第3.5話「バース」②

 バンクラプト対策組織――通称「BB」への参加を決めた馬場盤次は、いつものように葉月玩具店へと足を運び、バンクラプトバスターズをプレイしていた。

 若干プレイング時の感覚は変わったものの、以前よりも動けている。

 しかしそれはあくまで個人的な感想で、やはり国内のランキングは13位から変動することはなかった。

 相変わらず悔しさを感じる一方で、自身の戦い方を冷静に分析する余裕が生まれている自覚は、確かにあった。


 この日も、自身の研究をするという目的の下、葉月玩具店にある筐体に入り浸っていた。


「なんだか明るくなったみたい」


 玩具店員であり、幼馴染でもある葉月美香いわく、そうらしい。

 バンは休憩用の椅子に座りながら、スポーツドリンクを喉に通していく。


「……そうか?」

「顔が悩んでない」


 バンは悩んでる顔ってなんだと反射的に思うが、少し前の自分がそうなのだと思い至り言葉を飲み込んだ。

 だが、何故ミカはそんなことを言うのだろう?

 問おうとしたところで、彼女が先に口を開いた。


「ごめんね、ちょっと私、調子に乗ってたみたいだ」

「……そうだったか?」

「うん」


 彼女はそう言うが、バンは必要以上に踏み込まれた覚えはない。

 いや、最近のことを振り返ってみれば思い当たる節はあった。


 ――……私じゃ聞いてあげられない?


 バンがバルバニューバに乗るかどうか、ナギとの決闘をどうするか、自分が進むべき道はどこか――そんなことを並列して考えていた時、彼女は重々しい雰囲気と共にそう言ってきた。

 それに対してバンは「俺にだって人に言えない悩みの一つくらいできる」と返した。

 冷たい返事だったかはともかく、その時のことを言っているのだろう。


「幼馴染だから、一度話を聞かせてもらえたからって。次も、その次も、ずっと私に頼ってくれるんじゃないか……なんて、バカみたいなこと考えてたみたい」


 その一言で、バンははっとなる。

 もし、彼が偽善者扱いをされていた時に相談したのが発端だとするならば。


 バンクラプトバスターズにのめり込んでいた時も、ずっと同じ感情を燻らせ続けていたのではないか?

 それに気づかず、自分は自分のことだけしか見ることができなかったのではないか?

 バンは鈍感だった自分が、酷く恥ずかしくなった。


「それなら、俺だって」

「駄目。そういうこと、思わないで。……バンは自分で何とかしようとしてた。私はずっとその邪魔をしてたんだよ」

「そんなことは」


 ない、とは言えなかった。

 彼女の顔色を気にして、バンクラプトバスターズをプレイしなかった日もある。

 邪魔ではない――そう言いたかったのに、心は正直だった。

 明らかに図星と取れる反応を見せたバンに、ミカは苦笑した。


「大丈夫、自分でも分かってたから。これからは、邪魔しないよ。でも……私に話せることなら、何でも話して。なんだかんだ言っても、寂しいからさ」

「……わかった」


 どんなに小さな気持ちでも、邪魔だと思っていたことは事実だ。

 それでも数少ない知人を蔑ろにするのは、正しいとは言えないだろう。

 己を恥じつつ心を改め、バンはミカに手を差し出した。


「え?」

「これからもよろしく、ってだけだよ。深い意味はない」

「……うん」


 ミカは恐る恐ると言った風に手を出し、バンのそれを弱く掴む。

 まだ不安に感じていることがあるのかもしれない。

 そこに、無責任に気にするなということなど、したくてもできない。

 ゆえに――バンはその気持ちを、優しく手に込めて握った。


「これからもよろしく、ミカ」

「うん……バン」




 夏はまだ終わりそうもない。

 そして、戦いはまだ始まったばかり。

 彼はこの先、休息の暇もないほど戦い続けるのかもしれない。


 それでも。

 今の彼は、ただの少年だった。

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爆進のバルバニューバ 鈴鳴 @ring_bell

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