四降り目

「で、今日はなんのご用で。おっさん」


「お前におっさん言われたくないわ。ツナ」


マジでとっとと帰ってほしいんだけど。

この人が直接ウチに来るとろくな事がない。


「用がなかったら来ちゃ悪いのか?」


来ちゃ悪いね、てかできれば来ないでほしい。

アンタじゃなくてももっと割りの良い警察絡みの協力依頼なんて幾らでもあるっつうのに横槍いれて自分の依頼を1番に優先させてる事ぐらい知ってんだからな。

なんて事口が裂けても言えない。


「できれば会いたくないんでね」


「冷たいね~そんなんだから娘に嫌われんだよツナ。それに先輩後輩の仲だろ」


でた!先輩後輩の仲。そんなのオレが高一の時アンタが高三で、しかも全くと言っていいほど交流なんてなかったじゃん。ましてや久々に会ったのだって、まだ先代が居た頃オレがココで働くようになってたまたま、偶然ウチに依託の依頼を頼みに来てて、それで昔話になってやっと同じ高校出身だってのがわかったんでしょうが。


「いい加減な事言わんで下さい。ミコちゃんには嫌われてません。距離をおかれているだけです」


ドン‼

机が凹む勢いで突っ伏するワタシ。

自爆(笑)

自分でなに口走っちゃってんだ。これじゃ嫌われてるのを認めてるようなもんでしょうが。

たしかに嫌われてる。嫌われてる?親として尊敬はされてない、されてはいないものの拒絶はされてないはず。それなら会話もしてくれないはずだし。


「み、ミコちゃ~ん?」


しんと静まりかえる室内。

波ひとつない鏡のような湖面、天頂てんちょうに輝く満月が水面に写し出されている。まるで一枚の絵画のようだ。

音もなくただ静けさだけがある。


…………………………。


おっといけないポエムを詠んでしまったぜ。テヘッ


「ツナ、現実を受け止めろ」


…………………………………………ブチッ!!


「受け止められるか!!ボケ~!!」


現実を受け止めろきれず暴走モードになった親バカが1匹。きっかり1時間暴れやがった。


▼▼▼▼▼


オレと姐さんになだめられやっと落ち着きを取り戻してくれたバカ、もといツナのオッサン。

まったくこれだから親バカは困るし年寄りはめんどくさい。後おっさん多過ぎウチのもう一人のおっさんがここに居たら三匹の…ゴホッゴホッ。


「鎬さんそろそろ本題いい?」


姐さんが鎬のおっさんに目的を促す。


「だな、ツナをこれ以上いじっても仕方ない」


あんた毎回こんなことしてて飽きないのかよ。


▼▼▼▼▼


「この前、うちの若いのが来ただろ、その事なんだが……」


鎬のおっさんの話では、ここ最近起きている連続放火事件から始まる。


「初めは一月前、ゴミ捨て場のゴミが燃えた程度の話だったんだが、放火事件ってのは物的証拠が見つかりずらくて犯人の立証が難しいんだ、だから捜査するにも中々…それが1週間に1回の頻度で不審火が起こるようになってきた時、ついに死亡者かでた。一軒屋に住んでるじいさんで周りの住民が気づいた時にはもう手遅れ、その日は風も強くて火の廻りが早かったせいもある。それで捜査本部が立ち上がった頃さらに放火の頻度がまして3日に1回のペースで起こるようになって死傷者もふえた。で、本部も無差別の放火殺人ってことで捜査方針が決まっていざ捜査員を大量投入って事になったとたんぱったり火付けがなくなった」


「それなら捜査は打ち切りってことっすか?」


「マサ、話は最後まで聞けよ」


異常とも言える頻度で起きてた放火事件が最近になってパッタリと無くなった。

しかしここ最近になって不審火が続いていると言う。


「火付けでが無くなる1日前ウチの若いのも巻き込まれてんだよ住んでたアパートは半焼ですんだが、逃げ遅れやがってしばらく入院。そん時に火元の側から焼死体が見つかった。オレはこいつが犯人だと思ってる」


因果応報、放火犯が炎に焼かれ死亡、お笑いにもなりゃしない。


「おっさんのその仏さんが犯人だと思った根拠は?」


「根拠何てもんはねぇよ、かっこよく言えば刑事のカンてやつだな」


この人は下手なくせに演出好きなんだから。


「本当はどうなんですか」


「マサ、もう少し付き合ってくれてもバチは当たらんと思うぞ」


「ハイハイ」


「可愛げのねぇ」


全く自分勝手にもほどがある。中年って皆こんななのか。



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鍛冶〈かなち〉 遊真蘭戸 @yuumarando

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