絶対王
鈍く光る鱗に覆われた赤い龍が、こちらを睨みつけるなり吼えた。海面から突き出した僅かな地面に、震動が大きく響く。
「機動部隊、ターゲットを後方に誘導!!」
「奴が隙を見せたら特攻部隊は一気に叩いて!!後もう少しで倒せるハズだから、迅速に!!」
持っていたメガホンでそれぞれ指示を出し、隣にいた少女の手を取って数十mほど離れた所へ身を移した。プレートアーマーを装備した部隊が、水上バイクに似た乗り物、「レガルタ」を駆使して風を切る様に龍の周りを旋回する。
「わ、分かりましたけど、尾でやられたりはしませんか!?」
ヘッドホンから頼り無さげな声がノイズ混じりに聴こえた。
「しないさ。ボク達が叩き斬る」
隣にいた少女がおもむろに鎖の付いた時計を取り出し、一回転させた。すると世界はぴたりと動きを止め、色を失っていく。
「……姉貴、後は頼んだ」
「千絋、今日の主役は新兵の人達だ。そんな事は言っちゃいけないよ」
唯一動いていた少女……千絋(ちひろ)に笑いかけ、龍の尾めがけて飛び出した。
風すらも動きを止めていて、頬には何も感じない。右袖を外しポーチに押し込んで、腕まくりをした。
「魔王拳・基礎ノ型……」
徐々に尾に近づいた所で、右腕全体が妖しい光を放つ。光はすぐに熱を帯び、鎌の様な形になった。
「__業火裁(イグジン・ブレイカー)!!」
千絋が時計をまた一回転させるのが見えた。
右腕を降り下ろした途端、爆音と共に龍の尾が抉り取られる。
断面が見えるグロテスクな尾を足場代わりに踏みつけて、千絋の元に戻った。
「……総員、突撃!!」
号令を掛けると、昂っていた兵士達は龍にも負けない声で吼え、一斉に攻撃した。
瞬く間に翼がひしゃげ、牙が折れ、胴体が抉られていく。やがて龍は轟音と水柱を立てて、海底に沈んでいった。
終わりの龍と時計塔 桐 式十 @zigrand
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