温度

「被害者の名前は那賀田ながた天一てんいち。下水道局のC級従業者です。黒焦げの死体で見つかりました」


 テーブルの上に写真付きの資料が載せられた。

 胸から上の証明写真。たるんだ頬に眼鏡の男がそこには存在していた。


「昨日の深夜三時ごろに隣の部屋から異臭がするということで、マンションの管理人が鍵を開けたところ、部屋中が完全に黒焦げになっていたそうです」

「部屋中ってそれ、よくマンションごと燃えなかったな」

「ええ。きっちり被害者の部屋だけが黒焦げです。まるでその空間だけ切り取って燃やしたような状態だったんですよ」


 大げさな動作で驚きを表現する守留。紗季が律儀に相手している。


「それで、お前らの出番ってわけか」

「ええ、僕たち三課のね」


 警刹は塔京における治安機構の一つだ。事件があれば捜査をし、犯人を逮捕し、収監して管理する力を擁する。

 『三課』というのはその中でも塔京における《異能力センス》を利用した事件を捜査する部署なのだ。


 『塔京』の中心にはパラソルタワーと呼ばれる大きな塔が立っている。政治の中心であると同時に、エネルギーラインの中心だ。特殊な技術によってパラソルタワーから『塔京』全域にニューロエネルギーが供給されているのだ。


 パラソルタワーがもたらしたのは、新しいエネルギーだけではない。

 ニューロセンサーという機械を使うことで、人間に新たな次元の力を与えることも可能としたのだ。


 仙四郎は読み終えた資料をテーブルの上に投げ捨てると、鼻で笑った。


「《異能力センス》……ねぇ。くっだらねぇ」

「そんなことを言うのは潜谷さんだけですよ」


「それにしても……、見事に真っ黒焦げ」


 写真を覗き込んでいた紗季がぽつりと呟いた。那賀田の室内はまるで爆撃を受けたあとのようになっていた。溶けた金属が冷えて固まったような跡すら見える。


「ステンレスも溶けていますよ。温度にして1500度くらい出ていたようです」

「よく死体が残ったな。それだけの温度が高いと骨も残らないんじゃないか」

「どうやら燃やす対象によって温度が違うようなんですよ。燃焼温度はまちまちでした。炎を操る《異能力センス》でしょうね」

「なんにせよ、これだけやったんだ。ニューロセンサーにエネルギーが蓄積されるまでは何もできんだろ」

「だから、この間に捕まえないと。次の犯行を行う前に!」


 熱く言う守留を見ながら、仙四郎は重い腰を上げた。

 だいたいの情報はわかった。あとは現場を見てみないことにはわからないだろう。

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ダイバーシティ~100の多様性~ 葦時一 @asitokihito

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