冬の雨
冬の雨が降る度に、ひとつの光景が浮かぶ。
ざあざあと降る雨。早くに暗さが落ちる世界。灰色と黒の世界。
その中で、ひとりの子どもが泣いている。
黒く長い髪。黒いタートルネックセーター。灰色のスカート。
その女の子は、涙を手でぬぐいながら、泣きじゃくっている。
しかしその声は、雨音にかき消され、私には聞こえない。届かない。
泣き続ける少女を、私は知っている。
あれは、いつかの日に、私が置いてきた私。
何のつらさだったか、悲しさだったか。今となっては、どれかも思い出せない。
私は、それをいつかの私に預け、置いてきた。それが、冬の雨の日に浮かんでくる。
いつの日か、やってくるのだろうか。私が、いつかの私の所へ行ける日が。
いつの日か、やってくるのだろうか。私が、いつかの私を抱きしめられる日が。
「ごめんね、置いてきぼりにして」と、抱きしめてあげられる日が。
みつき詩集 三月兎@明神みつき @Akitsumikami_Mitsuki
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