名付けと準備

 ルドは今、なんと言ったのだろうか。

 確かに、一緒に来るかと、言ってくれたのだろうか?


「どうした?」

「え……一緒に、行ってもいいの?」

「当たり前だろ?ここは特にああいう面倒くせぇヤツが多いんだ。それに、記憶喪失のやつをほっとくなんてできるわけねぇだろ」


 至極当然だとでもいうように言った彼に、ボクは目を見開いた。

 ボクは、ここで彼との関わりは終わると思っていたのに。いや、普通ならそうするのではないだろうか。

 記憶喪失の素性の知れない男を連れて行くなんて、ただのお荷物になるに決まっているのに。


 ボクがそんなことを考えている間、ルドは違うことを考えていたらしく、あっと声をあげるとボクに向き直った。


「リーフってのはどうだ?」

「え……?」

「名前だよ、名前!記憶喪失なら、記憶が戻るまでの仮名がいるだろ?その腕、植物っぽいしよ、ヴァインだとなんか違うな〜って思ってさ」

「でも、なんでリーフ……?」

「髪の色と、目の色。なんていうかよ……生き生きとしたっていうのか……?なんか、木の葉っぱみたいだったから……だな」


本人もよくわからないらしい。

けれども、名前があるというだけでも、心意気が変わって来る。


「うん、いいんじゃないかな……?ネーミングセンスはボクにはよくわからないけど、なんとなく、気に入ったよ」

「おう、ならよかった」


ニッと笑ったルドは、外を見てうげっと顔をしかめた。


「やっべぇ……そろそろ帰んねぇとアイツが煩くなる……」

「アイツ……?」

「俺の仲間だ。いいやつなんだけど、時間に煩くてよぉ……」


そう言いながら、ルドはボクの倒した獣の方は歩いていった。

そして、片手で足を持つと、そのまま引きずり始めた。


「……それ、どうするの?」

「ん?あぁ、食う」


あの獣は食べられるらしい。


「よし、帰るか」

「あ、ちょっといいかな……?」

「どうした?」

「いや……その、この部屋にあるもの、少しだけ持っていってもいいかな……?」


ちらりと部屋を見ると、笑顔でいいぞと言ってくれた。


最初に手に取ったのは、机の上に置いてあったあの手紙だ。

今のところ、他の人からボクに向けて送られたのはこれだけだ。持っていれば、何かの手がかりになるかもしれない。


次に手に取ったのは、あの図鑑とノートだった。

植物の写真や絵が描かれたそれは、きっと記憶があったころ、大切にしていた物だと思う。


ふぅ……と一息吐くと、本棚と壁の間に何かあるのが見えた。

引っ張り出してみると、それは少し大きめのリュックだった。

本と手紙を入れるのに丁度良いと思って開けると、中には何か、箱のようなものが入っていた。


「何だろう、これ」

「どうした?」

「リュックの中に、何か入ってた」


ルドにそれを見せると、とても驚いた様子で目を見開いた。


「こんなもんどこにあった!?」

「え……いや、だからリュックの中に……」

「マジかよ……」

「これ……なにか悪い物だったりする?」


不安になって聞くと、ルドは首を横に振った。


「いや、むしろ良いもんだ。こん中には、俺らの身体を治せるもんが入ってる……俺らの身体は、丈夫な分、壊れたら治りにくい。だからこれは、とんでもねぇ貴重品なんだ」


しかも、これはほとんど都市伝説と言われるくらいのものらしく、ルドも実物を見るのは1,2回しかないらしい。


「……じゃあ、これで、ルドの役に立てるね」


 そう言うと、ルドは呆けた顔をして固まったが、しばらくすると、大きな声で笑い出した。

 わけもわからず見つめると、ボクの背中をバシバシと叩きながら口を開いた。


「お前……やっぱ良いやつだな!」


結構力が強くて痛い。

でも……とりあえず喜ばれてるなら、いいか。


ボクはふっと微笑んだ。

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世界終了記 矢崎九良 @kurain

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