エピローグ
さて、この状況はどうひっくり返せるか。
「まあ、普通に考えれば無理です」
魔術師が冷静に分析する。今まで私たちを守っていた扉は、今や完全に開け放たれてしまっている。魔王軍の主力である黒い影がぼんやりとした人型をとって、私たちを取り囲んでいた。
「ですが、姫様。まだ手はあります」
魔術師が懐から封筒を取り出して、私に手渡してきた。
「これは――履歴書?」
「そうです。もうこうなっちゃったら、この世界は捨てましょう。どこか別の企業とかに召喚してもらえばいいじゃないですか」
「なるほど」
発想の転換だ。呼び寄せるより、行っちゃった方が楽に決まっている。
なにせ私は、すでに完璧な履歴書の書きかたも、面接のやり方も、企業の思惑だって理解しているのだから。王女経験アリという経歴も、そこに華を添えるだろう。
「ちなみに私は、すでに履歴書を送っています。世界的な大企業の研究職ですが、まあ三顧の礼くらいしてくれるならいってやってもいいかなと」
「あら、手が早いのね。私はどうしようかしら――テレビ局、広告代理店、出版社、外資系企業も悪くないわね」
「姫様なら引く手あまたですよ」
「ええ、そうね」
私はペンを取って、猛然と履歴書の空白を埋め始めた。
自信はある。自信はあるけれど、もし通らなかったら――。
「ククッ、王女よ。もはや逃げ場はないぞ!」
多分死ぬだろう。
飛び掛ってきた魔王の攻撃に目を瞑って、私は、履歴書が通り、笑顔の行きかう面接を終え、万来の拍手と共に入社式を迎えるその日を夢見た。
勇者面接、始めます! 只野新人 @Masked
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