第2話 魔界創造局の一室

「で、今後どうするんだ?」


ユリリィに魔界創造局の部屋につれてこられたルシエルは、窓の近くに椅子を置き、そとを眺めながらユリリィに言った。

魔界創造局の部屋はそこそこ高い位置にあり、にぎわっている城下町の様子が眺められた。


「え、ええっと……、」


言葉を詰まらせるユリリィ。

本棚や机の上にある資料を探したりしようとせずに、動きがとまっているところから、なにも考えていなかったことが伺える。


(まあ、今までのこいつの行動からだいたい想像どおりだな)


ルシエルはそう思ったが、少し困らせてやろうと、


「ど、どうした? 偉大な神に命じられて任務をまっとうしなければいけないんだ。ちゃんと考えているんだろう?」


考えていて当然、といった表情で言う。

一方、魔王ルシエルを自分の世界に連れてきたあと、どうするかという予定をまったくたてていなかったユリリィ。一歩あとずされながら、


「と、当然……、次どうするか決めてあるに決まっています」

「まあ、そうだよな。で、どうするんだ?」

「そ、それはですねぇ~」


と、視線が定まらず言うユリリィ。

どうやら正直に、今後の行動をどうするのかなにも決めていなかった、と言わずに、ウソをつこくことにしたらしい。ウソをついているなんてバレバレにもかかわらず……。

だが、ウソをつくと決めたのはいいものの、実際どうするのか決めていなかったのは事実。答えられず、沈黙し、体を動かさず考えてしまっている。

それに対して、ルシエルはおもしろがり、ニヤニヤしながら、


「黙っていてはわからないから、早く言ってくれよ、」

「……うっ、あは、あはは、え、ええ~っとですねぇ~、あ、あれです。

ま、まずはルシエル様にこのお城をご案内しますよ」


苦し紛れに新人が配属されたときのごく普通の流れを言うユリリィ。

本当に苦し紛れだ。

ルシエルからの質問は目下今どうする? といったものではない。

この世界に魔界を作るためにどうする? というののなのだ。

だが、ルシエルこういった話の流れを、ユリリィが言い出すことも想定していた。


「で、俺とユリリィはどちらのほうが立場が上なんだ?」

「えっ?」

「『えっ?』じゃねぇ。今後、行動していくうえで、どっちのほうが立場が上だか決めておかないと、やっかいだろ?」

「そ、それは……、」


また言葉をつまらせる、ユリリィ。そして、困りながら、


「そもそも、私は神様が作った行政機関の役人の一人であって、神様と敵対する魔王と立場が違うというか、なんというか……、どちらのほうが立場が上とか下とかはないと思います」

「へぇ~、本当にそうなのかなぁ~。まあ、それで、いいっていうなら、それでいいけど、」


意味ありげに言うルシエル。

当然、そんな言い方をされては、ユリリィも気になる。


「ど、どういうことなのでしょう?」

「そもそも、神からユリリィはどうするようにと言われたんだ?」

「神に敵対する勢力をしっかりと創るようにと……」

「まあ、そうだよな。

ちゃんと、神に敵対する勢力をしっかり創らなきゃいけないよな。

ってことはだ、俺と行動していくうえで、俺と立場が違う奴がいたら、どうなる?」

「そ、それはぁ……、とてもやりずらいと思います」

「そうだよなぁ、例えるなら、ゲームでチーム戦をやっているときに、自分のチームに敵のチームのプレーヤーが混じっているようなもんだ」

「じゃ、じゃあ、どうしろというのですか?」

「つまりだ、神の命令をしっかりと果たすためには、おまえも魔王ルシエル一味に

くわわるしかないってことだ」


神の命令を果たすために、神に敵対ろ、なんていう、本末転倒のような内容のルシエルの言い分。

神の命令をまっとうするのが第一と考えているユリリィであっても、即答はしずらく、黙ってしまう。

が、それも、ルシエルの予想どおり。


「今まで失敗してきたのは、そういうどっちつかずの立場だからだと思われるな。

まあ、大丈夫だ。すべて俺に任せておけばうまくいく」


などど、ユリリィにささやくルシエル。

ユリリィがルシエルの前にあらわれたときに、過去、相当な失敗をしてきていることは容易にわかった。その、ユリリィの弱っている心を揺さぶっていく。

そして、ユリリィ自身も自分自身で心が弱ってきているということを認識できるほど、心は弱っていた。もう二度と失敗したくないと。今度失敗してしまったら、逃げ出してしまいたいと。

そこに、魔王だったルシエルからの強い言葉『すべて俺に任せておけばうまくいく』と言われたら、よりかかりたくなってしまう。


「わかりました、すべてルシエル様にお任せします」


まず、一個目の自分の駒を手に入れたと、ルシエルは内心ほくそ笑んだ。

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