第3話
それからおよそ数時間、僕と楓は荷物を運び続けた。
女の子の一人暮らしというので荷物がどれくらいあるのか想像出来なかったが、僕がここに来た時とさほど変わらない量だった。
後はこのテレビを部屋まで運べば終了だ。
僕はテレビの両端を掴んだままエレベーターが上まで到着するのを待った。
こうエレベーターの中で重いものを持ち続けるというのは地味にキツイ。
しばらく運動をしてなかったせいか余計に応える。
全身から汗が吹き出して来るのがわかる。
1回下に置こうという考えが頭をよぎった頃、エレベーターの電子音が鳴り、扉が開いた。
楓ちゃんはすでに上で待っていた。
「草壁さん、これで最後です」
「ありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいのか」
楓ちゃんはまた大袈裟なリアクションでペコペコと頭を下げる
「良いですよ、中まで運びますね」
さすがに足元がフラついてきた…これだけ動けばそうだろう。
そういえばご飯だってまだ食べてなかったか。
まあいいや、これだけ運び込んだら部屋でご飯食べるとしよう。
身をよじりながらテレビを玄関まで運び込む。 部屋をチラリと見るとさきほど運んできたダンボールが部屋の奥に追いやられてる。
僕が下に行っている間にそうしたのだろう。
テレビを玄関に置いた時、ついに僕はその場にへたりこんだ。
「ひぃ...さすがに疲れた。」
「あの、本当にありがとうございます! 今お茶でも入れますね!」
「良いですよ。気まぐれで手伝っただけですし。」
「いえいえ、そんなこと仰らずに!」
ああ、またこの子は早く行かないと食い下がるな。
「じゃあ、僕はこれで。」
そう言いながらスマートに立ち上がる。いや、立ち上がったつもりだった。
視界がぐるぐると回ったような感覚がしたと思うと急に目の前が真っ白になった。
僕の意識は途絶えた。
方位磁石 鞍馬 乱 @kuramaran
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。方位磁石の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます