酔った勢いで萌え語りしてたらSS書くことになった件について

佳原雪

『主人公(男)がなんらかの不可抗力によって、性的情動を刺激されてにっちもさっちもいかなくなる話』を書こうとしたら大幅に路線変更することになった件について

タイトル通りです。以下、書き始める前に方向性を決めるために取ったメモになります。話が繋がらないので半分くらい無視して書きました。

『責められる方 サラリーマン 若い 電話番 園芸 タイル張り趣味 家がビオトープ 背が高い 年相応の顔 俺 黒』

『責める方 背が低い 人間であることに誇りを持っているタイプの人間 高飛車 カビ菌を家で育てている 茶色』


『3000』


以下本編です。


家で床のタイル貼りをやっていたところ、白色のタイルがなくなってしまったので、俺はホームセンターへきていた。そこでザイルを物色していた男(聞けば麻縄を探していたらしい)と趣味の園芸の話で意気投合し、家にあるという食虫植物やシダ類のコレクションをぜひお見せしたいという話になり、今に至る。

俺はいま縛られて、温室の床に寝かされている。先ほど見た食虫植物・菌糸類のコレクションは見事だった。きちんと見る前に縛られてしまったのでものすごくもったいないことをしたような気がする。気がする、ではない。もったいないことをしたのだ。あんなもの、お目にかかれる機会なんてそうそうあるもんじゃない。

俺は鼻を鳴らした。嗅ぎ慣れた湿った土の臭いからは、よく手入れされているであろう事がわかる。まめな人間なのだろう。ロープもかなり几帳面に結ばれていて全然取れない。

「ジャガイモは好きですか? 銀杏に興味はありますか?」

頭の上から降ってきた言葉に俺は首を振ることもできず、目を瞬かせることしかできない。俺の家には桃の木はあるが、銀杏はない。俺は花が咲かない植物はあまり興味がないからだ。

「私はアレが、なんでしたっけ。そうですね、朝顔とか、好きですよ。胃薬になるんでしたか。忘れましたけど」

紙の箱を振る音が聞こえる。ぎしぎしと鳴るのは恐らく板状の包装だ。見えないので何とも判断が付かないが、トマトやパセリの種の紙袋ではないなあと、俺はなんとなくそう思った。

「アスピリンを土に埋めたら、双葉が出てこないかなあって思いますよ」

パキョ、と音がした。

「あなたもそう思いませんか」

俺は動かない首を何とか動かして頷いた。それは、目の前の男が恐ろしかったからではない。アスピリン錠剤から芽吹く植物というのを見てみたくなったからだ。どんな花が咲くのだろうか。糖衣錠の甘さは降雨量で変化はあるのだろうか。

「ココナツとかもいいですね。種を土壌に蒔けばどこでも芽が出るわけじゃない、というのは興味深いです。ほら、口を開けてください」

口に貼られていた紙テープをはがされた。粘着力自体はあまりないらしく、痛みなはかった。閉じた唇を割って、冷たい指が口内に侵入する。砂ぼこりの味がした。そうして、薄荷味のドロップのようなものを口に突っ込まれた。

「舌下錠です。飲み込まないように」

そうして男はそのまま口元を拭い、新しい紙テープを張り直した。この男はまめだ。間違いなく。



「人間の種は胎内以外でブくことはないんですよ。試してみていいですか」

そういって男は俺の尻を撫ぜた。やめろ、と言おうとしたが、口に貼られたテープにしわが寄っただけだった。

「あなた人間なのでしょう? 大丈夫ですよ。私もそうですから」

なにを言っているのかはわからなかったが、男は安心させるように頭を撫ぜた。抵抗しようとしたが、ロープが多少軋んだだけだった。男は俺を持ち上げて、テーブルのような場所に置いた。落とされるんじゃないかと思ってすごくこわかった。

そうして男は俺のズボンを半分ほど下げた。間抜けな格好になっているのがわかったが、特に男は気にしていないようだった。

「冬虫夏草って言いますよね。私はその類ではありませんので腹を食い破られる心配はしなくて大丈夫ですよ、安心してください」

そう言って尻に指を入れてきた。入れてくるまでにかなりのラグがあったのだが、その間ただただ俺は震えていただけだ。恐ろしくて仕方がなかったので、ずっと口の中に入っている飴のようなもののことを考えていた。まず、なかなか溶けない。これ自体が何かの種じゃないのか、という疑念がふとわいてきた。人間の唾液で植物は育つのだろうか。穀物やイモ類は分解されてしまうかもしれない。そうこうしているうちにぬるぬるしたものを塗りたくられた。目をつぶっているので感覚がひどく鋭敏に感じられた。

「種とは言いますが実質花粉のほうが近いのかもしれません。まあ、この際どうだっていいことですね」

突っ込まれたものは指ではなかった。


圧迫感の変異で、終わりがわかった。ティッシュを引き出す音がして、むき出しになっていた尻が拭われる。男はあろうことか俺の寝ている台の上に丸めたティッシュを放った。何か言おうとしたが、文句は脳にかかった靄と紙のテープに阻まれた。男が大きなくしゃみをして、鼻をかんだ。台の上のゴミが一つ増えた。

「外ではスギが花粉をまき散らしていますが、私はデンドロ趣味はないんですよ」

ぼんやりした頭では言っている意味が分からなかったが、スギがそんなに好きじゃないということは何となくわかった。

「フェティシズムの性癖はないんです。人間が好きなんですよ、あなたはどうです?」

回り込んできた男は丸めたティッシュを掴んでゴミ箱へ捨てた。何か言おうとして口を開けようとした。紙テープにさらに皺が寄った。

「あらら」

皺だらけの紙テープは剥がされた。

「……あー」

「どうですか。それとも人間にレイプされてそれどころではないですか?」

そう言いながらロープが解かれた。わかってるならやるなよ、と思った。ロープで縛るのは監禁だし、性的暴行は犯罪だ。だが酸素がきちんと供給されて意識がはっきりしてきた俺はそれどころではなかった。

「タイル……!」

作業を途中で中断してホームセンターに行ったのですべてがほったらかしだ。俺は焦った。このままでは押しかけてくる分からず屋の悪友どもに貼りかけのタイルが荒らされてしまう。酒盛りするのは百歩譲って構わないとしても(それでもマナーとしてどうかとは思うが)、庭に出て吐きたがるのは本当にやめてほしい。

「は?」

「話はあとだ! 俺を家に帰らせろ!」

俺は叫び、跳ね起きた。足腰が立たなくなっていた俺を、男は車で送ってくれた。なんかやたらでかい車だった。聞けば、土や植木鉢の搬入に使うのだそうだ。そうこうして家についたが、歩けなかったので俺は男の肩を借りた。男は、なんかえらいことになってしまったぞ、みたいな顔をしていた。

「なんで私が他人の家でこんなことしているんでしょうかねえ……」

中庭に出る勝手口の前に土嚢を積みながら男は言った。俺が積むように指示したのだ。こうしておけばタイルは安全だ。ガラス戸の向こうでは酔っ払いたちがゾンビのように右往左往している。サバイバルゲームみたいでちょっと面白いな、と思った。

「それで、どうするんです? このまま警察に駆け込みますか?」

こいつ、律儀だな、と俺は思った。俺がそうだと言えば、抱えて連れて行ってくれるとでも言うのだろうか。やるかもしれない。

「いや、コレクションをもう一度見せてくれ。まだちゃんと見てないし、あんたが捕まると菌糸類がだめになる。それは困る」

男は狂人を見るような顔で俺を見た。同性をホームセンターで拐してきた人間に狂人扱いされるというのは決していい気分ではない。自分のことを棚に上げていると指摘しようかと思ったが、立ち上がることが出来ず、相手が激高した場合かなり不利なのでやめておいた。


そうして相手の律義さに付け込んだ俺は男に土嚢の片付けとタイル貼りの手伝い、悪友の吐瀉物の処理までさせた。途中散々文句を言われたが、家で採れた青梅を渡したら黙った。その後、喜ぶと思って渡したコスモスの種はあまり受けなかった。朝顔がよくて、コスモスが駄目な理由、俺が男の植物の趣味に気が付くのは、もう少し後の話だ。


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酔った勢いで萌え語りしてたらSS書くことになった件について 佳原雪 @setsu_yosihara

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