おまけ

文化部少年たちの関係

 夏休みになる前の話。

 部活が終わって、オギと一緒に歩いていた。

 別に一緒に帰ろうとしたわけではなくて、オギが勝手についてきているだけだ。

 といってもオギが彼氏面をしているわけでもなく、今までの関係のまま、少しだけ近くなっただけで。途中までオギが勝手についてきたりするだけで。


「それで、この間言ってた奴が映画化されるんすけど一緒に」

「行かない」

「そうっすか」


 つれないっスねえ。

 なんて気にしてないように、オギは笑う。

 別に一緒に行きたくはない。ただ、男女が一緒に二人きりで出かけるということに抵抗があるだけで。


「あ、ゆうちゃん!」


 それまで話していたオギが、突然走り出した。

 走り出した先には、私と身長が変わらないであろう可愛い女の子が一人、黒髪の男子と茶髪の男子と一緒に歩いていた。

 「ゆうちゃん」と呼びながら、女の子のもとへ走っていった。

 私と一緒にいたのに。


 どういうこと?


 オギは笑って駆け寄っていき、そのまま談笑。黒髪の男の子の方に何か渡しているのが見えたくらいで、何を話しているのかまではわからない。


「なんだ、ちっちゃい女の子だったら誰だっていいんじゃない」

「そんなことはないでしょ」

「だって、って、千歌!?」


 親友の久留米千歌が立っていて、その後ろには金髪の男の子が立っている。


「千歌、いつの間に彼氏できたの? その人刺されない?」

「か、彼氏、では、ないわ」


 珍しく千歌が言い淀んでいる。でも彼氏じゃないのに男の子を連れ歩くなんて。


「前に話したでしょ、美術部の」

「ああ、後輩君。えっと、確か羽柴君?」

「榛です」


 惜しかった。

 聞くと「榛」と書いて「はしばみ」と読むらしい。「俳」と書いて「わざおぎ」だったり、うちの学校には変わった苗字が多いのか。確か吹奏楽部にも一人変わった名前がいるとかいないとか。


「なんか、集結しててほしくないのが集結してる……」

「「え?」」


 榛君はそういうと、彼もとぼとぼという様子でオギ達のいる方向へ歩いていく。

 そこへ行くと、次はオギが「さっくん!!」と榛君に抱き着いた。


「さっくん?」


 どういうことなのだろう、とか考えている間に、私の背中を千歌が押す。


「え、ちょっと千歌」

「いいから行くわよ」


 ずんずん押していき、オギのいるところまで私を押した。


「うわ、親指姫とかぐや姫まで集結したよどうなってんだ」

「ゆーいち、それ、君らが言えることじゃないからね」


 黒髪の男の子と、茶髪の男の子。

 榛君が茶髪の男の子の言葉にうんうん頷き、オギはそれを笑い飛ばしていた。


「ほんとっすね。ゆうちゃん」

「だからその呼び方やめろよ、匠」


 そういったのは黒髪の男の子だった。

 黒髪の男の目を見つつ私は問いかける。


「ゆうちゃん?」

「出来ればゆーいちって呼んでもらっていいですかね? 岡本先輩」

「なんで私の名前知ってるの?」

「先輩が実は「親指姫」って有名だっていうのもありますけど、従弟の彼女候補の名前くらいは知ってますよ」


 そのあだ名は聞いたことあったけど、ほとんど呼ばれないから忘れていた。

 あと彼女候補ってなんだ候補って。

 というか、今彼はなんと言った?


「従弟?」

「あれ、匠から聞いてないですか?」

「何も」


 じゃあ改めて、とゆーいち君を真ん中にしてオギと榛君が並ぶ。


「漣悠一朗。俳匠と榛里流の従兄です!」

「えっと、ということは三人は従兄弟?」

「そういうことです」


 そういうことですか。

 なるほど。


「じゃあ、そっちの女の子は?」

「お構いなく、ボクらは帰るので」


 現実で自分のこと「ボク」っていう女の子初めて見た。

 えっと、あれ。


「二年の小さくてかわいいラプンツェルってあなたのこと?」

「髪は長くありませんけどね」


 それじゃ、とラプンツェルは茶髪の男の子を連れて去っていった。

 

「名前を聞きそびれたわ、小さくてかわいい女の子……。いいわね」

「なんで千歌は小さい女の子好きなの?」

「自分がなれなかったものだからよ」


 私にしてみれば千歌の背の高さはうらやましいのだけど。ないものねだりは誰にでもあるものなんだな。と思うことにする。


 しばらく話して、解散して、私は帰路を辿る。

 隣には当然のようにオギがいた。


「センパイ」

「何?」

「俺が「ゆうちゃん」って呼んだのお姫様だと思ったんスか?」

「なんで」

「千歌センパイが」


 千歌め。

 なんでそういうことをさらっと言ってしまうのか。別に言わなくていいのに。

 

「妬きました?」


 ここで、「妬いてない」というとニヤニヤしたオギがさらにからかってくることはわかっていた。なので、今回はこう切り返してみることにする。


「少しだけね」

「え?」

「少しだけ妬いたから、映画一緒に観に行ってあげる」


 自分で言っておきながらわけがわからないけど、オギが嬉しそうに「うぃっす」と笑ったので、良しということにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

文化部少年たちの恋模様 山西音桜 @neo-yamanishi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ