カフェと本の店、ちわわブックス
まよなかちわわ
第一章始まり
第1話ちわわおばあちゃんと少年
黒髪の小柄な少年は、くすねた使い古しのテレホンカードをドアに差し込む。そして、カードを上にスライドさせた。
カチャ!
「やっぱり、鍵代えなかったな。ちょろいもんだ」
少年は、カードを胸ポケットにしまい、カフェと本の店、ちわわブックスのドアをそっと開けていく。左手を上に伸ばし、ベルが鳴るのを止めた。そして、部屋にそっと入る。
「さて、
少年は、ドアの右手の三列の本棚を物色して最下段の六巻並んだ赤表紙の分厚い本のうちの一巻を引き出して、両手でかかえた。
さっさと帰るかと少年は、思ったが、三列の本棚を奥まで行った窓辺のテーブルの上に眼を止めた。開いた文庫本サイズのノートがある。
日記かな?
好奇心旺盛な少年は、興味をそそられ、近づいて、テーブルに赤表紙本を置いた。そそくさと眼をノートにやった。
○月×日
犬友達のランディさんから、カフェと本の店を安価で譲り受けた。どうやら、高齢化と万引きに悩まされていたよう。
○月×日
万引き犯は来なかった。
○月×日
今日は、ある試みをしてみようと思う。
お店を昼間ちょっとクローズして、様子をみることにする。
その時、ノートを読むのに夢中だった彼は誰かに肩をたたかれてビクッとした。振り向いた少年が見たのは、大柄で白髪のおばあちゃん、ここの店主ちわわおばあちゃんだった。少年は、素早く赤表紙本を抱えて、ちわわおばあちゃんと本棚の間をすり抜けてから、ドアを開けて、外へ出ていく。
リンリロリーン!
「待てー!」
少年が振り返ると、ちわわおばあちゃんが、おばあさんとは思えない動作で足をドカドカと運んでいる。
「待ってられるか! この本を売って
ちわわおばあちゃんも、負けじと足の回転を速くさせる。そして、なんと、追いついて少年のゴムでくくった髪の毛をつかんだ。
「いてぇー!」
「なんで、本を売って金に代えるのかいってごらん!」
ちわわおばあちゃんは、黒い眼をきりっとさせて聞く。
「ちょ、ちょっと息させてくれ!」
ちわわおばあちゃんは、襟首を放し、肩から下げたショルダーバックから、水の入ったペットボトルを取り出して少年へ渡す。
「あ、ありがとう!」
少年は、大きく息をはいてから、水をごくごくと飲んだ。
「実は本を金に代えて夕食代にするつもりだったんだ!でも、もういいや」
少年は、赤表紙本をちわわおばあちゃんにさしだす。
パーン!
少年が、黒い眼をまん丸くさせて、たたかれた頬を抑えていると、ちわわおばあちゃんは、たたいた手で赤表紙本を押し返した。
「本を読むと約束するならあげるよ。あと、夕食は、私と一緒に食べるのはどうかね?」
「いいの? 約束する! この本読みたかったんだ。夕食もご一緒します」
「では、もう店じまいして奥の私の自宅で夕食とするか!」
「はい!」
少年は、ちわわおばあちゃんが手を伸ばしたので手を握り返してニコッとした。
一冊、さしあげなり!
少年がもらった赤表紙本は、J・R・R・トールキンの指輪物語の六巻のうちの第一巻
言わずと知れたロード・オブ・リングの原作。指輪物語のもとネタは、オペラになっているニーベルゲンの指輪だったりします。映画だけ観てる方も、長い話ですが、読んでみると新しい発見があるかも知れません。
私のベスト・オブ・ベストです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます