第18話 じいちゃんの畑

 小学6年の夏休み。

 僕は田舎のばあちゃんちを訪れた。今日から三日間、ここで世話になる。


「あらまぁ、こんなに大きくなって」

 

 セミに負けないくらい大きな声を出して、ばあちゃんが駆け寄ってくる。

 いきなり頭を撫でてきた。毎年のことだが、なんだか照れくさい。

 家に上げてもらうと、まずは仏壇に手を合わせる


「今年はひとりできたよ」


 写真の中で笑うじいちゃんにあいさつをする。

 そういえば、じいちゃんも会うたびに頭を撫でてきたな。ばあちゃんとは違って力強くて痛かったけど。

 キッチンに行くと、ばあちゃんがジュースを用意してくれていた。

 学校であった面白いことを話しているうちに、日が暮れ始めた。

 暑さも和らいだところで、夕飯まで散歩に行くことにした。

 小川を泳ぐ魚を見ながら歩いていると、小さな畑を見つけた。周辺の畑からはずいぶんと距離を置いたところにある。 

 今は使われていないのか、雑草が伸び放題だ。

 古着の生地で飾られたかかしが、妙に薄気味悪い。

 かかしの頭で、カラスが羽を休めていた。僕が近づいて驚いたのか、急に飛び立つ。

 その拍子にかかしが倒れてきた。僕は怖くなって家に逃げ帰った。

 出迎えたばあちゃんがジュースを持ってきてくれる。一気に飲み干した。

 その後、畑のことをばあちゃんに尋ねた。

 すると、ばあちゃんは何かを思い出すように目をつむり、ゆっくり話し始めた。


「あれは、じいさまの畑なんよ。あの人、人付き合いが苦手でね。全然そうは見えなかっただろ?」


 確かに、僕の知るじいちゃんから全く想像できないことだ。いつも笑っているのが印象的だった。だけど、思い返してみれば身内以外の人と接する姿は見たことがなかった。


「それであんな寂しい場所に畑を……」


 ばあちゃんはうなずくと、続けて話す。


「あのかかしは、じいさまが畑を大切にしていた証なんよ。それを気味悪いだなんて言っちゃいかん」


 ばあちゃんは片目を開いて、首を左右に振った。

 罪悪感がわいてくる。

 かかしを倒れたままにしてきた。

 写真の中のじいちゃんは一体どんな顔をしているだろう。きっと悲しい顔をしているはずだ。


「もう一度さっきの畑に行ってくる。それで、じいちゃんに謝るよ」


 ばあちゃんが微笑む。

 暗闇も恐れずに全力で畑に向かった。

 かかしは生い茂る雑草に顔を突っ込んでいた。頭をつかんで持ち上げる。

 意外と重かった。力いっぱい持ち上げる。

 すると、頭をおおう布が破れてしまった。

 勢い余って尻もちをつく。

 雲の合間から月光が差した。

 布の裂け目からじいちゃんの顔が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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