足元にライト照らして 7

 放課後、講義室1に来てみると俺以外の研究部全員が既に来ていた。

「遅いぞ、元気!」

 篤志が手招きする。これから七不思議の1つ、放送室の件についての真相を聞くのだ。そういえば入部の時もそうだったよなあと思いつつ、俺は4人がいる席の近くの席に座った。

「でもさ、元気は分かったんじゃなかったっけ」

 篤志がそういうと、澄香が身を乗り出してきた。

「元気、もしかしてお父さんから聞いたの?」

「そうじゃないけどね」

 どうやら話した方がよさそうだ。

「父さん、一度落ち込んで帰ってきた日があって。たまたま見ていたサスペンス系のドラマを見てさらに落ち込んでたようだった。で、増田教頭先生の話を聞いてちょっと思ったんだ。もしかしてあの日父さんが落ち込んでいたのって、昼の放送を止めたからじゃないか、って」

「昼の放送を止めた?」

「そう。澄香、昼の放送でかけるCDとかって誰が選んでくるんだ?」

 澄香はいきなり話を振られて動揺していたようだが、「生徒が持ってきたものを放送委員がかけるから、放送委員だよ」と答えた。

 放送委員ということは生徒が決められるっていうことだ。昼の放送を切っているクラスが多い中でおそらく選曲をしていたのはごく一部の生徒。そしてもし放送委員が学校全体に放送を流しているという意識が薄くなっていたら。

 表現規制が敷かれてもおかしくない、少なくとも中学生が聞くにはふさわしくないものが流れていたかもしれない。

「放送の内容が不特定多数が、それも中学生が聞くにふさわしくないことに気づいた父さんは、きっと放送室に駆け込んで止めさせたんだ。おそらくその時『やめろ!』って叫んで。同時にスタジオの音を切ったせいで音が乱れた」

 俺は澄香と牧羽さんの方を見た。真相を聞いているのはこの2人だ。

「実際に起きたこととしては大体あっているわ。流していたのはかなりグロテスクな内容を含むものだったみたいよ。おそらく放送委員たちは放送が止められたことを根に持って噂として広まるように、こんな話をでっちあげて後輩に教えた。嘘だと言い切れる生徒もきっと少なかったのよ」

 牧羽さんはそう言って腕を組んだ。

 父さんはそんな日に限って家に帰ってきてドロドロのサスペンスを見る羽目になった。母さんは結構好きみたいだけれど、父さんはきっと悩んだんじゃないか。昼の放送くらい、自由なものにしてもいいと。でも、学校で流すものとしてふさわしいものか? そもそも放送を聞いている生徒全員がそういったものが好き、いや聞いていられるものなのか? 学校の放送は嫌なら聞くなって言うわけにもいかない。だからあの夜悩んでいた。

「蓬莱先生が放送を聞いていたおかげで救われた生徒もいたんじゃないかな。先生方も大変なものだね」

 冬樹先輩がつぶやく。

 思えば、昨日は田村先生、増田教頭先生、逢坂先生と多くの先生方に迷惑をかけたようなものだ。

 誰かがこうして見守ってくれているおかげで俺たちは学校生活を送ることができる。アクシデントがあっても七不思議で済ますことができるくらいに。

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足元にライト照らして 平野真咲 @HiranoShinnsaku

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