歯列共生
グリップダイス
歯列共生
ガリッッ!
口の中に鋭い痛みが走る。左頬の内側あたりに。
……噛んじゃった。
そう思って、舌を動かす。
噛んだところを舌で触ってみた。
ベラッとした肉の付いた皮の感触。やっぱり削げてる。
鉄サビのような血の味が口の中に広がる。
まあ、何かの拍子に口の中を噛むなんて良くあることだ。
すぐに気にならなくなる。
そう思った矢先。
ガリッッ!
再び口の中に鋭い痛み。しかもまた左側。
……また噛んじゃったよ。
一応、舌で確認してみる。
ベラッとする部分が増えていた。
さすがに口の中が痛い。
っていうか、口の中のそこらじゅうが痛いんですけど。
じんじんする。
……なんでこんなに痛いんだ?
ちょっと心配になって、右の人差し指を口の中に入れてみた。
なんかしょっぱい中にも甘みがあるな……
とか考えながら、指先で創口のあたりを触ってみる。
びらびらしているけど……別にそれほどの痛みはない、と思う。
で指を抜く。
すると口の中がじんじんしてくる。
……? なんかできてるのか?
でも、そんな感じはなかったけどな……
目を開けてみた。いつもの壁がぼんやり見えた。
右を向いて寝るのがいつもの姿勢だ。
あたりはほぼ真っ暗だった。
仰向けになってみる。窓から少しだけ夜の光がもれてきていた。
音は何も聞こえない。
ただ、口の中がじんじんとして熱かった。
洗面所に行った。
ぱちん。
電気をつけた。蛍光灯の光がまぶしい。
洗面台の鏡の前に立ってみた。
で、口を軽く開けてみた。
……ん? あれ?
何か違和感を感じた。口の中に。
もう一度、口を開けた。今度は、思い切り大きく開けた。
!!!
目を疑った。
鏡の中に映る口の中には、これでもかと言わんばかりに生えていたのだ。
そう、一面に。
鋭く尖った白い歯が。
剣山のように。生えていたのだった。
反射的に口を閉じた。
閉じたものの、確かに見てしまった。
……なにこれ、こわいんですけど!
恐る恐る口を横に開いてみる。
普通に歯が並んでいる。
……見間違いかな? っていうか、見間違いだよね?
もう一度、口を開いてみた。
やっぱり口の中が白い剣山になっている……
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……
声の出ない悲鳴を上げた。
何度見ても白く鋭い歯が口の中、一面に生えている。
もともとあった歯が一列目とするなら、その内側に二列目、三列目が並んでいた。
二列目以降は全部やたら鋭く尖っている。
まるでサメの口の中のようだった。
いったい、いつの間に……
何で気づかなかったんだ……?
っていうか、ヤバイ、怖すぎる。
マジでキモい。我ながらキモい。
鏡の前で口を開けたまま呆然としていた。
ヤバイ、ヤバイよ。
いくら何でも歯が多すぎる。
何とかしなきゃ。
どうすればいいんだ!?
頭をフル回転させて考えた。
こんなに考えることは最近ない。
……ないけど……閃いた!!
そうだ!!
歯を抜こう!!
我ながらナイスなアイディアだ。
さっそく口の中に指を突っ込んだ。
しかし、ここで大きな問題に直面した。
鏡を見ながらとはいえ、どの歯が新しく生えた歯なのかわからない!!
しかも、どの歯もしっかりと生えている。
簡単に抜けそうにない。
どうしたらいいんだ!?
このままじゃ、ヤバイ。
そう思いながら手当たり次第に歯をいじっていた。
すると、そのうちの一本が何となく抜けそうな感じになってきた。
よし、いいぞ。
この調子で抜いていけば……
と思ったけれど。
ふと。
もしかして、せっかく生えてるのに抜く必要はあるのかな?
歯って生え替わったりしないし。
本当に抜いちゃっていいのか?
などという考えが湧いてきたのだ。
そんなことを思い始めると。
だいたい、どの歯が必要ないかとかわかんないしな……
それに口の中を見せるってあんまりないし……
まあ、歯がいっぱいある分には、きっと困らないよね。
っていうか、きっと困らない!!
一列目がダメになっても二列目、三列目があるって感じ?
なら、問題ないんじゃないかな!?
……うん、きっと問題ない!!
むしろ、良かった!!
口を閉じた。
もう一度鏡をみたけど、普通だった。
きっと、みんな、人の口の中なんか気にしない。
歯の数なんて数える人もいない。
そう思ってもう一度寝直すことにした。
めでたし、めでたし。
もとい。
歯出たし、派手たし。
歯列共生 グリップダイス @GripDice
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