第16話 winter

 冬。


 それは感想の季節。


 体が芯から凍るような寒さに身を呈していると、人肌が恋しくなる。

 文字通り体の繋がりはもちろん、そうじゃなくても心を温めてくれる存在を欲する。

 美里は向かい風に煽られながら学校に行く道すがらそんなことを思う。


 また冬が来た。

 春夏秋と例年と同じようにしっかりと恋をしたと美里は自負している。

 その中には良い恋もあれば悪い恋もあった。

 

 秋に最高潮を迎えた恋は冬が正念場となる。その冬を乗り越えるべく温め合える人でないと続かないし、続けたくない。

 そんな子どもっぽいわがままのために端から見れば劇的と思える恋を秋にしたのち、冬にあっさり別れるということもしばしばだ。


 美里にとって冬は将来を担う季節と言ってもいい。四季を経て培った恋だの愛だのをこの季節に改めて向き合い、考え、判断する。


 結論から言えば、夫を除き、冬を越すことができる人は……


 「先生、おはようございます」

 美里の思考が中断される。

 細野悠真。

 美里にはっきりとした恋慕の情を向けていた男子生徒。

 「おはよう」

 受験はどうなっているのだろうか。部活にも勉強にも真面目な彼ならそつなくこなしてうまくやりそうではあるが。

 

 挨拶だけして通り過ぎていく細野悠真の後ろ姿を目で追いながら美里は思う。

 (私も彼もお互いを意識してる……?)


 この時期、受験生である三年生の授業は難しい。生徒によって求めるものが違うからだ。

 美里はいつも半ば自習のようなスタイルをとる。

 自然と細野悠真に目が行ってしまっている自分に気がついた。

 

 美里はいつだって自分から求めているようでスタートは受け身がほとんどだ。自惚れているわけではないが、美里に惚れて声をかけてくる人がほとんどで、美里が好きになった相手も例外ではない。

 細野悠真だけ。

 彼だけは違った。お互いの立場をわきまえてのことだろうが、これほど露骨に美里を想う素振りをしながら積極的な行動はなにもとらない。

 意識的な駆け引きではないと思うも、美里には珍しいケースで逆に惹かれるものがあった。


 この春に彼は卒業して新しい道を行く。

 美里が追いすがるような気持ちを持つことはおそらく初めてだ。

 

 窓の外の雲行きは怪しい。

 午後は雪になるかもしれない。

 美里には交わった人間を品定めするような寒い季節にも関わらず、一定の距離感から動かない相手がなぜか春を待つ第一候補に挙がる。


 危険な、いけない香りのする恋もまた人生なのだろうか。

 刺激が足りないとは思わない。ただ心が赴くままに生きてみよう。


 今にも降り出しそうな空とテキストに打ち込む細野悠真の両方を目に入れながら美里は妙な緊張感を味わっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋の季節 unia @unia_selene

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ