どうやらオオカミのようです。

図らずも春山

第1話

 ……チリンチリン。

 商店街になりひびく鈴の音。

「おめでとうございます!」

 少しうわずった声。

「特賞、グアム旅行のペアチケットです。」

 信じられない。信じられない!この俺ーー達也ーーが特賞を当てた…?

「よっしゃあああああああ!」

 これまでの人生の中で一番嬉しいよ! この前までの何も無い所でこけたり通りすがりの小さな子供にいきなり殴られたりなんていう不幸の連続はこの為だったのか!

「すげーなたっちゃん!」

 興奮気味の声でそう語るのは先程ティッシュを当てた親友の隆太だ。にやにやしてやがる。

「で、だれといくんだ?」

「もちろん……」

 わざと間を空ける

「もちろん?」

 聞き返してきた。

「お前に決まってるだろ!」

「イヤッホオオエイ!」


 ……と、いうわけで俺ら二人は8月10日のA.m. 9:00発406便に乗っている。今日の天気と俺達の心は快晴だ。

「いやーいよいよだなぁ。」

 浮かれた調子で隆太が言う。

 そうだ。いよいよ待ちに待ったグアム旅行なのだ。綺麗な海とキレイなお姉さんが俺達を待っている。



 前のモニターを見る限り、今は日本の最南端、沖ノ鳥島周辺を飛んでいる。後2、3時間位したらグアムに着くだろう。

 俺は仮眠をとろうと思い、目を閉じた。昨日からはしゃぎすぎたせいか、すぐに眠気がおそってきた

 と、突然機体が大きく揺れた。

「うわっ!」

 思わず声が出てしまった。ほかの乗客達も思い思いの声をあげている。

 すかさず機内アナウンスが流れ始めた。

『当機はただいま非常に強い風を受けています。つきましては必ずシートベルトをおつけになって席に座られますようお願い致します』

 しかしなかなか風は止まない。むしろひどくなっている気もする。

「なぁ、ヤバくね?」

 心配そうな顔をした隆太が聞いてくる。

「あぁ、ヤバいな」

 その言葉しか今の俺には出てこなかった。



「風、止んだ?」

 確認するように隆太に聞いてみた。

「あぁ……」

 彼は少し青ざめた顔で答えた。さっきの強風でよったらしい。

 しばらくすると今度はボウッ、というような音が連続して聞こえてきた。おまけに焦げ臭いにおいがしてきた。

「……変なこというね。」

 いきなり隆太が言ってきた。

「まるで飛行機のエンジンに鳥がつっこんだ時のようないやな予感がするんだけど……」

 だったら何故今言うねん!

「やめろよ不吉だな~……」

 なんだかこっちまで心配になってきてしまった……。

 何毛なく外を見ると陸地が見えてきた。あれ? ずいぶんと早くに着くんだな。

 ポーン アナウンスが入る。女性の声だ。

『当機はエンジンの不具合により緊急着陸致します。着陸の際にはシートベルトをしっかりと閉め、前型姿勢になられますようお願い致します。』

 エンジンの不具合? 緊急着陸!? 機内がざわつき始める。様々な言語に訳されながらアナウンスは続く。

 俺ってなんてついてないんだ! 自分の運の悪さをつくづく呪った。

 ポーン 再び流れるアナウンス

『緊急着陸いたします。頭を抱え、前型姿勢になって下さい。繰り返します……』

「なぁたっちゃん。」

 窓の方を向きながら隆太が言った。

「なんだよ…。」

「今まで、ありがとうな…。」

 !? ナニをおっしゃる!

「これからもよろしくな、だろ。」

 それっぽい言葉を飾ってみた。

「……あぁ」


 機内が揺れ始めた。前型姿勢になり目を瞑る。揺れが激しくなってきた。

 ゴン!

 前の座席に勢いよく頭をぶつけ俺の意識はそこで途切れた。



 ぼんやりとした意識の中考える。

 あれ、ここどこだ?

 見渡す限り草、飛行機、草。

 いやちょっと待て。俺の意識が覚醒する。今までのことを思い出す。

 俺は立ち上がり周りをみた。すぐに目に入ってくるものは飛行機だった。外面は傷ついているがそれなりの原型はとどめている。

 飛行機の周りは広々とした草原となっており飛行機を引きずった後があった。そして草原の周りには木がびっしりはえている。

 ここで疑問が浮かんでくる。ここは何処か? それとほかの人達は何処にいるのか? さっきから誰一人と姿を現さないのだ。みんなでどこかへ行ってしまったのか。隆太さえも見あたらない。

 しかし今の俺にはその問いの答えはわからなかった。

 だが今すべき事は明確にわかっている。誰かが来るまでなんとかして生き延びることだ。

 それにはまず食料だ。


 というわけで俺は今飛行機内の食料庫にいる。食料を探しているとナイフを何本か見つけた。一応使えそうだからもらっといてやる。ったく感謝しろよ。

 食料庫をざっと見たが二週間以上分あった。これならなんとか生き延びられそうだ。

 心底ホッとした。ホッとしたら眠たくなってしまった。

 腕時計は7時14分27秒を指していた。あたりも暗くなってきたことだし周辺探索は明日することにして今日は寝ることにした。

 イス三個を使って寝っころがる。ほんの2、3分で眠りについた。 




 ガバッ!

 俺は寝床からはね起きる。

 昨日は寒くて全然眠ることが出来なかった。

 そしてすがすがしい程のすごい雨。これでは今日予定していた飛行機周辺探訪が出来ない。


 じゃあ何するの!?

 ナニでしょ!!!!!!


 この通り何もする事がなくなってしまったのだ。

 暇である。ものすごく暇である。

 そこで俺は思い出す。

 ーー携帯があるじゃないか!

 携帯と言えば現代社会を生きる老若男女の必須アイテムである。機能は実に多様である。それはメール、電話などの基本の機能から始まりインターネット、暇つぶしゲームに至るまで兼ね備えている。

 そんな携帯の最上級の"すまーとふぉん"なるものを俺は所有しているのである。

 よーし、早速遊ぶz…。

 待てよ!? 電話があったか! 電話があるなら隆太に連絡できるんじゃないのか!

 すかさず携帯の画面はじっこを見る。

 アンテナ一本充電満タン。

 圏外でないことを感謝しながら電話をかける。

 プルルルルル…


 そろそろ切れてしまうかと思った時、つながった。

「…もしもし。」言葉を絞り出す。

『はい、隆太ですけど。』

 いつもききなれた声が聞こえてくる。

 よかった! ちゃんとつながった!

『おまえは達也だろ?』

「あぁ、もちろんだ」

 聞きたいことは山ほどある。

『おまえ今何処にいるんだ?』

 向こうから聞いてきた。

「何処かはわからない。わかるのは飛行機が落ちたところってだけだ。つか何でお前ここにいないんだよ。何処いんだよ」

『なんだかわからないけど目がさめたら部屋の中にいて、ご飯がおいてあったから食べた。そんで寝た』

 何じゃそら。

『……ッ! やばい! 誰かが階段を上がってくる音がした! 一回切るぞ!』

 そういって電話は荒々しく切られた。

 いつの間にか雨は止み始めていた。

 何がどうなって隆太が見知らぬ部屋にいるのかはわからないが、とりあえず生きていたことがわかってよかった。これで集中してゲームが出来る。

 そう思い俺はゲームを始めた。

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