小話

テトラポッド誕生の謎

 商品としての消波ブロックの歴史は思いの外浅く、誕生は第二次世界大戦後まもなくのことになる。しかし、この歴史の浅さに反して消波ブロックの誕生には大きな謎が隠されている。


 そもそも、最も初めに開発された消波ブロックは知らない人は居ないであろうあのテトラポッドである。実はテトラポッドは開発時からほとんど形が変わっていない。フランスの研究機関によって開発され、初設置の場所はモロッコの火力発電所である。ここまでは概ねどの資料においても変わらない。しかしその開発年については1949年、1950年、はたまた1953年であったりと、資料によってまちまちであり、ハッキリとした開発年は明らかとなっていない。

 ここで疑問が浮かんでくる。なぜ誕生から70年程度しか経っていない商品の開発年がこんなにも曖昧なのだろうか。さらに、なぜ消波ブロックとしては一切の前例が無かったにも関わらず、こんなにも完成度の高い消波ブロックを一番に開発することが出来たのだろうか、と。


 実はごく単純な話なのである。

 消波ブロックを信奉する宗教である消波教。その経典の一つ「護岸記」によれば、テトラポッドの誕生は有史以前に遡り、その記憶は人の脳裏に刻み込まれているというのだ。かの文に記された動物を模した四脚の像が今で言うテトラポッドであろうことは想像に難くない。

 世界史の授業を思い出して頂きたい。フランスには旧石器時代の壁画が描かれているラスコー洞窟が存在する。そして、それを発見したのは1940年の少年たちであるようだ。おそらく、その壁画の中に消波ブロックのものが存在したのであろう。第一発見者である彼らは、脳の奥底に刻み込まれたテトラポッドの製法をその時掘り起こされたに違いない。そして、約10年の時を経て研究職に就くことの出来た彼らは満を持してテトラポッドを世に送り出したのだ。

 これで全ての説明がついた。

 第一号にして完成されたあの形は超自然の力の賜物であり、製造年月日の不明瞭さはもはや世に送り出した時期など彼らにとって取るに足らないような些事であったからなのだ。


 消波教の預言者はこの歴史的大発見である経典を消波ブロックと共に過ごす禁欲生活の末に授かったとされている。

 細々とした特許情報、論文、企業資料を漁る消波ブロック考古学はもはや過去のものとなった。これからの時代は信仰の力によって消波ブロック本来の力を引き出す「消波ブロック信学」が消波ブロック学の中心となる事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

消波小編 コフ=チェレン @KovCheren

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ