異能喫茶へようこそ!

@MoriNo123

第1話.喫茶タンジーへようこそ!

異能力。

  人とは一風変わった力、特別な能力。またはその人独自の能力。




「さあ、観念しろ・・・」


 漆黒のゴスロリ衣装に身を包んだ少女が口元を吊り上げ、対象ターゲットにジリジリと迫り、距離を詰める。


「さあ、我が漆黒の炎に抱かれるがいい!」

突如、 少女の右腕から言葉通りに、漆黒の炎が発生し、対象ターゲットを炎で包み込んだ。


「ハハハハハハっ!! 我に狙われた時点で貴様の人生にはピリオドが打たれていたのだぶっ!?」


 決め言葉を言おうとしていた少女の頭がポカリと殴られる。


「遊んでんじゃねえよ、夜子やこ!! 何パンをトーストするのに能力使ってんだよ!?」


 夜子と呼ばれた少女は涙目で頭をさすりながら、殴った男に反論する。


「で、ですが清兎殿! あのオンボロトースターではパン1枚にも相当な時間をかけてしま・・・」


「お客に、変な火で焼かれたトースターなんてだせるか!」


「変な火!? 何てことを・・・! 我が闇に侵されし、神聖なる炎を変な火ですと!?」


「闇に侵されてんのか、神聖なのかどっちなんだよ!」


 厨房の一角でしょうもない口論を繰り広げる清兎と夜子に冷たい一声が割って入る。


「どうでもいいけど、お客さん待ってるわよ」


 白髪ショートヘアーの美少女が清兎と夜子に呆れたような冷たい視線を向ける。


「「す、すみません冷奈れいなさん・・・」」


 その視線に気づいた二人は、顔を青ざめてぎこちない笑顔でその場に立ち尽くす。


「トーストなら、私が作っておいたので清兎は早く持っていって頂戴」


「いつも本当にすみません」

清兎はお盆にを両手で抱え、謝りながら厨房を飛び出していった。


「はあ・・・」

冷奈がこめかみを指で押しながらため息をつく。


「オー、レイナ。ため息をついてはダメですよ?」


 ブロンドヘアーの外国人女性が、店の従業員入口からニコニコと微笑みながら姿を現した。


 背丈は一般男性よりも高く、下手すれば180cmはあるのではないかというほどだ。また、大きいのは身長だけでは無い。そのためかジェイナは身長以上に大きく見えてしまう。


「ジェイナさん・・・なんで右手ドアノブ持ってるんですか・・・?」


 


「うん? コレですか? 不良品だったヨウデ、取れてしまいマシタ」


  ハハハと声高らかにジェイナが笑う。

その顔には一切の悪気もこもってない。


「流石、伝説の悪魔に取り憑かれしジェイナ殿。超怪力の能力は日に日に磨きがかかっておりますわね」


キラキラと目を輝かせる夜子を他所に、冷奈はさらにため息を吐く。


「全く・・・これ、雷市らいちさん直せるかしら?」



「つ、疲れた・・・」

  店の休憩室のソファーに清兎が身体を沈める。


「何で、たった5人しかお客さんを相手にしてないのにこんなに疲れるのかしら・・・」

 冷奈もパイプ椅子に腰を下ろし、コーヒーカップに口をつける。


「おい夜子! お前、次また変な事に能力使ったら一週間、にするからな!!」


「な、なんですと!? そんな、やめたまえ清兎殿!」


 清兎の言葉を聞き、夜子が半泣きになる。


 また清兎と夜子が言い合っていると、休憩室のドアが音を立てて開いた。


「よう、お前ら。またどうでもいいこと言い合ってんのか?」


 休憩室に入ってきた青年が苦笑いを浮かべる。


髪はクリーム色の冷奈の髪とは少し違う銀髪で、身長こそは高くはないものの、冷静な顔つきからは大人の雰囲気が溢れている。


白夜びゃくやさん、おはようございます」


 清兎が身体を起こし、青年に挨拶をする。


「お前ら、俺が来たってことで多分察してるだろうが、依頼が入った」

、その言葉を聞き休憩室内の全員が真剣な顔つきになる。


「俺達の能力の見せ所だ・・・絶対に失敗は許されないぞ」



 喫茶タンジー。古くから茶々市に店を構えている古風な喫茶店だ。

 大人気というほどの繁盛ぶりでは無いものの、ひっそりと街の自然と同化するように佇むその店に魅力を見いだし、常連客となるものもそう少なく無く、客からの信頼も厚い。

 その他には特に店自体に変わったところはない。


 だが、たった一つ。たった一つだけ喫茶タンジーは他の喫茶店とは大きく違った点がある。


それは、


「うおおおお!!」


「清兎!! お前は回り込んでそっちの道を抑えろ!! ヤツは俺が誘導する!!」


「判りました!!」


白昼から、住宅街で逃走劇が繰り広げられる。


は清兎と白夜から必死に逃げる。

狭い路地に逃げ込んだ瞬間、目の前に清兎が颯爽と姿を現す。


「ドンピシャだ!!」

勝利を確信した清兎はにやりと笑い、に飛びかかる。


清兎の手にフサフサとした感触が伝わる。


「確保おお!!」


清兎が大声で叫ぶと、白夜が息を切らしながら追いついてきた。


「良くやった! そいつで間違いないな!?」


清兎はポケットから1枚の紙を取り出し、そこに載る写真とを見合わせる。


「間違いないです! 横山さんの愛猫、タマサブロー君です!」


「ニャー・・・」

清兎の腕の中で、タマサブローがふてぶてしく鳴いた。




「ほおんとに、ありがとうねえ」


「いえいえ、仕事ですから。それに、横山様の頼みとあってはお断りは出来ませんから」

白夜が眩しすぎる笑顔を作る。


ポッチャリ体型のご婦人が、タマサブローを抱えながら、白夜に礼を言う。


喫茶タンジーでは、『お悩み相談』を受け付けてい

る。


身の回りで困っていること、手伝って欲しいこと、その他諸々を喫茶タンジーに相談できる。


「あら、ありがとね。それで、報酬の話なんだけど・・・」


「はい、今回は合計で2500円です」

白夜が愛想よく微笑みながら、値段を告げる。


「あら! そんなに安くていいの? 悪いわねえ」


喫茶タンジーの報酬金額は依頼内容によって大きく変化する。

だが、貧しい人達の為にも報酬金は決して高くは見積もらないようにしてある。


あくまでも、喫茶タンジーの本職は飲食店経営なので、『お悩み相談』では高額な金額は取らない。


常連客獲得や、宣伝の為になれば良いといった程度だ。


「では、またお困りの際は喫茶タンジーをご利用ください」



「まったく、冷奈さん達も来てくれればもっと早く依頼を済ませることが出来たかもしれないのに」


依頼終わりの帰り道、清兎が恨めしそうにぼやく。


「まあ、そう言うなよ。あいつらもこんな依頼に労力を使いたくなかったんだろう」


白夜は苦笑いをしながら、清兎をなだめる。


「それに、探し物だったら俺の『千里眼』が最適だしな」


もう一つ、喫茶タンジーには変わった点がある。

いや、という言葉の枠には収まりきれないだろう。


喫茶タンジーの従業員、全員がを持っているのだ。


異能力。人とは一風変わった力、独特な力。そして、


超能力と呼ばれることもある。



例えば月波つきなみ 白夜びゃくや

その場にいなくとも、千里先までを見通すことが出来る『千里眼』の能力の持ち主である。

探し物、迷子、迷い犬、家出・・・。

そういったジャンルではどの能力者よりも有利であろう。


他の従業員達も、それぞれ人智を超えたを所持している。


「でも、前の依頼から結構間があったってのに、久しぶりの依頼に興奮しないんでしょうか?」


「まあ、お前はいっつも張り切りすぎな点が有るけどな」




「ほら清兎、さっさと戻るぞ。ランチの時間だからあいつら客をさばけてないかもしれない!」


時計を確認した白夜が駆け足になる。


今まで店のことなど考えてもいなかったのだろう、白夜の言葉を聞いた清兎の顔からサーッと血の気が引いていく。


「やべえ、全然考えてなかったああああ!!」



走りはじめて十数分。

やっとタンジーの店が清兎達の視界に入った。


まず、清兎の頭に浮かんだのは残った従業員達の手によって店が崩壊し、客に迷惑をかけている場面だった。


店についた清兎が慌ただしく、店入口のドアを開ける。


「うおっ!?」


清兎がドアを開けたと同時に、彼の肩に衝撃が走る。


ぶつかってきたのは、少女のようだ。風体からして高校生あたりだろうか、彼女は脇目も振らず駆けていった。


「あっ・・・」


清兎が謝る暇もなく、少女は視界から消えてしまった。


「まさか、なんか失礼なことをしたんじゃ・・・」


白夜が顔をひきつらせる。


「何をした!?」

清兎が叫びながら店に飛び込む。


しかし、店の中は何も変わったところはなかった。


ルナがカウンター席でコーヒーを悠々と飲んでる点以外では。


「あら、おかえりなさい」

冷奈が素っ気なく言う。


「お、おう・・・なんも問題なかったか?」


「特になかったわよ」


「そ、そうか」


冷奈達が不思議そうな表情をしているので、本当に何も無かったのだろう。


「それで、先程の噺の続きなのですが、襲われた者達はすべて不良グループの類だったそうですよ」


夜子がコップを布で拭きながら雑談の続きに花を咲かせようとする。


「私語もちょっとは慎めよ・・・」

清兎が呆れた口調で注意する。


「死語?」


「はい、夜子。お前一週間『脳禁』な」


「な、何故!?」


清兎と夜子が騒いでいると、店の戸が鈴の音を上げた。


店員達はその音を聞くなり顔を引き締め、戸の方に体を向けた。


「ようこそ、喫茶タンジーへ!」

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