第19話 ホテル

 その日、残業を終えた私は最寄りのホテルで一晩を明かすことにした。

 フロントでチェックインを済ませると、女性からキーを受け取る。部屋番号は「304」号室。

 疲れた体を引きずってエレベーターに乗り込んだ。

 2階からが客室になっている。「304」号室は4階だ。

 エレベーターを降りて部屋に入ると、力尽きてベッドに寝転がる。

 そのまま眠りに落ちた。

 

 ふと目が覚めた。

 朝まで熟睡だろうと思っていたから意外だった。

 今は何時だろう。

 時計を確認しようとするが、できなかった。

 体が動かないのだ。

 金縛りを体験するのは初めてだ。よほど疲れが溜まっていたんだろう。そう楽観視する私の視界にチラつくものがあった。

 仰向けのまま目だけを動かす。カーテンが開け放された窓を見る。

 黒いものが動いていた。それは私と視線を合わせるように移動してくる。

 ここは4階だ。人が昇ってこられるわけがない。

 視てはいけないものだと感じた。視線をすぐにそらす。

 私は目をかたく閉じ、心中で「消えろ」と念じ続けた。


 次に目を開けたとき、窓からは朝日が差し込んでいた。

 いつの間にか眠っていたようだ。それとも、あれは夢だったのか。

 眠い目をこすりながらも窓に近づく。

 そこには、無数の手あとや足あとが残されていた。

 夢じゃなかった。

 私は怒りに任せてフロントに電話をかけた。


「どうなってるだ304号室は」


 すると、相手から返ってきたのは予想外の言葉だった。


「申し訳ありませんが、当ホテルに304号はございません」


「ふざけるな。その部屋から電話をかけてるんだぞ」

「お部屋番号を間違えてはいませんか?もう一度お確かめください」

 

 言われて昨日受け取ったキーを見た。


「なんだよ、これ……」


 キーはまるで何年も使われていないかのようにサビついていた。

 そして、今更になって思い出す。

 多くのホテルでは、不吉な数字であるといわれる「4」と「13」がつく部屋は存在しない。

 もしこのホテルも同じつくりなら。


「今、私はどこにいるんだ」




 

 

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恐怖確率未定 夢春 @zonbi19

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