七支目*白銀(戌)

「白玉って絶対猫被ってるよね……」




「なんのことですかぁ? 毛では覆われてますけどぉ」



小さい羊姿の白玉がちょこんと座り、小首を傾げる。




「だーかーら! その話し方とか! 白日と戦った時と違うもん!」



「僕、細かいことは覚えない主義なんでぇ。なんのことかさっぱりわかりませんねぇ」



戦っていたときの青年姿と違い、羊姿の可愛さを最大限に活かしている白玉に、雪は腹が立った。



「あっそ! まあ、元気になってくれたみたいで安心したよ」



「拙者のせいで大怪我をしてしまいましたからな。白玉殿には本当に申し訳ない事をした」



「ご主人様のおかげで、この通り元気になりましたよぉ。まあ、まだ完全に回復してませんけど、白日も気にしないで下さい」



白玉はにっこり笑って二人を見ている。本当に大丈夫そうだ。



「主よ。少し宜しいですか?」


不意に白夜が深刻そうな面持ちで、話かけてきた。


「ん? なに?」



「白日と戦った時、どうして印を結べたのですか? 六壬式盤も、主は何も分からないと言っていたのに、何故か発動出来ていましたし」



「それは、わらわも気になっていましたわ!無知だと思っていた君主様が、陰陽師の術を使えるなんて、驚きでしたもの」



「私も、驚きました。お嬢様がまるで別人のようでしたし」



皆声を揃えて、口々に語りだす。



「い、いやぁ。正直、私も覚えてないんだよね……。白玉が死んじゃうと思ったら、必死になってて。勝手に口から呪文が出てきたというか……」




「「「「「「…………」」」」」」




部屋が突如しーんと静まり返り、雪は何かまずい事を口走ったかと、内心焦る。



「主よ。覚えていないと言えば、それで済む問題ではないのですよ? 貴方には覚えて頂きたい呪文や術が、山程あるのですから。知っているなら話が早いと思っていたのに、覚えていないで片付けないで頂きたい」



「……う」



「ねーちゃん。ちょっと見直したと思ったんに、ワイの勘違いだったようやな。一から勉強せなあかんみたいや」



「……ぅう」





「ご主人様……。僕を助けてくれたのに、覚えていないんですかぁ?」



「い、いや、白日が元に戻った所は覚えてるよ!?」



「……と、言うことは、やはり呪文を唱えた所は覚えていないと」




「う、白帝まで……。まあ、そうですね。はい」



「雪殿。覚えていないなら、仕方ないですよ。拙者も覚えていませんでしたし」



「私の味方は今、白日だけだよ……」



「君主様そんなことありませんわぁ! わらわもおりますわ! 本当にわからないなら、わらわが手取り足取り、その他諸々いろんな事を教えてさしあげま・す・わ♡」



「け、結構です!! 自力で頑張りますから!!あ、そうだ! び、白夜! ちょっと教えて欲しいんだけど!!」



雪は慌てて白夜に無理矢理話を振って、誤魔化した。白鳳と二人きりで勉強など、嫌な予感しかしない。



「主よ。勉学の前に、少し気になる事があるのですが。伺っても宜しいですか?」



「え? う、うん」



「主が白帝との戦で見殺しにした……などと、仰っておりましたが。それは、一体どういうことなのですか?」



「……」



「いえ、話したくないのなら、無理に話さなくて結構ですが」



気を遣ってくれているのだろう。白夜は申し訳なさそうに、聞くのを躊躇している。



「……ううん。大丈夫。むしろ、皆に聞いてほしい。私ね……」














それは、小学四年生頃の出来事だった。


雪の通う小学校の近くに河川敷があって、毎日そこを通って登下校していた。



ある日、いつものように授業を終え、河川敷の道を歩いて帰っていたときだった。


一匹の真っ白な猫と、小学生らしき男の子達が猫を追いかけていた。雪よりも背が高く、高学年だろうか。



雪は何やら嫌な予感がしてならなかった。どうしても気になったので、こっそり彼らに着いて行くことにした。




コソコソとバレないように隠れながら近付くと、川の近くで彼らは猫を叩いたり、蹴ったりイジメていた。



(酷い!! 猫だって生き物なのに!!)



雪は居ても立っても居られなかったが、高学年の男子に声をかけられる程の勇気を持ち合わせていなかった。



結局怖気付いたまま、雪は猫がグッタリしていても、助ける事が出来ず、猫はそのままドボンと河原に投げられてしまった。




猫はもがいていた。もがいてもがいて、最終的に静かに沈んでいってしまった。



雪は泣いていた。そして自分を責めた。生きたまま川に流されてしまった猫に何も出来なかった。


ごめんなさい。ごめんなさい。助けられなくてごめんなさい。頭の中で、川に投げられるシーンが蘇る。



男の子達は何処かへ行ってしまった。

雪は誰も居ないのを確認すると、一目散に自宅へと走り続けたのだった。






「と、いうわけです……。私、あの時助けられなかった事、凄く後悔してるんだ」



「なるほど……。辛かったでしょうね。ですが、気にする事はないと思いますよ」



「ありがとう。あ、あとね、私の気のせいだったのかもしれないんだけど……。あの時、猫が一瞬だけ女の子に見えたの」



「女の子……?」



質問したのは白帝だった。



「うん……。白い服を着た女の子で、この前夢に出てきた女の子に似てた気がする」




「白夜。もしかしたら……」



「ええ。猫神ねこがみだったのかもしれません。しかし、夢に出てきたという事は、何か関係があるのでしょうかね?」



「え? ね、猫神って?」



「その名の通り、猫の神様です。しかし何故神格の高い神が、その様な場所にいたのでしょうね」





「え!? ただの白猫だったよ?! 私の気のせいかもしれないし……」



「お嬢様程の力の持ち主が、見間違いなどするはずがありません。恐らく猫神に間違いはないでしょう。猫神様は確かに白猫の姿をしていましたしね」



「だ、断言されてもなぁ。白帝は見た事あるの?」



「昔ですがね。あの頃は猫神様も、人の姿をする事がありました。貴方が仰っていた少女の姿に、ね」


「少……女?」



雪は愕然とした。もしその話が本当なら、やはりあれは、猫神だったのだろうか……。



「私が知っている猫神様は、誰にでも人懐こい優しい方でした。ですが、そう簡単に人間に殺されるような弱い神では無いはずですが……」



「じゃ、じゃあ私の見間違いだったかもしれないじゃない!!」



「そんな……。私の言う事が信じられないなんて……。お嬢様酷い……」




白帝が見る間に暗くなっていくのがわかり、雪は必死に信じるよと言い聞かせた。



「主よ。真実はわかりませんが、貴方が悔やむことはないのですよ。悪いのは、猫を虐めていた少年達です」



「せや! ワイやったら見つけた途端しばいとるで。弱いもん虐めるなんて、下等なもんのする事や」



「白夜……。白虎……。ありがとう」



雪は少し心が軽くなった気がした。今まで誰にも話せずにいた事を、打ち明けられたからかもしれない。



「さぁ、主。猫の事は気になりますが、勉学を再開致しましょう」



「う……。すっかり忘れてたのに。ていうか私の夏休み勉強これで終わるんじゃ?」




折角夏休みに入ったというのに、全く楽しめていない。

こうして白夜による、スパルタ授業が始まったのだった。









「う……ん」



その日の夜だった。なんだか寝苦しくて目が覚めると、六支全員起きていて、何かを警戒していた。



「な、何? みんなどうしたの?」



「主も起きましたか。窓の外をご覧ください」



「ま、窓?」


言われた通り窓を覗くと、月明かりに照らされ何匹もの犬らしき動物が、ギラリと光る目でこちらを見ているようだった。



「な、な、な、な、何あれ?!?!」



雪はあまりの数に後ずさる。



「家には結界を張ってあるので、ご安心を。恐らく、千疋狼せんびきおおかみです」



「せ、せんびきおおかみ?」



「諸説ありますが、肩車を組んで樹上に逃げる人間を襲おうとする狼達の事です。ですが、あと一歩で届かず、毎回失敗しているという噂ですがね」



妖怪について詳しい白帝がすかさず説明に入る。


「な、なーんだ。じゃあ何も心配いらないんじゃ……」



「いいえ。まだ続きがありまして、そこで奴らは親玉の化け物を呼びつけるので有名……あ、呼んでる」




「ぇ、ぇええ?!!」



説明の途中で確かに犬の遠吠えらしき声がした。本当に仲間を呼んでいるようだ。




「確か親玉って、小池婆こいけばばあのことやろ? 元々は化け猫で、大分昔に退治されたって話聞いたことあるで?」




「ば、化け猫?!」


まさか、日中話したあの白猫ではない事を祈りながら、雪は焦る。



「白虎よ。我らの敵は相当力が付いてきているはずです。復活させるくらい他愛もないでしょう」



「せやな。けど、どうせヨボヨボの婆さんなんやろ? んなもんワイがあっちゅー間に叩っ斬ったるで!」




ガッツポーズをする白虎を皆無視して、外に集中している。少し可哀想な気もするが、雪もどんな敵がやってくるのか気になって仕方なかった。




「……来る!」



白夜がそう言うと、狼達の後ろに、何やら大きな黒い影が現れた。



月明かりに照らされ見えるのは、長い白髪を風に靡かせた老婆だ。しかし、それだけではない。下半身は真っ黒な狼と合体している。狼男ならぬ、狼女だ。




「びゃ、白夜ぁ! な、なんかあれ、ヤバイと思うんだけど!」



「ええ。最悪なことに、十二支の白銀はくぎんと、小池婆が一緒になっていますね。引き剥がすのは至難の技かと」




「「ァア゛ぉあぉおぁあぉ゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!」」



小池婆は白銀と共鳴し合うと、こちらに物凄い速さで向かって来る。



「馬鹿め! 結界張ってるというのに。無謀な奴らよ!」




白日が話すのと同時に結界によって、小池婆達は弾き飛ばされる。



「こうしていても解決しませんし、一旦外に出ましょうか」



白夜がそう言うと、皆同意して、次々に壁をすり抜けて行く。




「さあ、主よ。我が教えた陰陽師の術を試すときが来たようです。一緒に参りましょう」



「う、上手くできる保証はないよ!?」



「構いません。我らが貴方の盾となる。練習だと思って力を存分に発揮して下さい」



白夜は雪にすり抜けの術をかける。


ピンチはチャンス! とでも言いたいのか?! こっちは必死なのに! 死ぬかもしれんのに!

色々突っ込みたかったが、無言で白夜の手を取り、雪も壁をすり抜けた。



「「やっと出てきおったかァア。まとめてなぶり殺しにしてくれるゥウ」」



白銀と小池婆は一緒に喋っている。合体しているからだろうか。



「どうやら一心同体化しているようですね。意外と相性いいんですね。このお二人」



「は、白帝、こんな時に何言ってんの?!」




「「呪詛。滅・重・閉・悪・嫌・忌・災・死・終」」


狼女が呪文を唱えると、言葉が文字となり、一本のロープのようになって、雪達に向かって来た。



「この呪詛は! 捕まればじわじわと死に追いやられる呪縛です。皆、急いで結界を!」



「え?! 何?!」



皆結界を張ろうとしたが、白玉と白日は間に合わず失敗し、向かって来た呪詛に縛られてしまった。

雪は白夜に守られたので助かった。




「んまぁ、白玉、白日相変わらず鈍臭いですわね! 何をしてるんですの!」



「貴方達が優秀過ぎるんですよぉ! 僕は守りに長けていますが、この呪詛は印を結ぶより速すぎですぅ」



「白玉と同じく、拙者攻撃専門で、印を結ぶのは苦手でござる。しかしこのくらいの呪詛なら、拙者の力で壊してくれる」



そう言うと白日は、はぁあと力を込めると、血管が切れるんじゃないかと思うくらい真っ赤な顔をして、膨大な筋肉で呪詛をブチンと切ってしまった。



「ぁああ! ずるいですぅ! 白日ぅ! 僕ばっかりこんな目にあってる気がしますぅ!!」



「白玉殿。少し待っていて下され。死ぬ前に助けてあげますから」



「怖いこと言わないで下さいぃ!!」



白玉は泣きながら訴えるが、皆狼女に向き直り、攻撃の体制に入った。



「今回は私が先陣を切っても宜しいですか? 今まで出番が少なかったので」



「なんや、白帝! いつも存在感ないのに、目立とうとするなんてズルイで。ワイやってまだ本気で戦ったことあらへんのに!」




「……やったもん勝ちです」



そう言うと、白帝は素早く馬の姿になると、狼女に向かって駆け出した。



「ちっ。相変わらず速いなぁ。腹立つけど、あいつの速さに右に出るもんはおらんしな。今回は引いてやるわ」




「「馬ごときがァ。ワシの速さに敵うもんかい」」



白帝が狼女の周りにいる狼の悪霊を蹴散らし、消滅させているところに、物凄い速さで襲いかかってきた。


白帝はすかさず避けるが、速さ的には狼女の方が優位かもしれない。




運斤成風うんきんせいふう!!!」




白帝はそう叫ぶと、四肢を交差させ、竜巻を作った。それも、普通の竜巻とは違い、斧の様な形をした竜巻だ。



「「なるほど。それでワシらを切り離すつもりじゃな。じゃが、そう簡単に切らせるかァ」」



狼女はすぐさま印を結ぶと、地面が揺らぎ始めた。


「「回山倒海」」



そう叫ぶと、地面があっという間に持ち上げられ、大きな壁のようになり、風の斧が壁に当たるとがらがらと崩れ落ち、斧も消え去ってしまった。



「一心同体になっているから、白銀の技が出せるというわけですか。腹が立ちますね」



白帝は態勢を整え、今度は頭を左右に振り回した。



苦雨凄風くうせいふう



白帝がそう唱え、振り回しているうちに出来た風が、狼女目掛けて飛んで行くと、風と共に雨が降り注いだ。




「「ぐぬぬ。今度は清い雨でワシを溶かす気か。小癪なァ」」




「その風雨は何処までもお前について行く。逃げても無駄だぞ」



「「誰が逃げるかァ。こんな術、ワシにかかれば容易いもんよ」」



仕切りに雨が降り注ぎ、狼女の体が溶け始めるが、苦しむ様子もなく、更に術を唱え始める。



「「山窮水尽!!」」


再び地面が揺れ始め、鋭く尖った大地が現れ、白帝を突き刺した。



「ぐ……!」



「白帝!!」


雪が叫ぶのも虚しく、白帝はその場に崩れ落ちる。すると、先程まで狼女を攻撃していた風雨がどこかに消え去ってしまった。



「「ふん。やはり術を出した張本人が動けなくなれば、その術は攻撃を継続出来ないようだなァ」」



「見破られたか。油断した……」



白帝の腹部には、尖った大地がそのまま突き刺さり、串刺しのようになっている。血が大量に溢れ出てきた。


「がはっ。はっ」



「「ククク。十二支共よ。哀れだのゥ。仲間が一人でも死ねば、お前らも道連れになるのだから」」




「え……?」



雪は狼女が何を言っているのか、わからなかった。道連れとは、一体どういうことなのだ。白夜達の方を見ると、皆押し黙って俯いている。




「び、白夜! どういうこと?」



「小池婆の言う通りです。我ら十二支は、一支でも欠けてしまえば必要のない存在。つまり消滅するということです」



---そんな……そんな。

雪は目の前が真っ暗になった。折角集まったのに、一支でも死ねば皆消えてしまうなんて!!



「白夜は、知ってたの?」



「勿論。前の主が作った決まりごとですから。我らは一支でも欠けてはならない。欠けてしまえば占う事も、時刻も、方角を知る事も出来ないのですから」



「そんな!! じゃあ、まだ見つかっていない仲間が殺されちゃったら、貴方達は消えてしまうってことでしょう?! 一刻を争うんじゃない!!」



「「陰陽師の娘。お前は何もわかっておらぬ。十二支をそう易々と殺すのは勿体無い。あのお方は良いように利用してから、殺せと仰られた。ワシはそれに従うだけじゃァ。その馬もまだ生きていて貰うぞェ。最後の十二支が現れるまでは、なァ」」



狼女が言い終えると、鋭利な大地がズボリと白帝の腹から抜け、大量の血が吹き上げる。雪は急いで近付き、傷口を確認すると、内臓らしきものが見えた。グロくて直視出来ない。


陰陽師が造り出した生き物でも、ここまで精密に再現されているのには驚きだった。



「白帝!! しっかりして!! 白玉……は捕まってるのか」



「ご、ご主人様ぁ! 僕も、げん……かい、です!」



「我がなんとかしますので、主は早速術を発動してください!!」



雪は自分の腕に傷を付け、白帝に舐めさせた。するとたちまち傷口が塞がり始める。これで一安心だが、まだ肝心の敵が残っている。



「やるだけ、やってみる!! 臨・兵・闘・者・階・陣・裂・在・前! 私の手元に出でよ!」



九字を切ると、手を合わせて集中する。すると手が熱くなり、突然刀が現れた。



「「塵地螺鈿荘剣ちりじらでんかざりつるぎか。陰陽師の娘め。意外と出来るようだなァ」」




「私の十二支達を、死なせはしない!! 絶対に!!」



雪はそう言うと、滅茶苦茶に刀を振り回した。これでは当たりそうもない。



「「ククク。刀を出すまでは良かったが、腕はからきしのようだな。そんな刀でワシに当たるわけが……」」




---ズバンッッッ!!!



それは突然の事だった。完全に油断していた狼女の胴体は、地面に転げ落ちるのであった。



驚いたのは雪だけではなく、六支も呆然とその光景を目の当たりにしていた。



「わ、ワシが……こんな、小娘の、適当な、刀捌きでェエエ……」



最後まで喋ることが出来ぬまま、小池婆は消えた。



「や、やった?」



狼の方を見ると、黒いままで呪いが解かれていないようだ。すると、そこに白玉の呪詛を解いた白夜がやってくる。

雪はほっとすると、握っていた刀が消えてしまった。


「白銀にも主の血を、少しだけ分け与えてやろう」


そう言うと、蛇の姿になり、白銀に絡みつくと、首筋に噛み付いた。白銀はもがいて抵抗したが、血が効いてきたのか動くのを止め、体が発光し始めた。



「……うっ」



「白銀よ。目を覚ますのだ」



「白夜……?ここは?」



「お主も記憶がないようだのう。目の前にいるのが新しい主じゃ。挨拶せい。お主は操られていたのだぞ」



「びゃ、白夜。キチンと説明してあげてよ」



「我は話すのが苦手です。後で主が教えてあげて下さい」



「お嬢様……」



「もー! 私だってどこから説明していいかわからないよー!」



「お嬢様……」



「それから先程の術、素晴らしかったですよ。まさか刀を出現させるとは、思いもよりませんでした。我は聖なる光を出すので精一杯だと見越していたのですがね」




「わ、私は言われた通りにやったつもりだったんだけどね。自分でもビックリした」




「ほぅ。貴方が新しい主人ですか。自分は十二支の十一番目、白銀と申します。忠誠を誓わせて頂きますね」



真っ白い狼は雪にお手のポーズをした。雪はそれが可愛くてつい笑ってしまう。




「可愛らしい主人ですね。気に入りましたよ」



「おーじょーうーさーまー!!」



「わっ! は、白帝! なに?!」



突然大きな声を上げた白帝が、さっきから何度も呼んでいたのだと、落ち込んでいた。雪は必死に謝る。



「私に再び血を分けて頂いて、感謝致します。このお礼はいつか必ずお返し致します故。今度は私の話を……聞いて下さい!」


涙を流しながら、白帝は雪に語りかけるのであった。



「白帝も相変わらずですな。それはそうと、主人。自分の封印を解いた犯人は、薄っすら覚えています」



「だ、誰?!」




「猫神です」










雪は驚愕のあまり、体が震えだした。



「う、うそ……」



「自分は昔見た事がありますから。あの幼き少女を。風貌はかなり変わっていましたが、猫神

に間違いはないでしょう」




「そん……な。やっぱり、私に恨みを……」



泣崩れそうになる前に、白夜が抱きとめた。



「白夜……?」



「一人で泣くのはおやめ下さい。我らが付いている。貴方を守るのが我らの仕事です。泣くなら我の腕の中でお泣き下さい」



そう言うと白夜は雪をそっと腕の中に抱き締めた。雪は白夜の言う通り腕の中で涙を流す。




今だけ。今だけ泣かせて。



あの子が私を襲いに来る……。怖い。だけど立ち向かわなきゃ行けない。私は見捨ててしまったんだ。今度は最後まで見届けなきゃ。




雪はそう心の中で誓うのだった。

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迷い迷える十二支と @thedog

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