六支目*白日(丑)
---女の子がいる。
あたり一面真っ白な風景の中に、真っ白なワンピースを着た女の子が、一人ポツンと佇んでいる。
雪は近付こうとした。
近付こうとしたけれど、足が動かなかった。
足元を見てみると、黒ずんだ無数の手が雪の足をガッシリと掴んでいて、先へ行くのを阻んでいるせいだ。
「やめて!! 離して!!」
雪は必死に、自分の足に絡み付く手を退かそうとした。しかし、びくともしない。
「やめて!! 早く行かないと、あの子が!!」
---あの子が?
ハッとして、女の子がいる方へ目をやると、女の子は泣き崩れていた。
---このままじゃ、いけない。このままじゃ、まずい。
雪は自分でも理解出来ない感情が、体の中に流れ込んでいた。
白帝を助けた時もそうだったが、時折、妙な焦燥感に駆られるのだ。何故そう思うのかはわからなかった。
ただ、時間がないと。頭の中で警告されている気がしてならない。取り返しのつかない事になる前に、敵を倒せと。
次第に雪の足を掴んでいたどす黒い手は、段々と胴体に向かって伸びて来た。
「ぃ、いや!! いやァアァア!!!」
「君主様!!」
突然白鳳が目の前までやって来ると、どす黒い手に向かって炎を吐き出した。
手は忽ち雪から離れ、炎から逃れようとしたが、次第に燃え尽き灰となり、散り散りになった。
---そこで目が覚めた。
「白鳳!! あり、ありがとう!!」
勢いよく起き上がると、すぐ様白鳳に話しかける。
「いいんですのよ。本当は勝手に夢の中に入るのは、大変失礼な行為なのですが、君主様が
「本当に助かった。なんだか凄く怖い夢だったから、白鳳が来てくれて嬉しかったよ」
「ぁああん!! 君主様からその様なお言葉を頂戴するなんて!! わらわは、幸せ過ぎて消えてしまいそうですわ!!!」
白鳳は喜びに満ちて舞い踊っていたが、やがて真顔に戻り、雪に忠告をした。
「君主様。貴女に絡み付いていたどす黒い手は、悪霊の類ですわ。夢の中でも君主様を苦しめ、体の内側から、力を奪うつもりだったのでしょう」
「で、でもどうやって?」
「この間、夜行を倒す前に襲われましたでしょう?その時、君主様に術をかけて消滅したのではないでしょうか」
雪は自分の腕を確認する。白玉の治癒力で、今は綺麗さっぱり何も残ってはいない。
「全然わからなかった。私って、やっぱり陰陽師の才能ないのかも……」
「ねーちゃん、弱気になんなや。ここまで集まったんは、ねーちゃんのおかげやで?」
「び、白虎が優しい!! 逆に怖い!」
「あ゛っ?!! なんやて?ワイは元々優しいやないか!!! こんな姿になってまで主人に寄り添う、従順な僕や!!」
がうっと牙を向けて吠える白虎だったが、ミニマムの虎になっているので、全く怖くない。実は白夜以外、皆手乗りサイズになっている。それぞれ本来の姿や、人型にその時の気分で変化しているらしい。
白帝が増えて以来、さすがに部屋に入りきれなくなってきたので、苦肉の策で、皆小さくなるようお願いしたのだ。
しかし、白夜は反対した。何かあった時、すぐに対応できるようにしたいと説得され、仕方なく白夜はいつもの大きさでいてもらっている。当然白夜以外の四支から反感を買ったが、雪が必死にフォローを入れて、なんとか納得してもらった。
「ほ、本当にありがとね。私、もっと陰陽師について調べてみる」
「主が自ら積極的に協力しようとしてくれるとは……。進歩しましたね」
白夜が驚いたように雪を見ている。
「だ、だって! 変な夢見ちゃったし。なんかわかんないんだけど、早く十二支を集めろって言われたし……」
「分からないとはどういうことですかな?お嬢様。私にもわかるように説明して頂きたい。もしかしたら何かわかるかもしれぬ」
白帝が困ったように問いかける。因みに白帝の人型は、顔の両サイドに肩までかかる髪を垂らし、後ろの髪は一つにまとめてある。顔立ちは優しい印象で、好感が持てる青年だ。ネガティブなのが玉に瑕だが。
「うーん。私も説明の仕様がないんだけど、頭の中で声が聞こえるときがあるの。誰の声かは分からないんだけど、早くしないと取り返しのつかないことになるって言われて……」
「なるほど。私にもわかりませんな」
「結局分からないのかい!! 一体誰なんだろう。夜行を倒した時にも聞こえた気がするんだよね」
「悩んでいても、仕方がありません。しかし、主にそのような警告をしてくるということは、何かしら意味があるのでしょうね。力のある十二支が、悪霊に穢され操られれば、敵陣の方が有利になってしまう」
「悪霊が封印を解けるようになってるっていうのが厄介なのよね……」
雪は溜め息を吐き、ごろんとベッドにうつ伏せになる。途端にギャッと言う声が胸元から聞こえた。
驚いて着ている服を覗いて見ると、白玉が苦しそうに息を吐いていた。
「し、白玉~~~!! 小さくなったからって人の身体に潜り込まないでって何回言えばわかるのよ~~~!!! 変態!!」
「ご、ごめんなさいぃ~!」
雪が捕まえようとする前に、白玉は勢いよく飛び出すと、どこかへ逃げてしまった。もう何度もこうして雪の胸元に潜んでいるので、困り果てているのだった。
*
「ねぇ、雪!! 今週の土曜日は暇? さすがに遊びたいんだけど!」
「う、うん。……あ、ごめん。ちょっと待ってて!!!」
白夜と出会って3ヶ月が過ぎていた。集まった六支は白夜以外、交代で学校まで付き添っている。しかし、白玉は珍しく付いてはこなかった。少し気になってはいたが、そのまま登校し、今に至る。
そして今は香澄に遊びに誘われ賛成しかけたのだが、白夜に怖い顔で睨まれたので、説得するために人気の無い場所へと移動した訳だ。
「ねぇ! たまには私も友達と遊びたいんだけど!」
「主よ。先日、陰陽師について調べると、ご自分で仰ったではないですか。ご友人とお遊び事も宜しいですが、まずはこちらを優先なさって下さい」
「……。い、言ったけど。私にも息抜きってものは必要だと思うんだけど」
「我らの仲間を探す事の方が重要です」
「べ、別に、まだ敵の様子がおかしい訳でも、襲いに来てる訳でもないんだから、いいじゃない!! 私に貴方の我が儘を押し付けないで!!」
自分で言って罪悪感に駆られるが、謝ることが出来ないまま、白夜を置いて教室へと戻って来てしまった。
「どうしたの? 何かあった?」
香澄が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「う、ううん? なんでもないよ。ところで土曜日どこに行く?」
「あ、大丈夫なの?! 私、どうしても観たい映画があってさ〜」
十二支を集めなければいけない。それはわかっている。でもずーっとそればかりでは、気が滅入ってしまう。
普通の女子高生なら、お洒落の勉強をしたり、友達と何処かに出掛けたり、恋をしたりもするはずた。
雪だって普通の女子高生と同じ事をしたいと考えている。しかし、現実はそううまくはいかなかった。
*
約束の土曜日。雪は目一杯お洒落をして、待ち合わせの映画館へと向かった。
白夜とはあれ以来、口を聞いていない。
自室に居れば、気まずい空気が漂うばかりで、雪は逃げるようにリビングに居たり、権蔵の部屋に居たりと、寝るとき以外白夜を避け続けた。
他の十二支達は何があったのかと、心配そうにしていたが、雪はなんでもないと言い張った。
今日も声を掛けずに出てきてしまい、歩きながら溜め息を吐いた。誰も付いてはこなかった。
(謝らなきゃいけないのに。十二支を集めなきゃいけないって、自分でも分かっているのに、つい反抗しちゃった。でもでもでも!! 私だって友達と遊びたいもん!!)
心の中で葛藤していると、あっという間に映画館に着いてしまった。
「雪〜!!」
香澄を探していると、不意に後ろから声をかけられる。
振り向くと白いワンピースを着た香澄が居て、夢に出てきた女の子と被ってしまい、少し戸惑った。
「雪?どうしたの?」
「あ、う、ううん!! なんでもないよ! 香澄が着てる服が可愛いなと思って!! あ、勿論香澄も可愛いよ!」
慌てて誤魔化すと、香澄は少し照れたように微笑んだ。
「ふふっ。そう? この服お気に入りなんだ。雪も可愛いよ」
「あはは。ありがとう。じゃあ、行こっか」
香澄が観たいと言っていた映画を観ることになっていた。
ジャンルはアクション映画だった。香澄は大人しそうに見えるが、意外と恋愛物よりアクション系を好む。雪も恋愛よりこちらの方が好きなので、特に異論は無かった。
上映が終わると、2人は映画館を後にした。歩きながら、先程観た映画を語り合っていた。
「いや〜! 面白かったね! あそこのシーンめっちゃカッコよかったねー」
「うんうん! 私あの俳優さん好きで、ずっと観たかったの! 雪と一緒に観られて良かった!」
お互いに笑い合い、話をしていると、雪はふと高いビルの屋上に目が止まった。
何やら黒い影が見える。それも、人とは違う何か。
雪は妙な胸騒ぎを覚え、不安になった。
(い、今は香澄と遊んでいるんだから! わ、私の気のせいかもしれないし!!)
自分に言い聞かせてはみるが、やはり気になる。もう一度確認してみると、その黒い物体は何処かへ移動して行ってしまった。
(方角的には、私の家だ……。どうしよう……。早く行かなきゃ!!)
「雪?どうしたの? なんか最近変だよ?」
「……ごめん。香澄。この埋め合わせは、ちゃんとするから!! 今日は帰るね!! 本当ごめん!!」
「え? ちょ、ちょっと、雪!!」
香澄に呼び止められたが、雪は振り返らずに走り続けた。
走って、走って、走り続けると、家の近くの空き地で立ち止まった。
そこに……居たのだ。
真っ黒な牛が。
雪が来るのを待ち構えていたかのように。
ギラギラと光る怪しい目でこちらを見ている。ニタニタとよだれを垂らして笑いながら。
普通の牛とは明らかに違う。そして、その牛の上には、蜘蛛のような足を持ち、牛のような角を生やした化け物が乗っていた。
雪は恐る恐る、牛の近くまで寄って行き、乗っかっている化け物に、話しかけてみる事にした。
「あ、貴方、妖怪でしょ。それに、その牛は十二支ね?」
「ゲハゲハゲハ。そうだ。ワシが解放してやったんだわい。見てみろ。嬉しそうに笑っておる」
妖怪はそう言うが、雪はそうは思えなかった。外見は嬉しそうに見えても、中身は本当は苦しいのではないか。本来の姿に戻りたいと思っているに違いない。
「あの。この牛を本来の姿に戻してあげたいの。だから、貴方もこの牛から離れてくれない?」
「ゲハゲハゲハ!! そんな言うことを聞く馬鹿がどこにいる? ワシはお前を殺せと命じられて来たんだ。大人しく死んでもらう」
妖怪は雪をギロリと睨むと、牛にしがみ付いた。すると牛は叫び出し、興奮し始める。そして雪に向かって、大地を蹴って、突進しようとした。
すかさず雪は横に避けるが、牛は旋回すると、再び雪に向かって鋭い角で攻撃してきた。
さすがに雪は避けきれず、勢いよく角にぶつかった。体が宙に投げ飛ばされ、やがて地面に叩きつけられてしまった。
「ぅあっ……!! グフッ。ゴホッゴホッ」
苦しい。……苦しい。息ができない。口の中を切ったらしく、鉄の味が口内に広がる。
---助けて! 誰か助けて! 白夜! 白夜!!
心の中で必死に叫ぶが、助けに来る訳が無かった。あんな事を言ってしまったのだ。自分を何度責めても、悔やみきれない。
---ごめん。白夜。私、貴方の約束守れなかった。
涙が自然に溢れ、目を閉じる。これで最後のような気がした。
牛が直ぐそこまで来ている気配がする。覚悟を決めた時だった。
不意に体を抱きしめられる感覚がした。
驚いて目を開けると、白夜がいた。そして牛が突進するタイミングより少し早く、ふわりと空へと浮き上がった。
「……っ!びゃ、くや」
「来るのが遅くなって申し訳ない。まさかこんなに早く近付いて来るとは、思っていませんでした」
「ごめっ、ごめんなさい。私、貴方の言う通り、仲間を探すの、優先しなきゃ……いけなかった。なのに……ごめ」
途中から涙が溢れて、話せなくなった。白夜の胸に顔を埋めて泣き噦る。
「謝らないで下さい。我の方こそ、貴方について行くべきだった。それなのに、貴方に言われた言葉を、ずっと気にして、近付こうとしなかった。家来として失格です」
「そんなことない。こうしてちゃんと、来てくれたもの。失格じゃないよ。ありがとう」
白夜は抱きしめていた腕に力を込めると、白玉の元へ連れて行き、回復するよう命じた。
「ご、ご主人様ぁあ!! 僕も、貴方に付いていなければ行けなかったのに、ご主人様にヤキモチを焼いて、貴方と距離を置いてしまった……。もうこんな事はしないのですぅ!! ごめんなさいですぅうう!!」
泣きながら必死に謝る白玉は、いつもより大量の毛を毟っていた。そのうち毛が無くなるのではないかと心配だ。
「なんや、ねーちゃん弱すぎやで。ワイ、ねーちゃんが笑ってんのが一番好きなんやで?」
白虎がすぐ側でニッと笑って話しかける。しかし、その目は怒りを孕んでいる様にも見える。
「ワイの主人を痛めつけたんは、許せへんなぁ? 白鳳」
「ええ。たとえ妖怪に操られていたとしても、わらわはご容赦致しませんわ。白帝もそうでしょう?」
「私はお嬢様に助けられたも同然です。一生お嬢様について行くつもりですが、何か?」
「白玉、主を頼んだぞ。我らの力を見せてやろう」
白夜がそう言うと、皆人型の姿になり、それぞれ形の違う武器を取り出し、一斉に牛に向かって攻撃した。
「ね、ねぇ、白玉。皆それぞれ武器なんか持ってたの? いつもは持ち歩いてないよね?」
「ええ。それぞれ神器と呼ばれる武器を持っているのです。普段は邪魔なので、しまっているだけなのですよぅ。神器を持つと、力が増幅するのですよぉ」
「え、今まで白玉以外使ってるの、見たことなかったよ?」
「使うまでの敵ではなかったってことですよぉ。白夜は力が無かったので、武器を出すことすらできませんでしたしぃ」
「そ、そうだったんだ。実は皆強いんだね」
「ええ。特に、白夜と白鳳と白虎は方角を司る霊獣としても有名なのですよ。三支共、十二支の中では上位の強さですから」
なるほど。確かに虎と蛇と鳳凰は、四神としてよく文献でも目にしたことはある。本に乗っているくらいなのだから、強いのは確かなのだろう。
雪は四支の戦いに目をやると、凄まじい轟音と、閃光が放たれていた。しかし、牛もしぶとく四支に向かって突進を続けている。
「こいつは力があるから厄介やなー。白帝の時より面倒いで」
「面倒な馬ですいませんね」
「あー。はいはい。やっぱお前も面倒やな」
「ひどい……」
この2人が絡むと、なんだか漫才をしているようだ。
「面倒事は嫌いだ。とりあえず、白虎、白鳳。我らの力を合わせて
「わかりましたわ。白夜、白虎、行きますわよ」
三支は印を結ぶと、武器を重ね合わせた。
すると武器の先端から、とてつもない勢いで、雷のような閃光が牛鬼目掛けて飛び出した。
牛鬼は声を出す事も、逃げ出す事も出来ないまま、閃光を浴びて跡形もなく消滅した。
残ったのは、悪霊に侵食された、白日だけだ。
白日はターゲットを雪に絞ったらしい。突然こちらを振り向くと、一目散に駆け出した。
すかさず人型に変化した白玉が神器を取り出し、雪を守る。
ガキィンと、けたたましい音ともに、白日が一瞬怯む。
「僕のご主人様に手を出した事、後悔させてあげますよ。白日、いい加減目を覚ませ」
雪はあれ? と思った。白玉がいつもの雰囲気と話し方が違う気がする。
「いつも回復ばかりだけど、今回は違いますよ。四神には敵いませんけど」
白玉はにっと笑うと、槍を構え白日に突き入れると、腹部に突き刺さった。
白日は苦しみ出すと、のたうち回り、凄まじい叫び声をあげる。
「ギィィイイイイ!!」
「白日。悪いけど、君が正気に戻るまで、僕は攻撃を止めないよ」
白玉の表情がいつもより真剣で、今までの敵とは訳が違うということがよくわかった。
でも、白玉にこんな強い白日を倒せるのだろうか。今までの戦いを見てきたが、雪は不安だった。
白玉は、印を結ぶと武器に向かって術をかけた。すると、槍が光り輝き変形し始め、弓の形に変わった。
「これがこの武器の本来の姿、
「白玉! それは最後の砦……。そこまでしてお前は主を……」
「え?! 何?! どういうこと?」
「ねーちゃん、その武器はなぁ、一時的に己の力を最大限に引き出してくれる神器なんやけど、使ってしまうと、力が無くなって回復まで時間がかかるんや」
「え!! じゃあ、この力が使える間に敵を倒せなかったら……」
「ただの人間と同じ……。何も出来なくなります」
白虎が俯いて話さなくなってしまった代わりに、白夜が話す。
「そんな!! そこまでしなくても、白夜達がいるじゃない!」
「嫌なんです!! 僕はご主人様を回復する事しかしていない。いつも白夜達に守られてばかりだ。僕だって、貴方に頼れる番人でありたい!!」
そう言うと、勢いよく白日に弓を放った。
しかし、白日は頭を振り回し、白玉の放った弓を弾き飛ばした。
「くっ!! やっぱり、僕は……」
強靭な弓矢がアッサリ地面に落ちてしまい、白玉は急いで新しい弓矢を放とうとしたが、出来なかった。
白日が物凄い速さで突進してきたのだ。
「ぐ……。あ、ぁあっ!!」
そのまま地面に叩きつけられた白玉の上から、白日はのし掛かってきた。白玉は身動き一つ出来ないまま、もがき苦しみ、口から大量の血が溢れていた。
「白玉!!」
「お待ち下さい、主。今近寄ると大変危険です」
「嫌だ!! 白玉が死んじゃう!!!」
白夜が雪の行く手を阻んで、白玉の元へ行かせてくれない。
「我らがなんとかします。貴方は見守っていて下さい」
「嫌っ!!! 私……。私、もう誰かが死ぬのをもう見たくないの!! 私は、見殺しにした……。あの時みたいになりたくない!!!」
そう言うと、雪は白玉の元へ駆け出していた。十二支達が必死に呼び止めるのも聞かずに。
白日も勿論雪の気配に気付き、角から黒い球体を作り出し、雪に向かって投げつけた。
雪は自分の手を構え、印を結び、唱え始めた。
「臨・兵・闘・者・階・陣・裂・在・前!!」
九字を切ると、雪を中心として、地面に不思議な円盤が浮かび上がった。同時に黒い球体が弾き返される。
「これは……!
「四支よ!! 力を分け与える!! 私の所へ集ま れ!!」
雪が叫ぶと、白夜・白鳳・白帝・白虎は呼応するように同時に動き出し、円盤の中へ入ると、それぞれの位置についた。
「白日に取り憑いている、悪霊を浄化する。貴方達の力を貸してくれ!」
「「「「承知!!」」」」
四支は声を揃えると、手を合わせる。雪の体が発光し出すと、円盤が四支達に向かって光の線をなぞって行く。
すると、四支達も雪と同じように光始め、手の中に光が集まり始めた。
そして白日に向かって、四支は眩しいくらいに輝く光を放つ。
「ぐぅううおぉおおおおおおお!!!!!」
苦しそうに暴れる白日を皆、固い面持ちで見守っていた。
やがて暴れなくなり、白日を纏っていた悪霊の呪縛がドロドロと解け始め真っ白い牛の姿に変わった。
「ぅ……。拙者は……。今まで何を……。ここは?」
「白日よ。悪霊に取り憑かれた記憶が無いのか?」
「そ、其方は白夜殿!! 外に出られたのか!?」
「ああ。お前は封印を無理矢理解かれ、敵にいいように使われていたのだ」
「白日! 貴方、君主様の事を傷付けたのですよ!! 謝りなさいませ!!」
「な、なんと!! 謝るだけでは気が済みませぬ!!! 拙者、切腹でも、自害でもなんでもよい!! 死なせて頂きます!!」
白日は体が光り出すと、人の姿に変わる。
外見は、厳つい体つきに、長い前髪を、サイドに分けて、後ろはポニーテールにしている。
目は三白眼で、面長な顔で、一見強面なように見えるが、内面は優しいらしかった。
「ぇ、ぇえええ?! そ、それは困るよ!! 折角集まった仲間なのに!!」
「ですが……」
「いいから!! 切腹も自害も殺されるのも、絶対ダメ! 私の命令!!」
雪は、白日に向かって指を突き立てる。白日はははー! と言って、頭を下げた。
やはり主には逆らえないらしい。そこで白玉の安否がまだだったと思い出す。
「白玉!! 白玉は!?」
急いで白玉の元へと駆け寄ると、羊の姿に戻っていた。血を流したままピクリとも動かない。
「白玉!! 白玉!! 目を開けて!! 死なないで!! ……ぅっ」
白玉の顔に涙がポロポロと溢れ落ちる。自分のために必死に戦ってくれたのに。結局助ける事が出来なかったのか。
雪はそっと白玉の髪を撫でると、ごめんなさいと謝った。
「ご主人様……。謝ること、ないんですよぉ?」
「し、白玉!?」
「ご主人様の涙、美味しいです。ふふふ」
白玉はむくりと起き上がると、自分についた汚れをぱんぱんと叩く。
「ど、どうして?」
「お嬢様の涙が、偶然白玉の口に入ったのでしょう。それで少しではありますが、回復出来たのでしょう」
珍しく白帝が解説している。しかし、納得出来るかもしれない。涙は血と同じ成分と聞いたことがある。白夜同様少しでも、効果が出たのか。
「よ、よかった〜〜〜!!!」
「く、苦しいですよぅ。ご主人様ぁ」
雪は泣き崩れながら、白玉を抱きしめる。そんな雪をぽんぽんと宥める白玉なのであった。
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