第15話
都会は夜も眠ることなく騒がしい。昼ほどではないにしても人が行き交い、道にはライトを点けた車が連なっている。そびえるビルにもまだ明かりの点いているものが目立ち、救急車のサイレンやらクラクションやら雑踏の音やらで物音も絶えることがない。年がら年中人の気配というものが消えないのかもしれない。
そんな街の電波塔の上で大きな音が上がった。何かが電波塔にぶつかったようだ。衝撃ではがれたのか鉄片がいくつかと、何か大きなものが落ちてきた。行き交う人々は声を上げながら逃げ出し、その物体は地面に落ちてヒビを入れた。幸いけが人は居ないようだった。落ちてきた物体は人間だった。ただし、体中に訳の分からない装飾品を付け、皮膚にはおびただしい量の刺青が入った、明らかにまともではない男だった。失神しているのか呼吸はしているがピクリとも動かない。その人間の横にまた何かが降りてきた。比馬だった。
「あぶねぇだろうが! ヨソでやれ!」
一人の男が叫ぶと、それを合図にして人々はさっきと同じように歩き始めた。
「スマン」
比馬は静かに言ったが叫んだ男には聞こえていないようだった。なんの反応もなしに行ってしまった。比馬はボサボサの頭をボリボリ掻く。それから懐からロープを取り出し、横でのびている男を縛った。しかし、それから少し考えこみ、さらに二本目を取り出してより厳重に縛った。
「いやぁ、今回も見事なお手並みでしたよ」
「・・・・お前か」
いつの間にか比馬の横に滝田が立っていた。いつものように意味もなく笑顔だ。
「いやぁ、久しぶりの大捕り物でしたね。業術士『暁権』、捕縛完了です」
そう言いながら滝田は携帯を取り出し、操作し始めた。
「ところで比馬さん。あの少女のところには今日も行ったんですか? 確か毎週水曜に面会に行ってるんでしたよね」
「ああ、行ってきた」
「物好きですねぇ。もう済んだ事件の犯人のところへ通うだなんて」
「仕方ない。俺があいつを刑務所に入れたようなものだ。付き合うのが道理だ」
「真面目すぎるんですよあなたは。で、様子はどうなんですか」
「ひどく荒れている。自分の犯した罪の重さに耐えられんようだ。自殺までほのめかしている」
「まぁ、それだけのことをしましたからね。年端もいかない女の子に受け止められるはずもないですよ」
「苦しんでいるあいつを見ていると正直俺も辛い。これで良かったのか分からなくなることもある」
「でも、苦しめるってことは少なくとも自分のしたことと真正面から向き合っているんでしょう。なら、救いはあるんじゃないですかねぇ」
「そうだな。だから、やっっぱり最後まで付き合ってやらねばならんのだろう」
「本当に真面目ですねぇ、比馬さんは。そういえば、あの神内という男のこと、少し分かりましたよ」
「ロストニューヨークの生き残りなんだろう。それで妙な力を手に入れたとか、研究所を転々としていたとか」
比馬は軽くため息をついた。
「おや、よくご存知で」
「本人から聞いた」
「それはそれは。付け加えると、あの男孤児だったそうです。幼いころ事故で自分以外の家族を亡くしてます。それから施設暮らしで、そこを出た後は世界各地を放浪していたとか。立ち寄ったニューヨークで事件に出くわしたわけですね。あの男も今は重犯罪刑務所に入ってますよ」
「そうか」
ピロリンと、滝田の操作する携帯から電子音が鳴る。
「さて、送信完了と。これでこの件は一件落着ですね。悪いやつが悪いことをしているだけの山はそいつをとっ捕まえれば終わりだから楽です。報酬はいつもどおり、後日口座に振り込まれますので」
「分かった」
「ところで、次の仕事の話をしてもいいでしょうか」
「何だ早いな」
比馬は訝しげに眉を潜める。
「ええ、取り急ぎだそうなんですよ。何でも事件の犯行予告があったとかで。何人か当たったんですけどことごとく振られましてねぇ」
「それでまた俺に回ってきたのか」
「どうします。報酬ははずみますよ」
「仕方ない、やろう」
「大変助かります。比馬さんにはお世話になってばかりですねぇ。今度寿司でもおごりますよ」
「そう言っておごったためしがないだろうが、お前は」
しばらくすると警察が来た。滝田に手帳を見せお互いに手続きを済ませるとのびている男を護送車に乗せた。二人はいつもどおりそれを見送った。仕事が終わったのだった。
「さて、ではご案内しますよ」
「ああ」
二人は歩き始めた。街の大型ビジョンで崩壊した街の様子が流れた。
「幸せになってもらいたいものだ」
「ん、あの子の話ですか」
「きっと手に入る。また、いつか」
もう深夜になるというのに街は相変わらず騒がしい。人や車が行き交い、明かりに彩られている。沢山の、本当にいろんな人間が営みを繰り広げている。
世界壊しのデミゴッド 鴎 @kamome008
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