5
「ん、ううん…」
背中に感じるフローリングの床の感触で目が覚めた。まだ意識が覚醒しておらず、頭がボーッとする。
体の節々が痛む。いまだ朦朧とした意識下で自分のからだに外傷がないことを確認する。
(わたし…なんでこんなところにいるんだっけ…?)
自分が置かれた状況をうつらうつらと記憶をたどることで把握しようとする。
「そうだ…わたし、あの橋から落ちたんだ…」
しかし、あそこから落ちたのならば命の保証はない。そのはずだ。
「それじゃあここは…まさかあの世なんていうんじゃないでしょうね…」
そんな不吉な考えが脳裏をよぎるが、痛みを感じているということはこれは死後の世界でもなく、また夢でもないのであろう。
そうすると現状として、わたしはこの部屋(家?)の床に寝ていることになる。
(なら寝ていても仕方がないよね…)
と、とりあえず起き上がって辺りを見渡す。
凡庸なテーブル、イス、テレビ…。
その眼に写った光景に違和感は感じられはしなかった。
「こんなところで棒立ちになってても仕方がない。とりあえず探索しなきゃ。怖いけど…。」
突然見知らぬ場所に寝ていたなんて恐ろしいこと、あとで笑い話にでもなればいいけど…と思いつつ、キョロキョロとしながら歩みを進める。
「ここ、そんなに大きくはないみたい…」
よくよくみれば椅子も2つしかなく、少なくとも大人数が住まう家ではないようだ。
「独り暮らしなのかな…」
ふと、無造作に置かれたパソコンに目がいく。そういえばと、ポケットの中にいれていたはずの携帯を探してみたが、手は空しく布地の触感だけを伝えてきた。
「とりあえず、いまの時期や時間、ここの位置情報でもわかればいいんだけど…」
そう思いパソコンの起動ボタンを押し、少し待つ。問題なく起動した。
パスをうちこみホーム画面に移るが、日付や時間が表示してあるところは黒く靄がかかったようになって見えない。その事にここが非日常であることを痛感させられる。
ブラウザを立ち上げてみると、ある記事が目に飛び込んできた。思わずクリックする。
【意識の分離実験についてのレポート】
なにやらドイツのとある機関が人一人の意識を分かち、別の媒体に移すことが可能であると発表したらしい。これがもし実用化されれば、自分のクローンに意識を移すことでマルチタスクが容易になるというのだ。
「確かにすごいけど…何でこれ開いたんだろうわたし…。」
わたしは(勿論のこと)そんな実験に参加した覚えはない。そもそも、この事だって今初めて知ったようなものだ。
「一応頭に残しておこう…。」
ふと、気配を感じる。
背後になにかがいるような、存在感とでもいうのだろうか、寒気のするその感覚に、思わず振り返る。振り返ってしまう。
そこにはーーー
I am me qp(ねじまき) @qp_nejimaki
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