第3話 どこぞの主人公なんですか?

 次の日の登校時は特に何事も起こらなかった。


 毎日こんな風に何も起こらなければいいのに。


 俺は昇降口で茉奈を見かける。茉奈は自分の下駄箱を開けようとするところだった。次の瞬間、茉奈の下駄箱から手紙が溢れて出して床へとバラバラと落ちていく。しかし、どれもこれもピンクや水色などファンシーな手紙ばかりだ。明らかに女の子からの手紙ばかりである。


 一体どうしたんだろうか?


 「おは……」


 俺は茉奈に声を掛けようとする。


 「茉奈に近づくな!」

 「下がりなよ、パンピー!」


 そんな声と共に俺の前に立ちはだかったのは、茉奈と同じバレー部のクラスメイト、立花なぎさと、陸上部に所属するクラスメイト、山田加奈子だ。前者は長身で、男装をさせればさぞかし似合うであろう凛々しい容姿の女の子で、絶賛同性にモテモテである。それに対して後者は、亜麻色のサイドポニーがトレードマークで、陸上には不都合なほどに大きな胸を持ち、容姿も学年で一、二を争う程の美貌を持っている。


 おいおいこいつらは昨日、俺に対して紫の感情を向けていたやつらじゃないか。俺の心の中だけにそっと閉まっておこうと思ったというのに、どういうつもりだよ。


 「え?なぎさ、かなどうしたの?カズ君は幼馴染だよ?」

 「そんなものは関係などない!茉奈に昨日のような破廉恥なことをさせる輩に近づけさせるわけにはいかない。」

 「その通りだよ!こんな影の薄い男は茉奈には似合わないよ!」

 「別に赤ん坊の時からの付き合いだし、今更でしょ。」

 「くぅ、茉奈と赤ん坊のころから一緒だなんてなんてうらやま……こほん……けしからん奴だ」

 「はぁ、幼稚園児の時の生茉奈を見ているなんて、どうしてくれようかしら」


 一体どうなってるんだろう? 

 昨日のことは完全に消したはずだから、記憶がよみがえるということはないはずなんだけど。

 その上こいつら、今まではこんな行動に出てこなかったし。


 とりあえず時間を止めて手紙も検分してみる。やはりどれもこれも差出人が女子たちになっている。


 これはさすがに異常だろ。

 でも俺が感知できないとかありえるのか?


 現在も何も感じない。いったい何が起こってるっていうんだ。


 それはさておきこいつらはどうしてやろうか? 

 しょうがない、実は心の中も覗くことが出来てしまうので観ちゃおっと。


 「茉奈は私の物だ!かなこになど譲ってやるものか。まして男になど!」


 ふむふむなぎさはそう思ってるのか。


 「茉奈は私の物に決まってるんだよね。なぎさなんかに譲る気はないよ。バレー部の先輩押さえてるし。それにこんな底辺ウジ虫なんか私によって来る男どもで社会的に抹殺してやるわ」


 うっわ。加奈子とか腹黒すぎないかこれ。


 なるほどね、二人とも茉奈が好きなのは確実になった。まぁ実害あるまでは泳がせておくか。それにしても朝からこの調子だと先が思いやられるな。


 ひとまず二人には沈静化の魔法をかけておこう。そう思って指を鳴らして沈静化の魔法をかけ、時間停止を解除する。


 「あ、あれ私たちなんでこんなことを?」

 「え、あれ?なんでだろう。茉奈なんかごめんね」


 そういって二人はパタパタと去っていった。


 「カズ君ごめんねー、なんか」

 「いや全然大丈夫だよ、気にしてないから。茉奈に似合うような男じゃないし、影も実際薄いしな」

 「そんなことないよ。カズ君は昔からずっと優しくて頼もしい私の唯一の幼馴染だよ!」

 「まぁ俺のことはあまり気にしないでいい。大丈夫だから。」

 「そう?何かあったらちゃんと言うんだよ。幼馴染なんだから」

 

 茉奈は人差し指を立て前かがみになって、上目遣いで念押ししてくる。


 辞めろ!

 その反則的なポーズは辞めなさい!

 メーデー、メーデー、ヘルプミー、俺じゃこのポーズから逃れられないよ!


 「わかった。何かあったらちゃんと言うから。それよりもその手紙凄いな」

 「ねぇ。昨日までこんなことほとんどなかったのに、一体どうしたんだろう?それも女の子ばかりみたいだし。」

 「どうするんだ?」

 「一応ちゃんと読んで返事をするよ。」


 相変わらず、まっすぐで誠実な奴だ。こんな奴だからこいつの日常を守ってやりたいと思うんだよな。俺も幼馴染には甘いのかもしれない。


 「んじゃ、ホームルーム遅れちゃうし、行こうか」

 「ああ」


 そうして教室に向かった。


 ホームルームが終わり、授業が始まる。それにしても、今日はなぜかハプニングが多い。それも完全に茉奈となぎさ、茉奈と加奈子が絡んでいる場面ばかりだ。


 かたやなぎさが授業で呼ばれ、問題を解いて自分の席に戻る際に茉奈の胸にダイビングしたり、かたや加奈子が体育中に足を引っかけて、茉奈の下腹部にヘッドスライディングかましたり、どこぞの主人公のラッキースケベ体質でももらってきたんですか、ってくらいだ。


 絶対におかしい……。

 ……でもいまだに何もつかめていない。

 これは神か何かが操っているとしか……。


 ん?まさか……神……はね。


 俺は自分の考えを振り払い、完璧なノートを取るべく、授業に集中するのであった。 

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最強魔術師は平凡な日常のために本気出す MPG @mizyu510

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