スマホでロボを動かせる世界で人生をやり直し

甲冑類

第1話


僕の名前は唐澤巻継、現在11歳のBMI30間近の健康優良児( 強弁 )である。


最近はそろそろ真面目に運動をしないといけないかと悩み始めている繊細な男の子だ。


現在地は電車で3駅目の町にある、大手の電気屋さんのとあるコーナー。


保護者の父も休日を利用して一緒に来てくれている。


今僕は、遂に待ち焦がれていた念願のあるモノを手に入れようとしていた。


それは、スフィアロイドと言われるロボットだ。


これは人間でいう脳の役割を果たすスフィア、と呼ばれる小さめの卵程の鈍色の金属球をはめ込む事で動く機械人形だ。


これは基本的には二足歩行をする子供程の大きさの人型をとるものが多いとされる。


このスフィアはほとんど人間と変わらない思考持つのが一番の特性だ。


一応ロボット三原則みたいなのも組み込まれている上に、必要以上に器物を破壊しないようにプログラミングされているらしく、とにかく高性能なAIみたいなものなのだ。


昔の製作者がロクな資料を残さずに亡くなってしまったため、今現在でも定期的に生産こそされているが、その造り方の詳細はブラックボックス染みてしまってるらしい。


この世界ではスフィアロイドを戦わせるスポーツが地球規模で人気を集めている。


戦うための武装が付けられているのが一般的だが、一応介護や危険な被爆地の探索を専門にしているスフィアロイドもいる。


用途に合わせた装備を作る企業はかなりあるが、やはり一番栄えているのは戦闘用である。


スフィアロイドといえばやはり、お互いの戦闘技術を競い合う試合、通称「マッシ」( machine とmatchを合わせたらしい)を行うのが主流とされる。


マッシが強いのは、もはや一種のステータスの一つとされていい時代にすらなってるいる。


それほどまでにスフィアロイドの試合に全世界は熱を上げ続けているのかもしれない。


そしてそれは、年端もいかない少年少女にもいえた。


勉強が出来る、楽器がうまく弾ける、運動神経がいい、とかいうもの中に「マッシが強い」というものもちやほやされる要因の一つとして数えられるようになった。


まあつまり、スフィアロイドを持ってないのは大人気のゲームやらカードゲームのデッキを組んでないとき問題に似ている。


実際には将来にすら若干は関わるので、比べものにならないほど大きいらしいのだが。


マッシの腕前で入学やら就職やらに影響するような御時世には最初は驚かせられたものだ。


「巻継、どれを買うのかはもう決まっているよな?」


スフィアロイドのコーナーに着くと、我が父親が話しかけてきた。


父は流行りものにはそこそこの興味を惹かれる性質なので、その声はほんの少しだが弾んでいた。


彼の時代には一家に一台スフィアロイド!とはいか無かったためだろうか。


今の僕の世代では、一家に二台ぐらいはスフィアロイドがあるらしい。


スフィア込みでの本体一式を買い込むにはノートパソコンより安い金額で済むようになっている。


そして、様々な型のスフィアロイドが年を重ねるたびに次々と生み出されており、その中には10年も前から生み出されてのにも関わらず未だにマッシ世界大会で現れるものがあった。


そいつの型式は『徹芯』。


膝や肩などにある角張った装甲が重量感を感じさつつも、その四肢はしなやかで無駄無く洗練されている。


最初に僕が見たスフィアロイドがその徹芯だった。


もう、そりゃすごい興奮した。


自分好みの姿形をしたロボットがテレビ画面の向こうで、四肢の半分を犠牲にしながら近接武器でトドメをギリギリで刺して劣勢を覆す逆転劇が行われていたのだ。


無関心でいられるわけがなかった。


5歳だった僕は、その日からスフィアロイドに夢中だった。


そしていつか自分の手元に来ることを夢想して、出来る限るの情報を集めたりもした。


この日の一年前になって、ハガネ社は徹芯の正式な後継機である『錬思』が発表がされた。


しかし、僕はそいつにはあまり惹かれなかった。


僕はあの徹芯の勇姿を見てスフィアロイドの世界に踏み込んだ。


確かに自分好みだが、理想ではなかった。


なんというか、もっと重厚さが欲しかったというか。


錬思は全体的にスマートになり、丸っぽいパーツが増えたように見える。


それにモノアイカメラも細めのなんだかカッコ良さげなツインアイになってしまった。


あの悪役っぽいところが良かったのに。


世間一般的には、竜を模したものや某機動戦士や某勇者王を感じさせるヒロイックな型式や、それこそ動物そのものに似たものや人間に近いものの型式が好まれやすかったりする。


正直それらも悪くはないのだが、

それらよりも武骨なロボットやのようなタイプが僕は好きなのだ。


まあ、騎士の鎧を模したやつには大分、かなり、傾きかけたけどな。


ロボットなのにわざわざ実剣使うとかロマンがジュンジュワァーしちゃうだろ。


また、なんか話が逸れたな。


じゃあ僕は一体何を選ぶかというと。


「父さん、あっちの方にあるやつが良い。……ほら、コレ。」


僕が指差したのは、サメの背びれのような兜と面頬を連想させるパーツと挟まれた大型のカメラアイを搭載した頭部に、「機動性?ああ確か食べれないやつだよね!」と言わんばかりに角ばった装甲に覆われたゴツい鈍色の全身が特徴の機体だった。


少しだけ眉を動かしながら父さんは確認するように聞いてくる。


「えっと…三年前にできたやつか。もっと別の新しくてかっこいいやつのがあるけど、いいのか?」


言い終わる前に何度も頷く。


そいつは、もう一つのハガネ社製の型式、『戒轍』。


こいつはさらに頑丈さを求めて重量系にされた、徹芯の改良機だ。


正式な後継機では無いのは、ハガネ社が「正直マイナーチェンジを二代目看板機体にしたとか噂されると恥ずかしいし…」みたいな理由があったらしい。


そして、今も昔も流行りは三次元移動とかを盛り込んだ高機動戦闘である。


戒轍ははっきりいうと人気が無い。


1年前に出たとはいえ、一応ハガネ社の最新式である練思も結果こそ出すが、未だに世間の評価では「扱い易いかもしれないが試合に勝つのは少し辛い」と言われてしまってる。


頑丈で重装備を積みやすい上に機動性もそこそこなのだが、それを上回る機動力や装甲、火力の何れかを持つ相手とは戦いにくいらしい。


しかも機動力の高いやつに対しては更に相性が悪い。


高機動型のもつ武器は大体軽めのものが好まれているが、ここ数年で猛威を振るう高熱弾小銃と特に組み合わせられることが多い。


高熱弾は威力は大きいとは言えないが、効く相手には効果が絶大になる。


例え効果が絶大では無いとしても、絶え間なく熱に晒され続ければどんな機体でも少なからず影響が出るため、敵を選ばない武器としてかなりの人数に好んで用いられている。


そして、ハガネ社の機体は耐熱性こそ高いが、その許容量を超えると多大な影響を受けてしまうという半ば隠しパラメータに近い弱点を抱えてしまっている。


まあ色々あるが、つまりはハガネ社のスフィアロイドはそこまで人気があるというわけではないのだ。


中級者以上推奨とも言われているし、何より子供に人気がない。


ようやく子供にも受け入れやすいデザインになった練思も、高熱弾が弱点というのが見つかったおかげで爆売れしたわけではなかった。


そんなハガネ社の機体でもさらに日の目を見ていないであろう機体、戒轍。


それを僕は選ぶのだ。


理由は色々あるが、やっぱり見た目が一番僕にとってツボにはまったことだろうか。


僕は前世の知識を持ってこの世界に生まれた。


それに気づいたのはスフィアロイドのことを調べている時だった。


よく覚えていないが、20を過ぎたころに事故で亡くなったのだと思う。


前の世界からロボットのゲームでは重武装、重装甲のやつを必ず使っていた。


僕は時には音速すら伴って縦横無尽に動き回るロボットも大好物だ。


しかしそれでも一番好きなのは、時には攻撃を物ともせずに、あるいは火力に任せて敵に競り勝つような、そんな重量機体だ。


それを戒轍のような機体が為すところをどうしても自分の手で叶えたいのだ。


せっかく新しい世界で、新しい人生を送ることになるのだ。


こういうところで欲望を曝け出さないでどうするのか!


機動力こそが時代の流れだが、そこをあえて逆らうことに浪漫を感じながら、透明のパッケージに包まれた鈍色の重機兵に近づく。


もうすぐ、理想を動かせる時が来る。



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