第15話 ふゆ
冬。
それは間奏の季節。
由真はママと一緒に行く毎年冬の歌劇が大好きだった。
ミュージカル調にあらゆるお話がアレンジされて表現されるそれらの歌劇を由真はとても楽しみにしている。
今日これから見に行く演目は、「桃太郎」だ。
「今日の話の主役、桃太郎はママのお友達なの」
ママは嬉しそうにそう言う。
ママの知り合いのいるこの劇団は童話から大人向けのドラマなど幅広い有名なお話から物語を作る。
今日の「桃太郎」だって由真のよく知るお話とは違うかもしれない。
豪華な造りのホール、というわけにはいかないがファンの心をしっかり掴んでいるのか小さな会場は満席だ。これはいつものことでもっと大きな場所でもできそうなのにと由真は思っていた。
会場が暗くなり静寂が訪れる。
この時の緊張感はたまらない。観ている由真でさえこうなのだから演じる人たちはどれだけの思いをしているのか。
由真はメインとなるストーリーの歌やダンスももちろん好きだが、つなぎに使われる間奏がなにより好きだった。
「メインとなるところだけが大事ではないの。むしろそういったメインではない部分こそ大切なのかもしれない」
音楽の先生が言っていた言葉が由真の胸に強く残っている。
あれ以来由真は人を見るたびに人にもメインの人生を支える間奏のようなメロディがあるように思えてならない。
そして実際に、冬になると人から奏でられる音が聞こえてくる。
冬はなんとなく静かなイメージがあるからなのだろうか。
もっと知りたいと思う人を見ると、その人のまとうメロディが見える、聞こえる気がする。
でもそれはメインとなる旋律ではないとなんとなく由真は思う。その人を支える、周りからその人を形成する間奏のメロディ。
清水くんから見えた、聞こえたメロディはとても綺麗な音を奏でていた。一音一音が軽やかに、けれどもしっかりと由真の心に残る。透明のなかに鮮やかな色が規則的に飛び交う。
(私はどんなメロディを奏でているのだろう……)
由真には自分のメロディは聞こえなかった。
音楽の先生に話すと、
「それはきっと経験を積み重ねたりして日々変わっていくのでしょうね。由真ちゃんが奏でる音とうまく重なる音を持つ人が運命の相手なのかも。その人と強く結ばれたとき自分の音も聞こえてくるんじゃないかしら」
音楽の先生はロマンチックなことをよく言う。
劇が終わり一斉に拍手が鳴る。
今日楽しんだ「桃太郎」も由真の間奏を形成する一助となっているのかもしれない。
朱く染まった西の空はなんだか暖かそうだ。
清水くんと一緒に綺麗な音が奏でられるといいな。
ガラスに反射した由真が映る。
清水くんのことを考えた由真の顔は目の前に広がる西の空のように朱く染まっていた。
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