第47話 闘技場へ
街の中に入るとそこはお祭り騒ぎだった。花火はうち上がり歓喜の声がどこからか聞こえてくる。街の中心部にはかなり大きい闘技場があり、そこで毎日何かしらのトーナメントが開催されるのだ。
「うわー、うわー、すっごい人人人! 何コレー!」
色々な出店がしのぎをけずっている。そのどこの店も人でごったかえしている。どこからともなく「朱雀様のナマ写真だよー!」と言う声が聞こえてきた。
「朱雀? 朱雀ってたしか魔界四神の? 見てみたいかも……」
輪廻はふらふらとその声のする方へと足を運ぶ。
「おい。どこ行くんだ?」
「え? ちょっと気になって」
輪廻は店の男が高く掲げている写真をまじまじと見つめる。
「ごつ……。青龍さんといい勝負かも」
そこに写るのは真っ赤な髪の強靭な戦士だった。いかにも百戦錬磨という言葉が似合いそうな雰囲気だ。
そんな事を思っていると夜見が横から口を挟む。
「おい、騙されるなよ。それは別人だ」
「え? そうなの? 面識があるの? まぁ青龍さんと友達だし朱雀さんと交流があってもおかしくないか」
「まぁ面識はあるわな。それにあいつは写真に撮られる様な馬鹿はしない」
「どんな人なの?」
朱雀は魔界でもっとも有名な妖族だ。【魔界最強】と謳われている。
「どんな人? ん~どんな人かぁ……」
そんな事を考えたこともなかったので夜見は少し考える。
「なんつーか、とりあえず超肉食系だな」
それしか出てこなかった。
「超?」
「あぁ。呆れるぐらいに肉食だ」
「なんでも噂ですと従わない者は灰にすると聞いたことがありますね」
「は、はい~?」
「まぁあながち間違ってはないな」
「緑さん、朱雀さん知ってるの?」
「まぁ噂は聞きますよね。珍しい物が好きだとか暴君だとか」
あまりいい噂ではないらしい。
「まぁその内会う機会があるかもしれんし楽しみにしておけ」
そう言われて輪廻は「はーい」と返事を返す。
「超肉食系か……超気になるんだけど。【魔界最強】と謳われる妖族だし、もうゴリゴリの戦士って感じなのかなぁ」
などと輪廻は勝手な想像を巡らせる。
しばらく歩いていると人だかりを見つけた。人は溢れ、掲示板の様な物を皆が見ている。三人もその掲示板を見ると次の様なことが書かれていた。
『次のトーナメントの優勝商品は、全てが斬れる妖刀翡翠。参加者求む』
トーナメントには優勝賞品がある。それは今回の様に妖刀だったり賞金だったり名誉だったり様々だ。その優勝賞品によって出場者の人数は変わってくる。
「妖刀翡翠だって」
「しかし全てが斬れる妖刀ねぇ。まぁそこに興味はないが出てみるか」
「私はちょっと興味あるけどなぁ」
「お前には紅桜があるだろう?」
「だって通常状態じゃ抜けないんだもん。いつでもあの状態になっていいって言うんだったら別にいいんだけど?」
輪廻は性悪な笑みを浮かべている。
「それは駄目だ。だからと言って二本目を探すのはオススメしないな。紅桜がヤキモチ妬いてあの状態でも抜けなくなるぞ? それにお前が通常状態で抜ける様になれば全て丸くおさまる」
「ぐぬぬ……返す言葉もございません」
してやられたと不機嫌な表情になり、輪廻はそっぽを向いた。
「妖刀……翡翠?」
緑だけが未だに掲示板から目を離せないでいた。その表情はありえないものを見たという顔だ。
「どうした?」
「あ、いえ……」
言葉を濁して俯く。
「あっ、緑さん、もしかして妖刀翡翠について何か知ってるんですかあ? だったら教えてくださいよ~」
全てが斬れると言われる妖刀翡翠。興味が湧かない方が無理がある。
「え、えぇまぁ」
「教えてくださいよー」
そんな事を純真無垢な笑顔で言われたら断ることもできない。
「わ、私もそこまで詳しくは知らないんですよ? 知ってる限りでは……それは争いの火種になることが多かったらしいです」
「火種?」
「えぇ、あまりの切れ味に国同士が一本の刀を巡って戦争をしたという話はよく聞きますが、その翡翠のせいで勝った国までも滅んだ、とか」
「どういう事だ?」
「わかりませんが、私が思うにその妖刀は……この世にあってはならないのだと思います。在るだけで周りに不幸をまき散らしているのですから、それはもう刀という範囲を超えていると思うのです」
「ははぁ~」
「まぁ、まさしく妖刀の名にふさわしいと言えばふさわしいな」
悪い噂がある妖刀ほどその力は本物だ。悪しき名を轟かせてこそ妖刀という言葉があるぐらいだし、妖刀翡翠はその中でも有名すぎるほど有名。本来ならこんな場所の賞品であっていいはずがない。
もしかしたら偽物の可能性もあるのかもしれない。しかし夜見たちにとってそれはどうでもいいことだ。この場所には何も賞品目当てで来たわけではない。あくまでも楽しむ為、そして実戦をして輪廻に学ばせる為だ。
「とりあえず参加するにあたって受付をしておこう」
掲示板から離れ、人垣をかきわけてどんどん街の中心部へと入っていく。そこに行くにつれてどんどんと人が多くなってきている。明らかに出場を狙っている者もいて殺気立っている者も少なくはない。
なるべくかかわらないようにして進んで行く。そして三人の目の前に大きな闘技場の建物が見た。
「お~。でっかあ」
輪廻は上を見上げて目を輝かせている。
「大きいですねぇ」
「這入るぞ」
そう言い三人は闘技場の中に入って行った。中は石で作られた廊下が永遠と続いている。壁も石を積み上げて造られていて、この闘技場の古さが窺える。壁にはなにやら黒いシミのようなものがいくつもついていた。それはおそらく血だろう。ここに来る者は命を懸けて戦う。それがたとえ娯楽であってもだ。
そしてその壁についた血は取り除かれることはない。これはここで命を懸けた誇りの証明なのだから。
廊下には看板が出ていて、そのとおりの案内に従っていくと受付が見えた。その受付にいたのは耳のとがった白髪の魔族だった。
「次にあるトーナメントに参加したいんだが」
夜見がその男に言うと眠たそうな顔をあげ口を開いた。
「んー。あんた一人か?」
「俺じゃない。こっちだ」
夜見は視線を輪廻に向けた。
「でるのは私でございますー」
「残念だが今度のトーナメントは二人一組だ。一人じゃ出れないよ」
さして興味もなくそう言われた。その言葉に夜見は一旦引く。
「どーする?」
「ん~。次の次までは待ってられないよ。緑さんもいるし」
緑は早くこの街を出たいはずだ。だから何日もこの場所にいるのは極力避けたい。
「だよなぁ。仕方ないな。俺も出るか」
ハァと溜め息をつき二人で出ることを伝える。
「じゃあ簡単に今回のトーナメントのルールを説明させてもらう。まずは今言った通り二人一組みで参加すること。今回は参加人数がかなり多いから最初は予選会を行う。二十組、四十人で戦ってもらう。そして最後に勝ち残った一組だけが本選に参加出来る。基本、戦いのルールは本人同士で行われる。大概が待ったなしの死ぬまで戦う。死んでも苦情はうけつけない。そして最後に残った一組に妖刀翡翠を手に入れられる。以上だ。質問は?」
「特になし」
「なんで今回は人数が多いんだ?」
「それは妖刀翡翠のせいだろうな。妖刀翡翠といえば、全てが斬れる妖刀としてかなり有名だ。その妖刀をめぐって国同士が戦争をしたと言う話しはよく聞く。それで人数が増えたんだ。まぁ実際ここだけの話、本物かどうかはわからんがね」
有名なものには偽物がおおく出回る。こんな場所の賞品になるとはとうてい思えないという事だろう。
「へぇ~。やっぱり凄い刀なんですね」
「実際、妖刀翡翠を手に入れるのは苦労したらしい」
どうやってどこから手に入れたのかはわからない。国同士が戦争をしてまで奪い合うと言われる妖刀翡翠。本物ならば苦労という言葉ではくくれないだろう。
「そりゃそうだろうな」
「開催は明日だ。遅れないように、この受付に来てくれ」
「わかった」
そう言い残し三人はその場をあとにした。
闘技場から出ようと歩いていると緑が何やら口を開いた。
「あ……あの……」
何かを言いたげに口をモグモグさせる。
「なんだ?」
「……あの……その、優勝を……狙ってる……んですよね?」
「まぁ出るからには勝つよ」
輪廻は満面の笑みで言葉を返した。
「……妖刀が、ほしいのですか?」
「ん~どうかな。私たちがここに来た目的は戦うこと。戦い経験を得る事が目的だから賞品は正直いらない。でも、くれるんなら貰う」
その言葉に緑は「そうですか」と返した。
「とりあえず宿を探すぞ。早めに探しておかないと寝床は馬車の荷台の上になる可能性がかなり高い」
輪廻は首をかしげ「なんで?」と聞いた。
「さっきの爺が今度は人数が多いと言っていただろう? それはつまり他の場所からたくさん人が来ているということだ。宿の空きがなくなるぞ」
「なんですとー!?」
そう言われ輪廻は目を見開いた。
「それは一大事だ。早く行きましょう」
輪廻が先頭を行き宿を探す。運良く残り一部屋空きがありそこに泊まることが出来た。
「ふぃー危ない危ない」
そして一日は過ぎていった。
六道転生 水無月夜行 @minadukiyakou
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