199XのシンデレラⅢ

 深雪の小学生時代・・・、いじめられっ子、お父さんがいない、おとなしい、勉強も運動も苦手、本が好き・・・・・・、いくつかのキーワードから、成一郎に関する保存された記憶を検索していく。


 (遊び仲間に誘われて、何も考えないでついていった所は、あの、背の高い、優しい、あのお兄ちゃん。名前も知らなかったけど、みんなに優しくしてくれた・・・。私みたいなダメな子にも、学校の先生みたくひいきなんか全然しなくって、私にも、笑顔をくれた、あのお兄ちゃんが、成一郎さん・・・だった・・・・・・・・・!?)


「思い出せた・・・?!」


「うん・・・・・・・、でも、どうして? 私って、すごく、地味でダメな子だったのに、ずっと、覚えててくれたの?」


「でも、一番、心のきれいな子だったよ」


 艶やかな長い髪の毛を指先で器用に弄びながら、成一郎は、深雪の潤んだ瞳を凝視した。


「ずっと、深雪のこと考えてたわけじゃないけどね・・・・・・。今までは、社会に出て、生きていくためにガムシャラに走ってたけど、何とか成功して、いろいろ考える時間ができた、そうなると、昔の事を思い出すものでね。いろんな女性とも付き合う機会もあったけど、控えめで従順だけど、辛い環境で努力が実らない、可愛そうな子がいたなあって・・・。でも、その子は、苦しみを受け止めて、必死でがんばってた。あの子は、一体、どうなってんだろう・・・・・・。気になってね」


 髪の毛に触れてた指先が、背中と腰のラインを撫でている。深雪は、身体全体が火照ってくるのを感じた。


「あの頃と、何もかも変わってなかったね。深雪の境遇も、深雪自身も」


 成一郎は、3度目のキスをした。もう深雪は、完全な受身の態勢だった。何をされても、ジッとしているだけだろう。


「・・・・・・、結婚しちゃおっか!」


「えっ・・・・・・・・・!」


「もう一緒に住んでるんだし、って、俺は最初から、そのつもりだったけどね」


「ウソ・・・?!」


「深雪のお母さんも承諾済み、住み込み家政婦さんなんて言ってたけど、ホントは、婚約の申し込みしてたんだよ」


「じゃあ・・・、お母さん、あんなこと言ってたけど・・・・・・」


「俺の人格その他、自分で判断されて、娘をヨロシクってこと」


「そうだったんだ・・・・・・」


 ひどい母親と、少しでも(実は、かなり)恨めしく思っていた自分が、悔やまれた。何もかも承知で、深雪をここへ寄越してたのだった。突然の嬉しい出来事、自分の周りの人間が、こんなにも暖かかったこと、深雪の頬に感激の涙が零れ落ちた。


「ん~、高校卒業するまで我慢しようと思ってたんだが、俺の理性は、一週間しかもたなかったなあ」


  成一郎は、深雪のドレスをゆっくりと脱がした。下着姿のはちきれそうな瑞々しい肢体が、男の前にさらけ出された。


「・・・・・・・・・・・・」


 深雪は恥ずかしさに俯いて前を両手で隠したが、豊満な乳房の谷間が余計に強調される。


「・・・なんか、立派に成長してるなぁ」


「ヤダ・・・・・・・・・」


 


 


 


 暗闇の中、二人の荒い息遣いとシーツの擦れ合う音、ベッドのスプリングが軋む音だけが響いていた。深雪は、身体中をまさぐられ、愛撫される感触を強く感じた。でないと不安になってくる、これは夢じゃないのか、と。今までの人生を振り返ると、何だか出来すぎているような気がする。興奮で意識が遠のいていく中、ふと、掛け時計の針を見た。日付が変わっている、12時過ぎている、魔法は、まだ解けてない。


「これ・・・・・・、夢じゃないよね・・・・・・?!」


「ご安心を・・・」


 優しく微笑かける成一郎、深雪の不安を打ち消すように、さっきよりも力強く愛してやる。そんな悪い考え事は、頭の中から消えてゆく。


 夢かどうかなんて、夜明けが来ないとわからない。目覚めてみないとわからない。深雪は、そう自分に言い聞かせた―――――。


 


  終わり


 

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100行のロマンス 茅ヶ崎ぽち @pochitamax

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