第5話 幻の「秘法 人参ラーメン」

 まだ社会人に成り立ての時、はじめて上司に連れて行かれた取引先。その頃は知識として無かったが行く道中に風俗店がある感じのエリアを抜けた先にあって、正直「こんな場所の会社大丈夫か?」と思ったものだ。そんな若干怪しげなエリアの一角にその店はあった。


 ランチ時間にあちこち近所をうろついてみると、何やら怪しげな”秘法 人参ラーメン”と書かれている看板が見えた。「秘法???」「人参???」どんなラーメンを出すのだろう?と心の中で反芻しつつ、しかしどこをどう想像しても答えは見えてこない。今と違ってネットでの検索も無い時代でまるで情報は無い時代、判別出来るのは客の入りか口コミぐらい。見てみるとそれなりに客は入っている、むしろ並んでいると言った方が良い。

「これだけ客が入ってるのだから、まぁ大丈夫なんだろう」

と覚悟を決めて列の最後に並んだ。


 入店すると上にメニューが並んでいる。味は醤油・味噌・塩の三種類が揃っており、それとトッピングで値段が変わるようだ。トッピングのメニューの名前が”牡丹”など洒落た名前が付けてあった記憶がある。厨房の中では気のよさそうな親父が鍋を振っている。何も分からないのでおすすめを店員さんに聞くとランチセット(ラーメン+チャーハン)が少しお得らしいので、それを頼むことに。ラーメンの味は醤油にする。注文が来るまでメニューをよくよく眺めてみると、一番高いトッピングに”朝鮮人参の天麩羅”がある。

「ひょっとしたら”秘法”と”人参”の由来はこれなのだろうか?そうだろうな。」

などと一人納得しながら、出来上がりを待つ。


 ほどなくしてセットが出てきた。まずはスープを一口啜る。多分鶏ガラベースにあと色々混じってる、透明なあっさり系のスープ。なんとなく独特の風味があるのが特徴的だったのを覚えている。細めのいわゆる”中華そば”的な麺。思い起こせばまあ20年前という時代を考えれば当たり前か。具はメンマチャーシュー薬味にネギといったスタイルもいわゆる中華そば的なスタイル。ずるずると麺を啜ると抵抗なくどんどん食べられてしまうが、汁に独特の風味があってどことなく後を引く感じがする。


 ここで少しチャーハンに浮気。見た目の具はチャーシューネギ炒り卵といったオードソックスなスタイル。色が少し茶色が買ってた気がする。ラードで炒めてるのかちょっと焦げた香りが香ばしく食欲をそそって良い。味は醤油ベースかな?と思うぐらいの味付け、邪魔にならない。食感はパラパラではなくしっとり系。だけど口に入れるとべとべとせず、こちらもさくさくとどんどん食べられてしまう。しかしどこか後を引く独特の風味がある。


 ラーメン、チャーハン共にあっという間に食べ終えてしまい(多分腹が減っていたのもある)お勘定。ふと見るとカウンターの奥の方にばかでかい根っこが浸かっているガラスの入れ物がある。勘定ついでに聞くと朝鮮人参の焼酎漬けだそうな。どうやらショットグラスで呑ませてもくれるらしい。


「これも”秘法”かな?」と思いつつ、店を後にした。散々通い詰めた後に親父さんが教えてくれたのは「ダシにも朝鮮人参やその他漢方ぽいものが入れてある」との事だった。独特の風味はそこから来ていること、少しでもお客さんのパワーになれば的な発想から隠し味的に入れていると言う事だった。


 結局その後一年以上勤務先から近かったこともあり昼時に延々と通う事になり、全ての味とトッピング組み合わせを食べることに。そこで出てくるメニューの話はまた後日。

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食いしん坊回顧録 にわけん @niwaken

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