地元の愛着あるチームが東へと消え去って、10年後にライバルチームが生まれ変わってやってくる――福岡をめぐるプロ野球の物語って、史実だけでもドラマチックなんですよね。
今でこそホークスの熱狂的なホームタウンですけど、移転当初はホークスなんて応援できるか!という人も数多くいたと聞きます。本作の祖父もそんな人物で、主人公との間の埋められなかった心の溝を西鉄の試合を通じて埋めていく、というのは野球ファンにとってはたまらないストーリー展開でした。
そしてこのお話がうまいのは、野球だけでなく、純文学を思わせる内面に切り込んだ文体で、人との交流ツールとなる趣味を無くすなというもう一つのテーマも印象深く描き切っていたことです。野球を知らない人にも是非一度読んでもらいたい。
稲尾投手も鬼籍に入り、平和台球場も今や兵どもが夢の跡。消えゆく昭和の福岡の思い出にしんみりとさせられる、そんなお話です。