんだから、質素倹約を常としていれば問題無いものね。まぁそうそう、そんな年はそう無いけどねぇ。そうそう、収穫高には家畜や伐採して売却した木材なんかも含まれるから、注意してね。これ、要点と注意事項が書かれた羊皮紙だから、字の読める人に渡して読んで貰ってね。因みに、今年からやるから、従わない違反者は、それなりの罰があるから覚悟しといてね」


 あーあ、オレとしては、みんなに豊になって貰いたかったけど、んだから仕方ないよ。

 今後、豊になる事は無いけど、凶作の年でも領主が最低限の生活の保障するから事は無くなったので問題無いよね。





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