見せてやるぜ…俺だけのムチャ振りってやつをな…

 ふと奇妙な森に来る前のことを思い出した。

 トラックに轢かれた僕こと円裕次郎は、気づくと見知らぬ白い空間にいた。
 見知らぬも何もどこまでいっても真っ白で、壁があるのかどうかさえ分からない茫漠とした謎の空間だった。

「おい、お前」

 突然、白い服を来た幼女が現れた。女性のファッションについてはよく知らない僕もで知っているそれはワンピースだ。

「いやこれはスリップじゃ。エロい下着じゃ」
「はあ」

 幼女にエロい下着とか自慢されてもこの欄外にいる円裕次郎にロリコンの気はないので「はあ」としか返せない。

「あれ、僕の思考を読んだ……?」
「おうとも。妾は神じゃ」
「はあ」

 とりあえず幼女の頭をなでなでしてみる。

「ふにゃ」

 幼女神は目を細めた。サラサラの髪の感触がいい。思わずロリコンの軍門に下りそうだ。そのとき、僕は思い出した。

「そうだ、僕には心に決めた女性が――」
「思い出したか、円裕次郎よ。お前はその女性に見とれて車道に飛び出しトラックに轢かれたのじゃ。そしてここに来た」
「ここ?」
「辺獄じゃ」

 辺獄。リンボとも言うそれは、死者がはじめに訪れる場所だと聞いたことがある。詳しくは知らない。

「でもさー、妾、ぶっちゃけお前の死に方が気に入らないんだよねー」
「急に口調が変わったぞ」
「まずねー、女に運命を感じて車道にふらふら踏み出す時点で動機がご都合主義。っていうかあの女、何歳? あんなBBAに惚れるとか、ロリコンの風上にもおけなくない?」
「転生する人間が全員ロリコンみたいな言い方やめて」
「何が足りないか分かる?」
「わかりません」

 突然幼女神の右手に現れたバールのようなもので膝を叩かれた。

「うぐぅ!」
「妾が思うにヒーローは猫を助けて死ぬのがセオリーよね。猫は正義。猫はジャスティス。ネコと和解せよ。ヒーローは冒頭に猫を助けてトラックに轢かれなきゃ読者の共感を得られないと思うの。幼女を救ってはねられるパターンもあるけど、幼女を連れてくるのは絵面的にマズイし、助けられなかったとき妾の責任が重いからNGね」
「いったい何を話してるんですか」
「お前は転生やり直しってこと。とりあえずトラックに轢かれる前の時間に意識を戻すから、猫捕まえてきて」
「猫を捕まえたらどうするんです」
「トラックに轢かれて死んでもう一回ここに来て」
「いやですよ!」

 幼女神の右手に現れた乗馬鞭で膝を叩かれた。

「うぐぅぅぅ! バールのようなものより痛い!」
「へぇ、このオス豚、妾から逃げられるとでも思ってんの? 金玉出しなさいよ」

 またも豹変して小悪魔な笑みを浮かべた幼女神は、僕の股間に手を突っ込んで何かを握った。僕は玉ヒュンを感じたが、すぐにその玉の感触が消えたことに気がついた。

「お前の大事なものは預かったわ。返して欲しければ必ずここに戻ってくるのよ」
「この世には神も仏もない……!」

 幼女神はあくびした。
 演技に疲れたのか、くてんくてんとして眠そうだ。

「つかれた。おんぶして」

 言われるがまま幼女神をおんぶする。薄い身体を背中に乗せると羽根のように軽い。すごい、幼女って重さを全然感じないんだな……。

「どこに行くの?」
「あそこ」

 さっきまで影も形もなかったのに、幼女神が指差す場所にいかにも怪しい扉が立っていた。扉は鎖で巻かれて施錠されている。
 扉の前までくると、幼女神はパッと背中から飛び降りた。

「じゃあ猫を助けてトラックに轢かれてね。よろしく」

 幼女神が僕を蹴り倒す。
 その瞬間、僕の足元がカパッと開いて落とし穴になった。

「扉~~~~!」

 目覚めた僕は自分の家にいた。時間は、トラックに轢かれる10分前だった。

「ギリギリかよ!」

 とにかく猫を見つけないと。
 僕は着の身着のまま部屋から飛び出した。

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転生したいのに転生できない勇者、みたいな