第8話 神主、再会する
ふと、猫の声が聞こえた気がした。
「……たま?」
そんなはずはない。
きっと何かの聞き間違いだ。
そう思っていると、もう一度声が聞こえた。
「ははは」
きっと野良猫がいるのだろう。
住居に戻り器にミルクを注いで外に出る。
きっとお腹を空かせているはずだ。
猫の声が聞こえるのは神社の階段を降りたところか。
そこはたまと出会った場所。
階段を降りる度、思い出が呼び起される。
気付けば頬が濡れていた。
一粒の滴。
大量の涙。
「ああ……」
私はこんなにも。
たまの事が好きだったのか。
また、声がした。
さっきよりもはっきりと。
この近くにいる。
私はその猫を探した。
そうして見つけた。
「にゃあ」
それは幼い少女だった。
「にゃあ!」
それは黒い髪だった。
「神主様ー!」
それは紫の目を持っていた。
「まさか」
それは赤いリボンをしていた。
「会いたかったにゃー!!」
それは、猫の耳と尻尾を持った少女だった。
ちりんと鳴る首元の鈴。
人の姿をし、それでいて猫のような特徴を持った、二本の尻尾を持つ少女。
猫又。
長い年月をかけた猫が化けた者。
凶暴な者もいれば、元の飼い主に恩返しをする穏やかな者もいるという、日本の妖怪。
「たま……?」
「はいにゃ!」
それは私の愛した娘。
私の愛した可愛いたま。
「たまっ!」
私は彼女を抱き締めた。
強く強く抱き締めた。
もう二度と放さないように、強く強く、抱き締めた。
たま 雪白紅葉 @mirianyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます