第46話 目標

 目的というのは達成されてしまえばそこで全てが終わる。だから目的を失った二人はこの先どうすればいいのか頭を悩ませた。

「これからどうする?」

「どうすると言われても」

 何も考え付かないのが現状だ。そして考え付く気がしない。サマエルとアナフィエルは酒場でちびちびと酒を呑みながら今後どうするかを話あっていた。

 二人が達成した目的とは、《六道家》を殺した犯人を見つけること。それはロッドエンドという魔族だった。そしてそのロッドエンドはすでに天界に捕まっている。

「いちおー、あの時の犯人は捕まったんだよね……」

「ああ、たぶんな」

 二人はあのとき気絶をして、眼を覚ますとそこは誰もいなかった。てっきり自分たちは殺されたとばかり思っていたがそうではなかった。なぜ殺されなかったのかはわからない。でも、きっと、家族が訴えてくれたのだろう。そして敬愛すべく人がそれを無言で受け入れてくれたのだろう。

「貸しが、できちまったな」

「そうね。どうやって返そうかな。サンとか絶対にいらないって言いそうだけど」

「あいつはそういう奴だ」

「そういう奴ね」

 ハァと溜め息を重ねた。そもそもサンダルフォンに会うのが躊躇われる。さすがに殺されはしないだろうが、それでもうしろめたいと思ってしまう。

「あの馬鹿はきっと俺らを見つけたら笑顔で駆け寄って来るぜ」

「……でしょうね。なんとなく目に見えてるわよ」

 天使と悪魔が仲良くなど出来るはずもない。そんなところを他の天使に見られもしたら大ごとだ。

「あいつは出世しなきゃいかん」

「お兄さんのメタトロン様のようになるのは決まってる事だしね」

 だから自分たちが邪魔をしてはいけない。家族の未来を奪ってはいけない。兄のメタトロンは上級天使の熾天使セラフィムだ。同じ血が流れているサンダルフォンもその器が備わっているに違いない。二人は期待する。自分の事のようにそれを願っているのだ。

「でも結局【銀魔邪炎】は見つからずじまいか」

 犯人は捕まったがすべてが解決したわけではない。一つの問題が残されていた。それは魔界三大御伽噺である【銀魔邪炎】の存在だ。

「私たちが先に行ってればそこにはいたかもしれない」

 二人はその場所に向かわなかった。自分たちでは抑えきれないと分かっていたからだ。それよりも自分たちの信頼すべく人たちがあの場所に行った方がいいと考えた。だからベルゼブブと青龍を止める方を選んだ。しかしそれは失敗だったのかもしれない。どちらも止める事は出来なかったのだ。

「……今更なにを言っても遅い」

「わかってるわよ。ただ私たちは強くならないといけない。最低でもサンを守れるぐらいには」

「だな……」

「私たちの今後の目標は――」

 目を閉じて決意を口にする。

「まず第一に強くなる事。第二に【銀魔邪炎】を見つけること。伝説は必ず存在する。あの事件はまだ終わっていない。とかかっこいい事言いたいだけなんだけど、どう思う?」

「どう思うも何も……どうだろうな。犯人はたしかに捕まった。が、お嬢様が見つかっていない。連れ去ったのは【銀魔邪炎】。ということはだ……」

 アナフィエルは腕を組んで考える。

「ということは?」

「この事件の犯人は、二人いる、という事だ」

「あ~、なるほどね」

「だから終わっていないと言えば終わっていないな。【銀魔邪炎】を見つけてお嬢様を保護してやっとこの事件は終わる」

 この事件は終わっていない、と二人のなかで決定した。

「んじゃさっき言った方向でいいわね?」

「異論はないな」

 単純に強くなること、というのは実戦しかない。悪魔になって決定的に実戦が足りていない。自分には何が出来て何が出来ないのかがまだわかっていない。まずは自分を極める事。そしてそれを次に繋げる。強くなって【銀魔邪炎】を見つけて六道輪廻を保護する。

 方向は決まった。そして席を立とうとしたそんな時だった。後ろの席からある言葉が聞こえてきたのだ。

「妖刀翡翠?」

 サマエルは思わず復唱してしまう。それは天界でも有名な妖刀だからだ。災いをもたらす妖刀。天界は世界のバランスと秩序を守る。それは見つけ次第、然るべき処置をしないといけない。第一級危険指定物、妖刀翡翠。

「私の……聞き間違いじゃないわよね?」

 自分の耳が信じられずにサマエルはアナフィエルに聞いた。

「聞き間違いじゃないな。俺にもそう聞こえた」

 二人は確認の言葉を交わすと黙り込んだ。

「――妖刀翡翠? どうせでまかせだろ」

「さぁな。でもそれらしき物がウイリッシュに運ばれるみたいだぜ」

「どこで手に入れたんだ?」

「知るかよ。それにそんなこと知る必要はねーだろ。なんでもトーナメントの賞品になるとか」

「あの翡翠が? 馬鹿言っちゃあいけねーよ。あれを手に入れる為に今までどんな噂があったよ。たかだか賞品で出るわけがねー」

「それは同感だ。つーことはやっぱ偽物か」

「だろーよ」

 会話はそこで終わって、話していた客は席を立った。

「……どう思う?」

「……どうもこうも」

 偽物に決まっている。

「んじゃ無視でいいわね?」

「……」

 そう言われると考えてしまう。果たして本物の可能性はどれほどあるのだろうか。

「まぁ暇だしな……」

 調べてみようというのがアナフィエルの考えだった。

「仕方がないわね」

 それに同意するサマエル。これも修業の一環だと思えばいいだけのことだ。

 強くならなければ。何よりも強くならないとあいつを守れない。ここは天界ではない。力が全ての魔界。力がない者は何も守れないのだ。

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