エピローグ
「ねえ、ニカイドウさん。ミナバさん貸してよ」
「いいけど高いぞ……そういやあいつ今日どこ行ったんだ?」
意味深に笑い、イリヤは長い髪に櫛を通した。
「アハハ、さあね。報酬いくら? っていうか払えないから現物でいい?」
イリヤは櫛を放り、ニカイドウへ平たいボール箱を投げ渡した。ニカイドウはよろめく。
「重っ、なんだこれ」
「開けてみてよ」
片肘をついたイリヤが促す。ニカイドウは従った。
「……は?」
「着替えて」
ボール箱の中身は三つ揃いのスーツだった。
◆
三十分後、ニカイドウは高光度太陽ランプの下にいた。
「は?」
「俺の職業聞いたよな? 俺の名前はイリヤ。歌姫イリヤ、稀代の天才歌手とは俺のことだ」
「……は?」
ルーバーの下に、涼やかな風が通り抜けていく。
「茶会に参加したいって言ってたよな。ニカイドウサンのために来賓席用意したんだ。俺のステージ聞いてってくれよ」
状況に理解が付いてこず、ニカイドウは固まっていた。そうこうしていると進行役らしき人間からイリヤが呼ばれた。
「わかった! すぐいく!」
イリヤは振り向き、ちらりとニカイドウを見た。目をきょろきょろと動かし、少し恥ずかしそうに口を開いた。
「ニカイドウサン、その、あの時はアリガトウ。俺にできる恩返しなんてこれくらいしかないけど……楽しんでってくれよな」
イリヤはそう言って、照れくさそうに頬をかいた。
「じゃあ、またあとで!」
そう言い残して、イリヤは駆け出していく。ステージの上で朗々と話すイリヤを、ニカイドウは茫然と眺めていた。
雨天暗黒地下街 佳原雪 @setsu_yosihara
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