第10話 ざけろ
「マジですか……」
「……まぁ、彼ならやりかねないと思ってたけど……」
殺した後、熊を八つ当たりと解体の意味を込めて更に打ちのめしたレンを見つつ遠目にセイとハクが呟いた。
そんな血塗れになっている
それを見つつレンは一応救出しようと思ってこちらに来ていたらしいイリスの方を向いて
「……体力が回復だって」
「……あなた血塗れだから食べたらどうかしら?」
「えぇ……? 拾い食いすんの……?」
何故か調理済みらしい熊肉を食べるかどうか少しイリスと協議し、レンは体が痛いし、食べることでどれくらい回復するのか確かめるためにも熊肉を食べることに決定した。
「……おぉ、何か普通に美味い。牛のジャーキーみたいに固い肉だが……犬みたいな感じかな? 牛と豚で言うなら牛寄りで焼いてあるのに肉質が固い……」
「……あなた犬とか食べてるの?」
「いや、普段は食わねぇよ? 中2の夏休みに修行と言う名の名目でGPS付きの携帯持たされて1週間実家の山ん中に置いて行かれた時に野良犬を食ったくらいで……」
イリスは何も言わなかった。そんな感じの会話をしているとレンの体は何故か全回しており、大量に取れた熊肉をゲームらしいシステムにあるボックスに入れると全ての作業を終了して戻って来た。
「……さて、どうしよっかなぁ?」
「えぇと?」
戻って来ながら考え事をしていたようで首を傾げながら僅かに俯いてそう呟くレン。セイが若干畏怖の籠ったような声で応じると彼は顔を上げる。
「いや、これから何しよっかなって。俺のクエスト的に特にやることが決まってないし、暇だから個人的には見捨てやがった奴らを叩きのめすべきかと……」
「ご、ごめんなさい! でも、あんなの逃げるしかないって……」
「まぁ次から俺もお前らが襲われたら放置するからいいけど……村に入るとするかな……」
信頼回復のために頑張らないと叩きのめされるかもしれないとセイとハクは顔を見合わせて頷く。それを見て隙を見て殺すかという打ち合わせをしてるのかなと思いつつレンは村の方を見た。
(……熊しかいない村だったら嫌だな……まぁその時は身代わり君が2人いることだし投げつけて逃げるか。)
そういう訳で熊から逃げるために少し遠ざかってしまった村へと一行は入って行った。
「……まぁ、多分普通の村だな……放火すれば全部焼け落ちそうな普通の村だ」
「……碌でもない発想をまた……そういうのは口に出さない方が良いわよ?」
「でも、ここにいる連中ってNPCなんだろ? さっきのゲーム感からして話しかけないと反応とかしないんじゃねぇの?」
「あなたたちの基準とは違うみたいね。会話もするわ」
「そうか、じゃあ気を付けよう」
技術水準が違うんだろうなぁと思いつつレンは村娘を口説いてハクに飛び蹴りされて現在は足蹴にまでされているセイを見なかったことにして一先ずは泊まる場所を確保するために金を稼ぐ方法を考える。
「先に言っておくけど、住民を殺すとかはダメよ?」
「うわーそんなこと考えるんだー怖いわ~イリスさん怖いわ~」
「……何かイラッとくるわね……あなたなら効率を考えて元の場所に戻るんだからとか言ってやりかねなかったから言っただけなのに……」
「ふむ。まぁ普通はそう考えるよな……」
頷くレンにイリスはイラッと来たがこういう人だと自分に言い聞かせてこのゲームにおける基本的な枠組みを教える。
「いいかしら? レン、あなたは冒険者になるの。それで日銭を稼いで暮らすと良いわ」
「……理由は?」
「この場所は今回のゲーム終了後にいつでも入れるようになるの。もっと言うなら指令として入る可能性もあるし、ここで手に入れたものを別のゲームでも使えるから進めておいて損はないということよ」
「なるほど」
イリスの言葉に納得したレンは取り敢えず冒険者になるための職業案内所へと移動する。閑散とした場所で、村の若い人がちらほらと集まっているのが見えるだけだった。
「……寂れてるな」
「それは、村だもの……普通は畑仕事とかしてるわ。ここは冒険者としての登録と他への連絡、そして村役場を兼任している様な感じよ」
「……どうやって稼ぐんだよ?」
「ここじゃ無理ね。でも、あなたは熊のお肉を持ってるから冒険者登録してそれを卸せば普通に宿に泊まれるんじゃない?」
レンはその話を聞いてこれでは依頼もないということで職業案内所の扉の前でイリスに尋ねる。
「……え? じゃあこれ、村でこのまま過ごしたら特にイベントもないまま終了するの? 何そのぬるげー」
「知らないわよ……それに熊に襲い掛かられるってイベントはあったじゃない……もしかしたら、この村には入れない設定だったのかもしれないわね」
この村に入ろうとした場合にのみ現れる熊だったのかもしれない。イリスの発言にレンはこのまま村で一泊すればシナリオを進めていないことになるのではないかと考えて舌打ちをする。
「……後々進めろって言われた時に面倒だからな……先に行っておくか……」
「それも手ね」
「はぁ、また歩くのか……」
レンは嫌そうにちょうどハクと彼女に引っ張られてやって来たセイに今あったことを説明して再び移動を開始した。
「……結局、熊とは戦い損だったのか……」
「まぁでも、アレと戦って勝てたら何もしなくてもクリアっていうボーナスだったのかもしれないですよっとぉ! さり気なく肩を抱かない!」
「……そうね。その可能性もあるわ」
「ふむ……」
ハクとセイがコントをしているのを何となく見ながらレンは一応ギルドで登録しておいて町の方へと向かっていた。今度は多くの人々がいて、ぽつぽつと美男か美女と普通の人のペアを見かけることからプレイヤーも多くいるのだろう。
「今の内に殺っとくか……?」
「止めておいた方が良いわよ。集団で来られると今のあなたじゃ能力が封印され過ぎていて勝てないと思うわ」
「……そうだな。何か強そうな奴もいるし……」
イリスと並べばさぞお似合いだろうと思えるほどの美男子がレンの方を見ており薄く笑っていた。それを見てレンは目を少しだけ細めて踵を返す。
好戦的な笑みを注がれていたのにも拘らず何も言わず逃げ出したレンのことを訝しげに思ったイリスは彼の背中を追いつつ尋ねた。
「……どうしたの?」
「やべぇ。ホモに狙われてるかも知れねぇ……ちょっと様子見てから行くぞ」
「……そう……」
思っていたよりも適当な理由だったのでイリスは拍子抜けしたと同時に何となく落胆した。先程まで好戦的な笑みを浮かべていた男も面白くなさそうに肩を竦めて冒険者組合の中へと入って行き、そしてすぐに出て来るとどこかに行った。
それを見送ってからレンたち一行も入って行く。そのすぐ後に組合の奥から人がやって来て緊急クエストの張り紙を出した。それを気にせずに受付に行くと受付嬢が驚いたように声を出す。
「まぁ、隣村の冒険者さんですか! 今しがた、野党に狙われているという情報が入っています! 緊急クエストですので、すぐに戻って下さい!」
そう言って彼女は有無を言わさずに書類に判を押し、レン達に渡してくる。それを受け取ってレンたちは反論するまもなく追い出され、そして外で呟く。
「……何だこの理不尽。ふざけろ」
「多分、来た方角の村から出身が選ばれて最初のクエストがこれだったんでしょうね……」
理不尽だと思いつつ一行は再び村に戻って10人程度の賊を倒した。どう考えても熊の方が厄介だったのだが、村人たちは何を根拠に緊急としたのだろうかとレンは何も言わずに熊鍋を大量に作ってやけ食いをすることになる。
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