この度無所属魔獣になりまして。

@kurage9919

第1話「クビ。…出てって」

 この度無所属魔獣になりました。

 突然の魔王主人からの呼び出し。

開けた空間に不釣り合いな大きさの扉をくぐり、紫色の玉座の前に座る。

 外はもう正午過ぎ。

玉座の後ろに設置された窓から投げ入れられた光は、部屋に舞う埃をキラキラと輝かせた。

そんな朗らかな時刻の中、魔王主人はため息をつく事もなく、言い放った。

「お前、クビ」

 魔王主人の低い声が響き、陽の光の届かない部屋の隅に吸い込まれていく。

 「……え?」

僕は項垂れていた首をもたげると、絞り出すように声を出した。

窓の前に立つ魔王主人は、ゆっくりと流れる昼下がりの雲を眺めながら、再び口を開いた。

 「クビ。……出て行け」


 「じゃあ…元気で」

いつも魔王の城の門番をしているスケルトンが空いた両目でこちらを見る。

二つのぽっかり空いた穴の向こうにある暗闇は、心なしか哀れみで満ちていた。

 門が閉まる。

向こうへ消えるスケルトンを見送って、照り付ける日の下を項垂れて歩き始めた。

 天高くから地上を、僕を照らす太陽。

 風が吹き、花の香りを運んでくる。

 城の中に住んでいた時と全く違うその爽やかさを感じて、やっと今の状況を実感した。

余りにも重いその現実が僕の頭にのしかかり、視線を地面に釘付けにする。

首をもたげる力も残っていない僕は、そのまま歩き出した。

 行くあてなし。仲間なし。目的なし。

土に刻まれていく足跡が何の意味も持たないと知った時、この道の先に何を見出せばいいのだろうか。

 明るい空の下、今の胸中を象徴するように僕の足元だけは嫌に暗く揺れていた。

 「……ふ…」

ため息を1つ。

淀んだ中身を吐けども吐けどもそれは晴れる事はなかった。

 それでも、足は止めない。

今止まってしまえばきっともう歩き出す事ができなくなる気がした。

それを恐れるように、僕は体を揺らす。

 空は、相変わらず晴れ渡っていた。

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