3 punch 布団の温もり



「ねぇ、キモイから、本当にどいてくんない?」


 いっちゃんの布団に入って寝たふりをしていたらキモイと言われた。


何故だ






※俺は彼氏です。








「待って、いっちゃん。今のキモイという発言は紐解く必要があると思うんだ。ちょっとAからZまで説明してくんない?まず、この状況を整理しよ?」




 付き合って1年にもなる俺の彼女いっちゃんは、今日もピリ辛です。




 キモイと言われたのでとりあえず布団から出てキレイに敷かれた絨毯の上で正座をした俺は、目の前で脚を組んでこちらに伸びているいっちゃんのバンビみたいなあんよを眺めていた。めちゃくちゃ至福な時間です。


「ここはアタシの部屋なのに、アンタが勝手にアタシの布団に入って寝てたのが、キモイ。」


 いっちゃんは滅多に勉強の為に座ることもない勉強机とセットの椅子に座りながら、高圧的な視線を俺の後頭部に向けていた。嗚呼今日もカワイイお目目だねいっちゃん。相変わらずトカゲさんみたいにつり上がってて今日もまつげびしっと巻いてるね。お風呂から出てきたばっかりだから、ちょっとは睫毛も萎れてるのかな?さっきからいっちゃんのあんよしか見てないからあんまり解らないや。


 とりあえず、身も蓋もなく全容がキモイと言い放たれた彼氏である俺の立場がありません。


「待って、いっちゃん。俺、いっちゃんの彼氏だよね?いっちゃんのお布団でいっちゃんの温もりを感じながら寝てて、なぜキモイって言われるの!?俺は息を吸うように当たり前の頻度でいっちゃんのこと大好きだよって言い続けてる最愛の彼氏だよね!?これは当然の権利だと思います!!俺はいっちゃんと同じ布団で寝るという権利を行使している!!」




「キモイ」




いっちゃんは息を吐く様に俺に「キモイ」と言う


最近思ったんだけど、これはいっちゃんの中の挨拶なんだと思うことにした。


英語圏で言うところの「yes」「Hi」と同義なんだと思うことにしている。


そうすることで半年前から蓄積されてきたこの心の傷がなんぼか癒えることに気づいたんだ。




「てゆうか、アンタ寝てなかったじゃない。狸寝入りしてるとか何か企んでたの?」


 いっちゃんが腕組みしながら足を揺らしている。ゆらゆら揺れる足を見上げて行くと、ショーパンの隙間からパンツが見えるような気がして俄然やる気が蘇っていた。やる気っていうのは、何のやる気かって、そりゃもちろん夜のやる気スイッチが


「狸寝入りしてたよ?いっちゃんが布団に腰かけたりとか、俺の顔覗きこんでくれたりとかしてくれたら、ちょっと蠅取り草みたいにぱっくんっていっちゃんのこと捕まえて布団に倒してこうごろごろしようかなとかちょっと企んでたとか、べ、別にそんなこと考えてたわけじゃ」


「アンタは蠅の方でしょ」


俺が蠅だったのか


「ゴ◎ジェットで仕留めてやるわよいつか」


しかもゴ◎ジェットなのいっちゃん


それこの世でもっとも小癪なアイツを倒す三種の神器だよね?一寸の虫にも五分の魂とか発揮できるとかそういう理屈じゃないんだね1ミリも俺のこと生かすつもりがないんだね!!!せめてキンチ◎ールが良かったのにな!!!


何だろう愛が苦しい。


これ、愛なのかな?


俺、本当は愛されていないんだろうか


いや、俺はどれだけ足蹴にされてもいっちゃんのこと大好きだし、いっちゃんも傍に置いてくれるから全然オッケーなんだけど、なんだろう、こう、目の前で汚いもの扱いされると本当はちょっとだけ俺だって辛いのです。かっくり頭垂れた俺は、もうテンションだだ下がりになる訳で




「大変申し訳ございませんでした……」


「解ればいいわよ」


平謝りするしかできない社員みたいだ。サラリーマンだ俺は。まだ高校2年生なのになんてこったよ。


いっちゃんはさっきから投げ出していた足を引っ込めて椅子の上で体育すわりをした。このアングル、めっちゃ美味しくてすぐに頭を起こして食い入るように見そうになるのを何とか堪えて、ばれないようにそっと視線を注いだ。あとちょっとでパンツの色が解る!と思ったけれど、上から注がれる視線に気づいて顔を上げる。ムスっと頬を膨らましたいっちゃんが俺のことを見下ろしていた。やばい、これは本当にキモイって言われても言い訳ができない。


「…………今日、このまま泊まるの?」


 俺は今さらなことを問われて思い切り首を捻った。だって今日は親がいなくて寂しいから泊りに来てもいいよって話になったから、俺は意気揚々と此処に馳せ参じた訳だから(ものすごく省略して説明すると)、誘ってきた本人にこんなこと聞かれるのはとっても動揺するよ。とはいえ、いっちゃんが嫌なことはしたくないし、へらりを笑って頷いた。


「うん、いっちゃんが良いなら泊まりたいなぁ。」


「…………」


 いっちゃんは膝に顎を載せたまま俺を眺めている。ムスってしてる顔もカワイイよいっちゃん。ちょっとふてくされてる顔もカワイイよ。今さらそうやって聞いてくるのってちょっと緊張してるのかな、とか思ったりしたらまたキモイって言われる気がしてそんなことは胸にしまっておくね。でもカワイイから見てても良いかな


「顔 キモイんだけど」


すみませんでした。




「ねぇ、ジャンケンしよ。」


「え?」


「ジャンケンでアンタが勝ったら、台所で寝て。アンタが負けたら、ベットの下で寝ていいわよ」


 俺は多分、ものすごく鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしてたと思う。なんで勝ったら台所で負けたらベットの下なのかは解らないけど、でもいっちゃんがちょっと歩み寄ってくれたことが俺はもう天変地異が起きるくらいに嬉しいんです!!


「いっちゃん!!!」


「キモイ」


抱き付こうとして身を乗り出したら顔面を蹴られた。


そうですようねすみませんでした。


気を取り直して正座をし直すと、俺はもう右手を出すべきか左手を出すべきかから迷い始めるああもうなんていう幸せな悩みなんだろう。とりあえず今日この家の中に居させてくれることが確定しているだけで俺はもう明日天使のラッパが吹いても良い。


「よし!何を出すか決まったよ!いっちゃんジャンケンしよ!!」


「うっさいわね、静かにしてよ。最初はグー、じゃんけん、」


ポイ!!


結果は、俺がチョキで、いっちゃんがグー。つまり、俺が負けたから、ベットの下に寝る権利を得ることができたというWA KE KA!!!!


「う、ううううううううおおおおおおおおお!!!!」


 我が右手に神が宿っていた!!!!毎晩いっちゃんを想って往復していたこの右手に聖子が宿っていたのか!!この手!!ゴットハンドが!




「いっちゃん!!!!」


 俺はもう嬉しくて昇天しそうになるほど登り上がっていた勢いをそのままいいっちゃんに抱き付こうとした。その瞬間、「ふん!!」と凄い一括と共にいっちゃんの突きが飛んできて俺の腹にクリーンヒットした。


「う!!!」


びっくりするくらい苦しくて、そのまま天に召されるんじゃないかと思いながらベットの下に横たえた。中々のヒットだよいっちゃん。これなら天下一◎闘会でも中々のところまで行けるよきっと。


「そうやって、一晩中寝ててよ、敦人のバーカ!」


俺を跨いでベットに上ったいっちゃんの捨て台詞が辛い。辛いし辛いし苦しいし、初めてのお泊りなのになんだかちっともラブラブじゃない。おまけに布団も引かれずに電気を消されて俺は固い絨毯の上で寝ることになるんでしょうか




ねぇでも、いっちゃんは本当はね、


ツンツンしている裏で恥ずかしがっているだけなんじゃないかって、思うんだよ。


そうじゃなかったら、そんなに端っこに寄って寝たりしないもんね。

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