第11話

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 翌日。

 わたしは全員にすでに満天水族館の問題が解決したことを話していた。とはいえ調査も兼ねて、結局は四人で満天水族館へ向かうことになった。

 昨日はわたしも駆け足だったし、ショーも見ていないから十分に楽しんだとは決して言えない。


「でさ、これは何の冗談なわけ?」


 いつも通りに駅に集合した時、わたしは異変に気づいていた。

 わたし以外の全員が、みんな同じ制服を着ていたのだ。


「うち……制服で行こうなって言ったよね?」


「言ってたけど、拒否した。何、元から砂夜に決定権はなかったわけ?」


「砂夜ちゃんの制服姿は、新学期までお預けかー」


 姫乃がからかった調子で言う。昨日も思ったけど、こいつは制服のサイズを間違っていないだろうか。かなりきつそうだ。


「いや、だからなんで?」


 真弓も姫乃に流されたのだろう、新品の制服を身にまとっていた。成長を見込んでなのかしらないが、少しだけ大きめな気がする。

 真弓は少し気まずそうに答えた。


「だって……姫乃と未来ちゃんの二人がそうしようって言うんだもん。それに私も、ちょっと新しい制服で出掛けてみたかったし」


「砂夜にとっては別に珍しいことじゃない。中学の時とほとんど変わらない。それ、未来も一緒なのにさ」


「うちだけ私服やったら浮いちゃうやろ?」


「今砂夜が悪目立ちしてるんだけど」


 未来に何を言っても無駄なことはよく分かっているので、わたしはここまででもう諦めることにした。代わりに舌打ちをして、きびすを返した。


「もういい。砂夜も一回帰って着替えて来る」


「ち、ちょっと砂夜……!」


「ええやん。うちらも行こうな」


「は、はぁ?」


 焦る真弓と、落ち着いた口調で提案する未来。それを聞きつけた姫乃がにやりと笑う。


「あー、あたしも砂夜ちゃんの家に行ってみたかったんだー。お菓子とかジュースとか買ってこ? DVDとか借りてく?」


「借りるならBDにしてってそうじゃないし。なんでみんなが来ることになってんの? 今日は満天水族館に行くんでしょ? 往復で一時間もかからないから、待ってて」


「砂夜の家かぁ……私もちょっと興味あったかも」


「真弓まで! 言っておくけどうちは広くないからね」


「広くはないけど、砂夜ちゃんの部屋は綺麗やから、三人でも入れるんとちゃう? うちが綺麗にしてるんやけど……」


「ち、ちょっと未来! 分かったからそれ以上はやめて」


 弱みを握られていると、こういう時に弱い。それがどんな弱みかは、別の機会に――というか絶対言わない。


「へー、砂夜ちゃんって片付け苦手なんだねー。意外」


「言うなって!」


 怒る私を一歩引いたところから真弓はにこにこしながら見つめていた。この場合、あのポジションが一番ずるい。


「春休みにもう一日くらい時間取れるやろ? 満天水族館はその時に行けばええんちゃう? だって……昨日のことは全部解決したんやろ?」


 未来は言葉の途中から、急に真面目なトーンに変わった。


「それは、砂夜が自信を持って保証するよ」


 全てがわたしを中心とした、わたしだけの事件だったのだから。


「あーもう、分かった。真弓が決めて。あんたの判断に従う」


「砂夜の家に行こう?」


「さっすがまゆ。即答だね~」


「はい、決定やね。こっちこっち」


 二人を先導して、未来は改札に向かった。


「いや砂夜の家なんだから、せめて砂夜を先頭にしてよね」


 わたしは早歩きで、三人の後姿を追った。

 新学期まで、もう一週間もない。人生で言ったら短い期間なんだろうけど、わたしたち当事者にとっては大きな変化なのだ。

 これからもきっと、わたしはそう簡単に素直にはなれないだろう。自分に嘘をつくことだってあるだろう。

 だったらせめて、その自覚だけは持っていよう。

 ――わたしたちは間もなく、高校生になる。


 END

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しずくのおと - the lie on my mind - @akeoshinohara

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