オレオ詐欺
響きハレ
オレオ詐欺
積み重なる借金により日本の財政破綻も間近だと騒がれ始めるころ、日本円の信用は失われ、1ドルは1千万円を超えようとしていた。
価値の下がった日本円で買い物をするためには鞄いっぱいの札束を持って行かなければならない始末。そんな不便を前にして、人びとはにわかに通貨の代用品を用い始めた。黒の間に白の挟まったあの丸いあいつ。オレオである。
朝6時のコンビニ。俺はいつも夜勤のバイトをしている。今日の仕事もあと1時間で終わるところだった。一人の客がパンとおにぎりを持ってレジにやってくる。
「3点で、5オレオになります」
男がレジでオレオの袋を開けて中から5枚取り出して置く。
俺は置かれたオレオを手に取って表面をよく見てみる。表面に模様としてあしらわれたクローバーが10枚。
「おじさん、これ偽造オレオだよ」
「何っ!?」
「クローバーは12枚なんだよね。最近多いんだよね、粗悪品」
男は商品の入った袋を持ってサッと逃げ出す。
「無駄だよ。もう警察呼んだから」
男は開かない自動ドアに激突してその場にへたり込んだ。俺はその隙に事務所にかけこんで鍵をかける。幸い店内にほかに客がいなくてよかった。すぐにパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「この男ですか?」
事務所の扉の窓から外の様子が見える。警察官が扉の前にいた。レジに戻って自動ドアのスイッチを入れた。
「お前か! 偽造オレオを使ったのは」
「知らなかったんだよォ!」
「少なくとも不正な方法でオレオを入手した罪は重いぞ!」
俺はその後2時間ほど警察の事情聴取に付き合わされた。2、3人の警察官に同じ話を何度もするのはかったるい。
警察から解放されたのはバイトが終わる予定時刻を1時間過ぎてからだった。
「面倒なんだよね、これ……」
最近偽造オレオを差し出す人が多い。闇工場で偽造オレオが生産されているという事件はここのところ後を絶たなかった。連日ニュースで放映されている。オレオに関する事件はそれだけではなかったが。
「はあ…… 疲れたな……」
俺は一人暮らしのアパートに帰る。
家についたところで実家の母から電話がかかってきた。
「秀介? 大丈夫?」
「え、どうしたの……?」
母の声は深刻そうだった。
「どうしたのじゃないでしょ…… 仕事のミス、取り戻せた?」
「何の話……?」
「えっ……? あんた、1000オレオ送ってくれって……」
「知らないよそんな話!」
「昨日の昼ごろ電話してきたでしょう?」
夜勤前日の昼ごろはいつも眠っている。昨日もそうだった。
「それ俺じゃないよ。昨日の昼間は寝てたもん」
「えっ……?」
「母さん、電話ってどんな電話だった?」
「『母さん俺俺』って言ってね、てっきり秀介、あんただと思ったんだよ…… 電話でこんなこと言ってたよ、『仕事中にミスで真正オレオ壊しちゃったんだよ…… どうしても1000オレオが必要なんだ…… 送ってくれないかな?』って……」
「母さんやっぱりそれ、今流行ってるオレオ詐欺だよ」
「あっ……」
「ひょっとして、オレオ、送っちゃった……?」
「送っちゃった……」
「それはまずいね…… 警察に電話しなよ」
「そうするよ」
「気をつけてね」
そこで電話が切れた。ああ、後で「1000オレオ返すね」って言って犯人から送られてくるオレオが偽造オレオだから注意してねって母さんに言うの忘れたな……
疲れた頭で何となくテレビを付ける。朝のワイドショーで日本一の大富豪という人が紹介されていた。その男はおいしいオレオの食べ方といって、オレオをオレオレオにするというのを実演している。残ったビスケット1枚は捨ててしまうんだそうだ。
俺はそれを見て頭にきたのですぐにテレビを消してしまった。小さい頃に食べたオレオの味を俺はもう覚えていない。
オレオ詐欺 響きハレ @hibikihare
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