第11話 サブゲーム

 熊鍋をやけ食いした翌朝。ゲーム終了まで残り1日。折り返し地点となったこの日、レンは隣室のバルコニーですやすや眠っているセイを見て呆れた。


 彼は軒下に吊るされていた。


「何したんだろうな……まぁ、あいつの性格からして多分、夜這いかなんかだろうが……それにしてもよくあんな状態で……」


 一応、頭に血が上らないように配慮してあるのかちゃんと頭が上の状態で吊るされているがよく寝れるなと妙な感心をしてレンはベッドに腰掛けた状態から立ち上がる。そして思った。


「はぁ……皆死ねばいいのに……」


 立ち上がった時点で今日のやる気は皆無であることを体感したレンは再びベッドに倒れ込み、天井を仰ぐ。木目が顔のようになっているのを見て他にないか探しつつ溜息をついた。


「今日はもう使いもんにならんな……何にもしたくねぇ……はぁ……ゲームって自由度だけを高めればいいんじゃないんだよなぁ……ストーリーがないと……つーか自由度を高めるなら高めてもいいんだけど俺だけ縛りの意味が分からん。あー面白くない」


 そんなことを考えながらこれからの展開について思いを馳せる。


 今回のこの場所で残されたイベントはプレイヤー同士の殺し合いくらいだろう。最終日に【玉】を集め損ねた人々と集めきった人々による奪い合い。


 物語性もなく、暴力が好きな人たちしか得のなさそうな展開を予測して別にすぐに治るのであれば喧嘩してもいいが、能力も使えないのに今からずっと考えてやるほど楽しみではないと寝返りをしながら欠伸をする。

 喧嘩は明日実行するだけでいいと今日は考える事すら放棄してレンはもう一度吊るされているセイを見た。


「……あいつ使って何かできないかな?」


 今日の暇つぶしのターゲットとして使えないだろうか。具体的には何か笑えそうな展開の材料、もしくは色恋沙汰の展開に繋がるようなモノを生み出せないかとレンは考える。

 少なくとも現在から策謀を巡らせてプレイヤーを見つけては殺し、明日はもう帰るだけにする展開よりも今のレンにはそちらの方が好みの展開だ。


「……まぁ、ミノムシ君のサブクエストがハクとか言う奴をデレさせるとかいうよく分からんものだし、それを実行できるように手伝うというスタンスで軽くイベントを行うか」


 しかし、いきなりやる気が出るわけでもないのでしばらく起きずに横になったままいい加減起きたらどうだろうかとイリスが様子を見に来るまでレンはベッドから出なかった。







「……王様ゲーム?」

「そう。セイがどうしてもやりたいって。」


 昼過ぎ。

 恩赦でセイが解放された後、4人で食事を摂りながらレンはイリスと、セイにあのまま縛っている状態であーんをしてくれても構わなかったのにと絡まれているハクにそう告げ、訝しげな目で見られる。


 まずは、ハクからセイへの尋問だ。昨晩から殆ど縛られていたセイとレンの間に交流があったとは考え難いが、果たしてどうなのだろうかと尋ねてみる。


「……セイくん、本当かな?」

「……出来る事ならばやる! 男子たる者一度は一国一城の主を目指したいもの! 大丈夫、安心してくれ。正妻の座は君の為に空けてある! さぁ、偉大なるハーレムの第一歩を刻もうじゃないぎゃぁああぁ!」


 別にセイが王様ゲームをしたいと言っていたわけではなかったのだが、やるならやりたいということで、セイも参加。それを見て仕方がないとばかりにハクも同じく動き、イリスは孤立した。


 取り敢えず、イリスは至極真っ当な意見を言っておく。


「……何でも言うことを聞かないといけないのでしょう? そんなリスキーなことやりたくないわ……身の危険を感じるから……」

「大丈夫、紳士たるものそこまで酷い命令を出したりはしない! ところでどの辺からアウトかな? 流石にベッドインは不味いよね? じゃあ、ディープキスならセーフかな?」

「キスの時点でアウトだよっ♪」

「にぎゃぁぁぁぁあっ! 頭が割れるぅっ!」


 アイアンクローで頭蓋が軋む音を聞きながらレンは「元気だな……」と呟いてイリスを見、曖昧な笑みを浮かべる。その時点でイリスはカチンと来た。


「……上等よ。レン、こんなゲームしようと言ったこと後悔しなさい。跪かせて椅子にしてあげるわ」

「まだ何にも言ってないんだが……」


 勝手に煽られたイリスも参加するということになり、食事後ゲームの準備を始めることになった。



 ルールは


 まずくじを引いて王様を決める。


 次に王以外の3人が自分たちで書いた命令を集めたくじを1つ引き、王様にそれを渡す。


 王はその命令を選び、何番が実行するかを決めることが出来る。


 挑発に乗ったイリスだったが、リスクを考えて色々意見を出し、こんな以上のようなモノに決定した。



「さて、じゃあ開始する。王様誰?」

「……何かもっとテンション上げていけませんかね?」

「いや、準備するまで楽しかったんだけどねぇ……」

「いやっほぉぉぉおおおぉぉっ! 俺が、王だ!」

「……そこまで上げられたらムカつくかな☆」


 既に飽きが来始めているレンだが言い出したのは彼だし、やり始めたら案外楽しくなり始めるものだろうとはしゃぐセイとそれを強制的に落ち着かせるハクを横目に粛々とくじを引く。


「……歌を歌う?」

「言論統制……王はこれ以降、現王が定めた単語の発言を行った物にペナルティを科すことが出来る?」

「ハグ……何かイリスさんのだけおかしくないですか?」


 ハクの言葉を受けてイリスはレンを見た。自分が書いたわけでもないので彼が書いたのだろう。しかし、レンはそれに取り合わずにセイに先を促す。


「おら、早くしろ」

「勿論、ハグだ! 狙いはハクさん君に決めた! 3番は王にハグ!」

「……何で分かったの……」


 何となく嫌そうにハクは命令に従ってセイに1秒程度ハグしてすぐに離れる。


「短っ!」

「ハグしただけちゃんとしてるでしょ? それよりイカサマとかしてないよね?」

「ふっ、もしかしたら無意識の内に愛の力で通じ合っていたかもしれないことは否めないかな? もしそうであるならば非常に申し訳ない。でも、これが愛なんだよね」

「はーい次行こうか」


 今度はレンが王になった。


「……またハグなの? 何枚書いてるのかしら……」

「セイくん、ちょっとこれはやり過ぎじゃないかなぁ? キスって、こんなお遊びでしていいと思ってるの?」

「何で僕が書いたって決めつけるんだい? もしや、キスがしたかったとか? ならおいでハニー! 命令なんてなくても幾らでもしてあげよう!」

「あー……セイが引いたのは踊るか……じゃ、1番に2番と3番がキスとかでいいか。無難に」

「……はぁ?」


 イリスが絶賛大不機嫌でレンを睨む。彼の意図する命令は3人で仲良くキスしろということだ。ハクとセイだけならまだしもイリスまでさせるとはどういうつもりかと睨みつける。

 しかし、彼はナイスアシストをしたとばかりに軽く満足気な笑みを浮かべて手で促した。イリスは目を細めてレンを観察するが何の裏の意図も発見できなかった。


(……まさか、寝取られる趣味でもある……訳じゃないわよね。流石にパートナーの趣味はある程度把握してるわ……人間関係に関しては過剰なまでに潔癖症だから私が……)


 微妙に雰囲気が悪くなる中でイリスは様々な方向に思考を巡らせて何故場を整えたのに3人で仲良くしないのだろうと言わんばかりの表情をしているレンを見てある可能性について思い当たる。


(もしかして、この男……私が彼らのパーティと同行した方が良いという提案をしたのを勝手に私がセイのパーティに入りたいと言ったとか曲解してる……?)


「えーと、私が2番でセイくんが3番だから、失礼します……」

「手の甲をお貸し下さい女王陛下your Majesty! 私はあなたの剣となりましょう!」

「……屈辱だわ」


 何笑ってるんだとばかりにイリスはレンを睨みつける。セイにキスされた後を乱雑に上着で拭くとレンを睨みながら半ば意地でゲームを続けた。


「ふっ……来たわ」


 果たして、イリスが女王様になり勝ち誇った笑みを浮かべた。それに伴い他3人が命令を引く。


「言論強制、王は3分間、他者の発言を定めることが出来る」

「あ、人間椅子だ……」


 イリスは思わず笑みを浮かべた。レンのくじの番号は彼の瞳に映っていた番号から推測するに3番。もうこれは決まったとばかりに顔を綻ばせた所で最後にセイが引いたくじを読み上げる。


「えーと、王は自由に現在のパーティから離脱できる?」

「3番、あなたのパートナーとあなたのパートナーの名前が誰であるか答えてそれを肝に刻み付けるまでずっと言い続けなさい」


 一瞬般若の如きオーラを漂わせたイリスはレンにそう言いつけた後王様のくじを圧し折って続ける。


「それと……今日の宿は私とレン、セイとハクの振り分けでいいかしら? 1番と2番は『はい』と言いなさい」

「はい!」

「Yes, mam!」

「……はぁ、レンとイリスはパートナー、レンとイリスはパートナー、レンとイリスはパートナー……」


(何考えてるんだろうなー……セイへの覗き対策かねぇ? でも俺が居たら本末転倒じゃないかなぁ……)


 くじが折れたことで王様ゲームは終了。この日はもう翌日の殺し合いに向けて英気を養うために休憩することになった。



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異星のげぇむ 迷夢 @zuimokujin

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