第23話 復讐者は訓練好き

絶影を駆使して高速でエーアストへと戻ってきた僕は取り敢えずロータスへエーアストに到着したことをメッセージで伝える。


直ぐにメッセージが返ってきたので確認するとアリスと一緒に自警団の訓練所にいるらしい。

訓練しておきたい武器もいくつかあるし僕も訓練所に行くとしよう。




自警団の訓練所に入るとまだ時間が昼過ぎということもあってか混雑というほどではないにしてもそれなりに人がいるようだった。


人の多い依頼の張り付けてある掲示板前はスルーして受付に向かう。

ソフィアさんは居ない様でナイフの訓練はできないとのことだった、ならレイピアの訓練を受けるとしよう。

受付で訓練費を払って、奥の訓練用の部屋へと向かう。


途中で銃の訓練をしているロータスとアリスとあったので夕方に訓練所の前で待ち合わせをしておいた。


レイピアの訓練をしている者は他には居ないようでナイフの訓練の時と同様にレイピアの訓練スペースはNPCの教官と僕だけだった。


基本的な構え方や武器の扱い自体はコルヴォさんに教わっているので、NPCの教官に実戦形式の訓練をお願いする。


それにしてもこの教官のNPC無駄にイケメンで少しイラッと来る。

イケメン死すべし……とそんなことは置いておいて訓練に集中しよう。





数戦ほど実戦形式の訓練をやってみたのだが、このNPCあまり強くない……といっても比較対象がコルヴォさんなので何とも言えないが、実際に数回は僕が勝っているのだ。


なんというか戦い方が綺麗すぎるのだ、レイピアの扱いという点では正しいのかもしれないが、実戦ではあまり手本には出来そうもない。

それに吸血鬼の僕の筋力に負けているというのもあるのだろう、何度か木剣を落としてしまうこともあった。

これではどちらの訓練なのか分からないな。


その後数戦してから区切りのいいところで訓練を切り上げる。

これからレイピアの訓練はヤタガラスの訓練所で受けてみよう、ヤタガラスの訓練所でもこの調子ならコルヴォさんに頼めばいいだろう。

といってもコルヴォさんと連絡をとる手段がないので少し先の話になるかもしれないが。


そんなことを考えながら訓練用の部屋を出ると視界の端にウィンドウがポップしてくる。


・必要条件のクリアを確認、スキル【レイピアマスタリー(自警団:初級)】を獲得しました。

・必要条件のクリアを確認、スキル【レイピアマスタリー(自警団:中級)】を獲得しました。

・必要条件のクリアを確認、スキル【レイピアマスタリー(自警団:上級)】を獲得しました。


「うおっ!?」

一気にログが流れて少しびっくりした。

レイピアにもナイフマスタリーと同様の訓練スキルがあったようだ。

よく見てみると前回とメッセージが少し違う、前回は所要時間を超えたから取得ということだったが必要条件ってなんだ?


教官に勝ったからか?それともレイピアの場合は何かの条件を満たせば取得できるのか?

ナイフの訓練で勝てば確認できるだろうけど、ソフィアさんに勝つ、というのは少しというかかなり無茶な話だと思うのだが……。


ともかくスキルの詳細を確認しておこう。


レイピアマスタリー(自警団:上級):

自警団の訓練所で一定時間以上レイピア訓練を受けた証。

レイピアの攻撃力、攻撃速度にボーナスを得る。

レイピアの戦闘使用による損耗を軽減する。

専用技:

・アーマーピアシング

・アクセル


なんだこれ……。

ナイフマスタリーの初級がショボかったからあまり期待していなかったのだが上級だからかスキル効果もそれなりに使えそうな効果だ。

それに何より専用技というのがかなり気になるところだ。

早速専用技の詳細も見てみよう。


アーマーピアシング:

技使用時レイピアでの刺突攻撃に限り相手の防具の刺突耐性を一定数値無効化する。

技使用中のレイピアの損耗が激しくなる。


アクセル:

一歩分の移動速度と移動距離を上昇させる。



ふむ、アーマーピアシングについてはマイナスの効果もあるので何とも言えないがアクセルについては可なり汎用的な技だと思う、単純な移動技だから自動迎撃との相性もいいだろう、何方もレイピア専用技なのでレイピア使用中にしか使えないが……。




スキルの確認も終わったし次の事を考えよう。

レイピアの訓練を早く切り上げてしまったせいで変に時間が余ってしまった。

ショットガンがあるから銃の訓練というのもいいが、コルヴォさんの隠れ家で引き取った大量の武器をどうしようか、自由に使って良いと言ってあの場に残していった物だから売ってしまっても問題ないと思う。


という訳で使わない物を売るためにいくつか店を回るとしよう。


いくつか店を回りながらコルヴォさんの隠れ家で回収した武器や道具を売っていく、どれも結構いい値段で売れるので合計額は白金貨が数十枚というびっくりする金額だった。


ふと空を見上げると良い感じに日も傾いてきているので僕はホクホク顔で自警団の訓練所へと戻る。


訓練所で射撃訓練を続けていたロータスとアリスと合流してから夕食を済ませて宿へと向かう。

宿への道中ロータスがふと思いついたように口を開く

「ねぇ昨日は殆ど訓練所だったし明日はクエストついでにどこか出かけようよ」


僕としてはコルヴォさんの追手の一件で割とアグレッシブだったのだがそれを言って水を差すこともないので頷いておく。


「そうだね、訓練じゃレベルも上がらないしそろそろ次の街にも行きたいしねぇ」


「私はベルさんが行く所ならどこへでもついていきますよ」

なんだか恥ずかしいセリフな気もするがアリスも乗り気のようだ。


「じゃあ行先はプロシャンか、前に行ったときは碌に観光も出来なかったから明日は片っ端から見て回らないとね!!」


プロシャンと聞いた瞬間アリの肩が一瞬ビクンと跳ねたが見なかったことにしてロータスの言葉に頷いた。



そんなことを話しているうちに目的の宿に着いたので部屋を取ってそれぞれ休むことにする。

吸血鬼なので眠らなくてもペナルティはないがやる事もないので朝まで眠ることにする。

眠ると言ってもこのゲームでは睡眠時に思考を減速させるので感覚的には一瞬なのだが……。


そんなことを考えつつ目を閉じて開けるとゲーム内時間が一気に8時間ほど進んでいた。

さて時間的に今日の夜にはログアウトしなければいけない、1日といっても意外と短いものだし無駄にしないようにしなければ。


ベッドから起き上がると身支度を整えてーーといっても武器や防具を装備するだけだがーー部屋から出て1階のレストランへと向かう。


ロータスとアリスは先に降りていたようで既に隅の方のテーブルを確保していた。

二人が朝食を食べるのを眺めつつアイテムパックから取り出した獣の血を飲んで朝食を済ませ、用もないのでチェックアウトを済ませる。


宿屋を出たところでロータスが機嫌よさげに尋ねてくる。

「さて、何かこの街でやっておかないといけない事とかはない?」


「僕は特には」


「私も特には」

僕とアリスはいつも通りなのでテンションの差がすごいのだがロータスは特に気にした様子もない。

「よし!じゃあ早速プロシャンへ行こう!!」

というやたらとテンションの高いロータスの声を合図にとぼとぼと街の中心にある駅へと歩き出す。


「んー、どれがいいかな」

ロータスがうんうんと悩みながら声を上げる。


なんの問題もなくプロシャンに着き、現在は自警団の詰め所にてクエストを受ける為依頼の張り付けられたボードの前で相談中といったところだ。


「ねぇねぇ、これなんてどうでしょうか?」

そう言ってアリスが指で指し示す依頼票を見る。


依頼:討伐

依頼内容:

俺の女に手を出した男をぶちのめしてほしい、名前はサバニ、禿頭に右頬の傷が特徴の大男だ。

3番街の酒場によく顔を出す。


報酬:銀貨3枚



「やだよ!!私怨で依頼だしてんじゃねぇよ……てか何が討伐だよ……」

あんまりな依頼内容に思わず叫ぶがアリスは不思議そうな顔で返してくる。

「こんな依頼よくあるじゃないですか」


「だけどアリスちゃん私もこの依頼はやめといた方がいいと思うんだよねぇ」

ロータスは依頼票を見ながら言う。


「どうしてですか?」


「報酬が安いから!!」

きっぱりと言い放つロータス、ほかにもっとましな理由があるだろう……。


「なるほど!!」

そしてなぜか通じ合う二人、確かに報酬については安いなと思ったけど。



「結局どの依頼にしようか」

掲示板に張り付けてる依頼には特にめぼしい物はなく3人でうんうんと悩んでいると後ろから声をかけられる。


「お、3人そろって仕事探しか?」

振り向くとワーウルフの男……ウェルターさんが立っていた。


「あ、どうも、依頼を受けようと思ったんですけどこれといったものが無くて」


「あぁ、この街は今プレイヤーが特に多いからある程度の依頼は速攻ではけちまうからなぁ」

そう言われてみるとそもそも依頼の数自体がエーアストより少ない気もする。


「あ、もし仕事がないならちょっとうちの仕事手伝ってくれないか?ちょっと人手が足りてなくてな」


内容にもよるが僕は受けてもいいと思うが二人の意見も聞くべきだろう。

ちらっとロータスとアリスの方に目を向けると

「私は内容次第かなぁ」

とロータスが言うとアリスもそれに頷く。


なんにせよ先ずは内容を聞いてからだな。






という訳で詳しい話を聞くためにヤタガラスのプロシャン支部にてウェルターさんから話を聞くことに。


依頼の内容は隣町の工業区からギルドの補給物資を輸送する荷馬車の警備だそうで、今回は荷物の中に重要な物があるので最悪それを載せた馬車だけは守らないといけないとのことだ。


一通りの依頼内容を聞いて報酬もそこそこなので3人で相談するまでもなく即決で受けることになった。


依頼を受けたのはいいが隣町に移動するのは昼からなので少し時間ができてしまった。

ロータスは買い物に行くと一人で出て行ってしまってアリスは特にやる事もないので隣で暇そうにしている。

このヤタガラスプロシャン支部にも訓練施設があるのでここで訓練でもして時間を潰すのもいいだろう。

最近訓練ばかりしている気がするがゲームの初期というのは大抵こんなものだろう。

アイテムパックの中身を整理しつつ何の訓練をしようか少し迷う。

ナイフやレイピアもある程度使えるようにはなったが訓練はしておきたいし、体術の訓練とかも気になる。


たまには違う人から習うのもいいかとナイフの訓練にしようと思った時アイテムリストの中の1つに目が留まる。


水平二連ショットガン、軽く存在を忘れていたがこれの訓練をしておこうか、武器補正がない吸血鬼でもクロスレンジで撃つショットガンなら多分中てられるだろうし操作を覚えておいて損はないと思う。


そういう訳で早速訓練費を払い射撃場へと向かう。


訓練所で射撃を続ける事1時間弱、暇そうにしていたアリスに教えてもらいつつ何とかショットガンの操作を覚えることができた。

散弾の拡散範囲は意外と狭い物でゲームや映画の様に広範囲に拡散するわけでは無いというのは少し衝撃的だった。


ここでスキルを獲得ということもなく、今回の訓練での収穫は銃の操作を覚えただけだ。


本格的にこの銃を使っていくとなると弾薬を入れるためのシェルポーチが必要になるので訓練が終わってすぐにヤタガラスの武器商人から買っておいた。


アリスから

「多分ベルさんは銃身を短く切り詰めた方が戦闘スタイルに合っていると思うんですよねぇ」

と言われたのだがそこまでの時間もないので覚えていたらそのうち街の武器屋に頼もう。


買ったばかりのシェルポーチをベルトに通して腰の左側に付けて、ショットガンは最初からついていたスリングを肩にかけて背中に回せばナイフ類やレイピアは訓練中も外していないので出発の準備は完了だ。


買い物を済ませてきたロータスと時間通りに合流しウェルターさんの案内で準備されていた馬車に乗り込み隣町へ。


帆の張られた馬車の荷台でいつ襲われるのかとびくびくしていたが特に襲われることもなく隣町へと到着した。

というか明らかに人しか載っていない馬車の車列を襲う間抜けな盗賊はいないか……。


さて、そういえば隣町と言ってはいるが実際のところこの町もプロシャンの一部で中央から馬車で1時間ほど離れているだけなのでここはプロシャンの工業区なのだ。

プロシャンは思っていたよりも大きな街ということだろう。


そんな割とどうでもいいことを考えながら馬車から降りて凝った気がする体を伸ばす。

周囲を見るとほかにも数人体を伸ばしているプレイヤーが居るので気分というのはあながち馬鹿にできないものだ。


それから荷馬車に荷物を積み込み、積み込んだ荷物に漏れがないかチェックを済ませる。

その間も囲の警戒をしなければならないのだが僕とロータスに割り当てられたのは建物の屋根からの周囲の警戒だった。


というか比較的身軽な者や射手系の職業の者が屋根に上っているようだ。

そんなわけで僕はロータスと一緒に少し背の高い教会の様な建物の屋根で周囲を警戒している。


「重要な物の輸送なんていうから警戒してたけど、全然襲撃の気配とかないよね」

ロータスが辺りを見まわしながら言う。


「まぁまだ馬車に積んでるところだし、襲われるとしたら帰りじゃないの?」


「んー……相手がどの程度情報を持ってるかにもよるけど、そこまで的確に襲える物かな?」

ロータスの言いたいことはなんとなくわかったけど、それは実際のところどうなんだろうか?

「あー、アリスの件もあるしヤタガラスに内通者が居るとか?」


「その可能性はあるだろうな」

疑問を口にしたところでいつの間にか屋根に上ってきて隣に立っていたウェルターさんが眼下で行われている積み込み作業を眺めながら言う。


っていうかいつの間に立ってたんだ!?

「わわっ……とぉ」

びっくりしすぎてバランスを崩したが何とか持ち直す。

まぁこけたところで絶影があるからどうということもないのだけれど……。


「驚かさないでくださいよ」


「いやー、そこまで驚くとは思わなくてな、それよりもうそろそろ準備も終わるぞ」

ウェルターさんはハハハと笑いながら僕の抗議を軽く流して、荷馬車の方へと視線を移す。

荷馬車の方を見るとウェルターさんの言った通り積み込みも終わって後は積み荷のチェックが済めば出発という状態だ。


「じゃあこの後も予定通りに頼む」

そう言い残すとウェルターさんは屋根から飛び降りると慌しく荷馬車の周囲を警戒して居た者に指示を出していく。


出発はもうそろそろだろう。

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