カクヨムをさらに盛り上げるたったひとつの冴えたやり方
みかみてれん(個人用)
カクヨムをさらに盛り上げるたったひとつの冴えたやり方
「アバターシステムを導入しましょう」
その一言に、会議の場はめちゃくちゃざわめいた。
壇上でプレゼンをしているのは、天才美少女と名高い編集者のマリー・アントワネットである。
彼女は若干十七歳でありながら、カドカワ本社にてすでに敏腕編集者として名を馳せている逸材だ。ちなみにアイドル顔負けの美貌も持ち合わせている。
会議に参加しているひとりの編集者が手を挙げた。
「アバターシステムとは?」
「よくあるじゃないですか、モバゲーとかグリーとかで。ああいうやつです」
他の編集者が首を傾げた。
「でもそういうの表示するのってページが重くならないか?」
「大丈夫です。二兆円かけてサーバーを増設しました」
場がざわつく。
新米編集者が根本的な問いを投げた。
「あの、アバターシステムって今さら目新しいとは思えないんですけど」
「もちろん考えております」
美少女編集者のマリーは胸を張った。
「アバターを飾り立てるアイテムは、基本的に『書くこと』と『読むこと』の二つの方法で入手できるようにしております」
誰かが「カクヨムだ……!」とつぶやいた。
手応えを感じながら、マリーは続ける。
「書くことでは、例えば『ファンタジーの長編』を書くことによって、こういった剣などのアイテムが手に入ります」
手元のPCを操作すると、スクリーンに映ったパンツ一丁の男性キャラクターが、剣を装備した。
ほう、と誰かが漏らした。
「つまり、その作者がどういったジャンルを重点的に書いているのかが、視覚的にわかるというわけだな」
「その通りです」
マリーは再び胸を張った。
「さらにこの剣は装備すると、アイテム効果が発揮されます」
「それは」
「入手PVが5%アップします」
場がざわつく。
新米編集者が手を挙げた。
「あの、5%って、その増えた分は誰が読んでいるものなんですか?」
「誰も」
「誰もって……、それってただの水増しじゃないですか?」
「いえ、アイテム効果です」
マリーは言い切った。
誰かが「アイテム効果なら仕方ないな……」とつぶやいた。
「他にもさまざまなアイテムがあります」
マリーがPCを操作すると、様々なアイテムがスクリーンを踊った。
「こちらのアイテムは学園ドラマを書くと入手できる服。こちらは恋愛ジャンルを書くと手に入るスカート。こちらはホラージャンルを書くと手に入るお面。二兆種類以上の豊富なアイテムを取り揃えております」
アバターが飾り立てられてゆく。
ベテラン編集者が質問した。
「すべてにアイテム効果があるのか?」
「もちろんです。こちらの服を着ると、フォロワー数が五人増えます」
「どこから!?」
「アイテム効果です。実際は当社の運営するbotです」
「それってただの水増しじゃ……」
新米編集者の声は誰にも届かなかった。
「次にこのスカートは、レビューが八件増えます」
「それは誰が書くんだ!?」
「当社の開発した完璧なレビュー自作アルゴリズムが自動的に作動します」
マリーがアバターにスカートを装備させた途端、レビューが八件増えた。
☆☆☆
とてつもなく面白い。
こんなに面白い物語初めて読みました。
これを読んだことがない人は人生を損していますね!
☆☆☆
最高です。
うまく言えないけれど、この小説はすごい。
みなさんもぜひ読んでみてください。
☆☆☆
すごい。
マジすごい。ぱない。
やばい。新時代の幕開けだ。マジでやばい。
以下、似たようなレビューが続いている。
「こんな明らかに読んでいないことがわかるようなレビュー、もらって嬉しいのか……?」
誰かがつぶやいた言葉に、美少女編集者のマリーは冷酷な笑みを浮かべた。
「今はそのようなお話をしていません。非建設的なご意見を言う方はこの場から退去してください」
マリーが指を鳴らすと謎の黒服が現れて、ひとりの編集者が首根っこを掴まれて引っ張られていった。扉の外から謎の絶叫が響く。
こほん、とマリーは咳払いした。
何事もなく、会議は進んでゆく。
「もちろん、読むことによって得られるアイテムも、効果はさまざまです」
「例えば?」
「小説を百話分読むことで入手できるこのアイテムはすごいですよ、フォロー速度二倍です」
「二倍」
「誰かひとりをフォローすると、アトランダムに選んだ誰かひとりが追加でフォローされます」
場がざわついた。
その反応に、マリーは満足げな笑みを浮かべる。
「このように、主には読むことと書くことによって、どんどんとアイテムを入手できます。もう皆さまはお分かりだと思われますが、これがこのカクヨムサイトを非常に盛り上げることができるはずです」
新米編集者が手を挙げた。
「先ほどさらっと『主には』とおっしゃいましたが、他にはどんな入手方法があるんですか?」
「ガチャです」
場がざわついた。
ベテラン編集者がうなる。
「会社の運営するサイトでそれはまずいのでは……」
「ご心配なく」
美少女編集者のマリーはにやりと笑った。
「当然ながら景品表示法にのっとって、確率表示は徹底させます。SSRの排出を意図的に絞るということはございません」
誰かが「そうか、なら安心だな」とつぶやいた。
ほっとした空気が会議の場に流れた。
マリーは皆を見回しながら、両手を広げた。
「さあ、皆さま! もうお分かりだとは思われますが、これこそがカクヨムをさらに盛り上げるたったひとつの冴えたやり方なのです! これからも力を合わせ、世界一面白い小説を生み出すことになるであろうこの場を、皆さまご一緒に盛り上げていこうではありませんか!」
彼女の言葉は、シンと静まり返った会議室に響き渡る。
そこに、ひとつの小さな拍手が生まれた。
それはさらに拍手を生み、次第に拍手の波はどんどんと激しさを増した。
やがて会議室を飲み込むほどの大きな拍手の渦ができる。
編集者たちは皆、総立ちであった。
「カクヨムバンザイ! カクヨムバンザイ! カクヨムバンザーイ!」
そんな彼らの万歳三唱を眺めながら、美少女編集者のマリーは満足げにうなずいたのであった。
***
二か月後。
総合ランキングトップには、ゴッテゴテに飾りつけられたひとりのアバターの姿があった。
彼がまとう鎧は、レビュー数補正+3000件のSSR。
彼がつけた六対の翼は、フォロワー数増量+七億人のSSR。
そして彼が持つその最強の剣は、カクヨム全サーバーにたった一本しかないレジェンド級アイテム。
効果は凄まじい。PV数+二兆という最強アイテムである。
総額300万円かけて完成されたそのアバターは、頭からつま先まですべてがSSRによってめちゃめちゃ強化されていた。
そんな彼が書いた小説はファンタジージャンルにおいてもぶっちぎりの一位。
PV数はなんと、前人未到の二兆飛んで83PVである。
そのネット史上に残るほどのヒット数を叩き出した小説のタイトルは、『ハーレム最高(爆)』。
連載中の現3話までアップロードされており、総文字数は2743文字である。
業務の一環としてその小説を読んだひとりの新米編集者は、こうつぶやいた。
「クソつまんねえ……」
マリーは首になった。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
カクヨムをさらに盛り上げるたったひとつの冴えたやり方 みかみてれん(個人用) @teren_mikami
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