第2話

 空から降ってくる水はもう……。やみ始めていた。

 巣穴はほとんど水につかっていた。

 水に浮いた先ほどまで家族だった肉片を狙ってカラスがうろついている。

 子オオカミには何でみんな動いてくれないのかわからなかった。何も悪いことはしてないのに……。

 姉貴の鼻をなめる。いつもだったら姉貴がおいかぶさってきてじゃれあいとなるのだが、今日は何もしてくれない。


 子オオカミは雨が降る前チョウチョウを追いかけて遊んでいた。家族は全員寝てしまってたので暇だったのだ。夢中で追いかけていたため、気がつくと巣穴から遠いところへ来てしまっていた。

 そこはまだ子オオカミが見たことのない開けた場所だった。何に使うかはわからないがとても巨大で鳥の様な形をした物もあった。それもまた子オオカミが見たことのない素材で作られていた。

 姉貴達に自慢してやろう。

 そう思って帰ろうとした時に雨は降り始めたのだった。

 それはすぐにひどい大雨になった。辺りは水浸しになった。少し地面が削れている所では激しい濁流のようだった。


 子オオカミは顔をあげる。雨も止み、夜は明け始めていた。

 子オオカミは顔を下げる。肉の塊がそこにはあった。それに背を向け元来た道を歩いていった。



 今日は心地よい寝起きである。ただベットさえあればなぁ……。まぁ仕方ないか。

 昨日食べた弁当の残りもんを一気にかき込みリンゴジュースで流し込む。

 さぁ、今日は飛行機周辺探索だ。俺は飛行機から降りた。久々の外の空気だ。

 俺は考える。

 もし救助の人達が何らかの理由で来れない場合、自分一人の力でより多くの日数を生き抜かなければならない。そのとき重要なのは水と食料、生活場所だろう。

生活場所は間に合っている。問題なのは水と食料だろう。池か川があれば魚もいるだろうし水がある。

 もし森に池か川があれば……。

 そんな期待を抱きながら俺は森に入っていった。



 誰かが階段を上がってくる音を聞いて達也との電話を切った隆太は、ドアから少し離れていつでも戦えるような体勢をとる。

 足音がドアの前で止まる。

 唾を飲み込む。

 ドアノブがまわる。

 拳に力が入る。

 ドアが開く。

 全身に力が入り…抜けていった。

 そこにはボサボサ頭で隈がある死んだような目にメガネをつけた男が白衣姿で立っていた。

 彼は言った。

「やぁ」




 「あった…!」

 川が、あった……!

 飛行機から徒歩10分。見晴らし最低日当たり微量の物件場所としては最悪な場所に川が流れていたのだ。しかも魚もたくさんいる。

 俺が川を見つめていると向こうの方で何かが動く音がした。おそるおそる近づいてみると、そこには鳥がいた。

 俺は石を静かに、かつなるべく多くかき集めた。そして2、3個の石を手に掴んで鳥に狙いを定め…

 おもいっきり投げた。すぐに次の石を投げる。

 一心不乱に投げてゆく。

 無我夢中で投げてゆく。

 全ての石を投げ終わり鳥がいた所へ行った。

 鳥は泡をふいて気絶していた。額の所々から血が滲み出ている。

 やった! 大成功だ! まさかうまくいくなんて思ってなかったけどね。やっと俺にツキが来たのかもしれない!

 俺は鳥の首を掴んだ。

 そして横に思い切りまげる。    

 いやな音とともに鳥の首は不自然な角度に折れ曲がった。

 鳥だけでなく落ち葉や木の枝も拾う。かばんの中に入れてあったライターの付き具合を確認する。

 ボウッ、という音とともに火が付きほのかな暖かさがした。よし、ちゃんついた。今日はやきとりだ!

 俺はナイフで削って尖らせた枝にさっき殺した鳥の羽をむしりとり、適当に分けてこれまたさっき拾ってきた落ち葉などを燃やして焼いていた。

 肉から汁がしたたり落ちる。おぉ、うまそうだ。思わず口からよだれがしたたり落ちる。

 今からお前の肉やはらわた、心臓、骨に至るまでしゃぶり尽くしてくれるわ!それをただじっくり焼かれて待っているがいいわ!

 今や肉はいい具合にこんがりと焼けていた。

 そろそろか…。肉付きのよい部分にかぶりつく。

 口の中で広がる肉の香ばしいにおいと汁。肉々しい味がしてとってもうまい。

「さすがお肉だぜ…!」

 訳のわからないコメントをしていたらあっと言う間に一本目を食べ終わってしまった。

 いやーなんといっ『グウ~』てm… ん? 今のは俺じゃない。ということはアレか? 何かの動物が今俺の後ろにいるってことか? えっ、うそ? なうにいるわけ?

 男・達也、ここは意を決して振り返ってやる!

 えいやっ!

 振り返った先には小さな黒オオカミがいた。



 子オオカミはひどくおなかが空いていた。これからは自分で食べ物を調達しなければならない。

 子オオカミはあてもなく歩き始めた。この前の大雨が嘘のように晴れている。

 しばらく進んでいくと肉のにおいがしてきた。それは謎の巨大な物体があったところからしているようだ。

 子オオカミは残り少ない力を振り絞って走り始めた。



 オオカミに出会ったらどうすりゃいいんだ? 死んだふり? ジグザグに走って逃げる? さぁどうする俺! ところが俺の脳内のノーナイくんは俺に対してしらんぷり。

 幸いこのオオカミは小さい。こちらを襲ってくるような素振りは見せていない。

 なんなんだこいつ。

 子オオカミを観察しているとその視線は俺に向けられていないことに気がついた。肉だ。こいつ俺の焼き鳥を狙ってやがるのか……っ!?

 ふたつの琥珀色の瞳が手先の肉を見つめる。

 ……だぁぁぁ!もういいよ!肉やるよ!

 俺は全く動かないオオカミの目の前に鳥の左足をあげてみた。

 肉から手をはなすや否や肉にかぶりついた。すごい勢いで食べていく。そしてすぐに食べ終わってしまった。

 オオカミはまるでねだっているかの様に俺にすり寄ってきた。仕方なく右の胸肉をあげた。

 オオカミはガツガツと食べている。負けじと俺もガツガツ……。

 俺が食べ終わってからオオカミをみるとすでに食べ終わって骨で遊んでいた。

 俺は再び森に行こうと思い歩き始めた。

 後ろからオオカミもついてくる。って、なんでだよ!

 偶然方向が同じだけだろうと勝手に決めつけて歩き続けた。そうして一人と一匹は森へ歩きだした。 

 俺は黙々と森を歩いていると後ろの方から「クゥ~ン」と、何かを主張するようにオオカミが鳴き出した。

「なんだよ」

 みるとオオカミは木の幹をカリカリと爪でひっかいていた。

 何なんだ?

 何気なく木の上をみるとそこにはリンゴみたいな果物がなっていた。そういうことね。

 その果物をちぎってオオカミにやった。

 そしたらオオカミは満足そうな顔をして食べた。

 俺もひとかじり。絶妙なバランスのすっぱさと甘さがたまらない。何個かちぎってバッグに詰め込んだ。

 オオカミの頭を撫でてやった。もふもふしていて病みつきになりそうなぐらい気持ちよかった。オオカミ再び満足顔。

 コイツ意外にかわいいな。 

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どうやらオオカミのようです。 図らずも春山 @hakarazumo

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