みっちゃんはね
野口マッハ剛(ごう)
第1話
みっちゃんは可愛らしい女の子だった。普段の集団生活でもあまり目立たなく、友だち付き合いも少なかった。けれども友だちとよく口げんかをしていた。他に例を挙げるときりがなかった。つまり、みっちゃんには一つの疑いがあった。
「みっちゃん、遊ぼう?」
小学一年生で同級生のたけちゃん(男の子)がみっちゃんを誘う。たけちゃんはみっちゃんの事が好きだった。
「……い…………」
「えっ?」
「……いいよ?」
「よし、何して遊ぼう?」
みっちゃんは少し考えた。いや、これは考えているのではなくて、思考が途切れた時の顔だ。
「みっちゃんは何して遊ぶ?」
「え?」とみっちゃんは少し驚いた。
「だから、何して遊ぶ?」
「えーとね……」
みっちゃんは考えるのに集中力が足りなかった。また思考が途切れていた。
「……おままごとで良いよ」
「……うんっ!」
こうしておままごとを始める二人。
「ただいまぁ」とたけちゃん。
「おかえり……、えっと、えっと……」
「ご飯はまだぁ?」
「……そう! 今夜はカレーだよ?」
「わぁい、いただきます!」
たけちゃんはカレーを食べるふりをした。
「おいしかった? ……その、卵焼きは」
「え? カレーじゃなかったっけ?」
「……そうそう! カレーだよ」
たけちゃんは少しおかしいなと気付いていた。
「みっちゃん、おやすみのチュウは?」
「えっ?」
「もう夜だよ? 寝る時間だよ?」
たけちゃんの言葉にみっちゃんはどうしていいのかわからなくなった。
じっとみっちゃんを見つめるたけちゃん。
すると、
「わかんない! わかんない! わかんないよ!」とみっちゃんは大声をあげ始めた。
それを聞きつけた先生。
「どうしたの? 二人とも?」
「……おままごとしてた」とたけちゃん。
みっちゃんはしばらく大声をあげたままだった。
家でのみっちゃんは本当に物静かだった。それと家の中をうろうろしていた。
先日の学校でのおままごと事件を聞かされていた両親。少し話を聞くことにした。
「みっちゃん、何があったの?」とママ。
「……忘れた」
「忘れたはないでしょう? たけちゃんから何を言われたの?」
「んーと……、えっとね……」
必死で思い出そうとするみっちゃん。
それが長く続かないのでどこかへ行こうとするみっちゃん。
「どこ行くの!」
「……はっ」
それを見かねたパパが、
「これは困ったな……、たけちゃんも何を言ったか言ってくれないし……。なんで大声をあげたんだ?」
「忘れた……」
ママは頭が痛いと言って台所へ行った。
パパは新聞を広げた。
みっちゃんは自分の部屋に行った。
シンプルな部屋だ。勉強机には何も置かれていない。物は上から布が置かれていた。これは勉強をする上で、気がよそへ向かわないようにするためであった。
そして布をめくるみっちゃん。
大切な絵本が積み重なってある。
それらに読みふけるみっちゃん。
「昔々、えっと……」
読んでしばらくたつと部屋をうろうろとし始める。みっちゃんは窓から空を眺めた。
何も言わずにただ眺める。
ママが呼んでもそうしていた。
週は明けて月曜日。
みっちゃんは教室でうろうろとしている。
「みっちゃん、どうしたの?」と先生。
みっちゃんは何も答えない。
「ほら、席に戻りましょうね?」
先生が座らせても、みっちゃんはまたうろうろとしていた。
これで先生はすぐに気がついた。
先生は校長に報告した。
それは両親の耳にも入った。
「ということなんです……」
パパとママはショックを受けているようだった。みっちゃんには何の事かわからない。
「とりあえず、今日は病院で診てもらった方が……」
先生も言いづらそうだった。
「……わかりました」
それから病院で検査を受けたみっちゃん。
病名はADHD、混合発現型であった。
「ねぇ、みっちゃん? 遊ぼう?」
たけちゃんは何事もなかったかのようにみっちゃんを遊びに誘った。
「いいよ?」
「それじゃあ何して遊ぶ?」
「うんとね……」
またみっちゃんは考えが途中で途切れてしまう。けれども、たけちゃんは何も言わない。
「……」
「…………」
そして、
「……みっちゃんのこと、好き」
「……わたしもたけちゃんのこと好き」
二人は手をつないだ。
みっちゃんはね 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo
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